第181話 この騒動の発端になったと思われる悪魔を!!

「待て、物分かりの悪い人間たちよ。我輩と堂々と話し合いをしようではないか」


 クリスとの正体も明らかになった次の日、今度は俺の屋敷にて、バニルが束縛魔法バインドにより、両手を縛られ、絨毯にひざを下ろしていた。


「白々しい悪魔ね。あんたカズマから貰った知的財産権を闇で転売して、すんごく儲けたそうじゃない」

「予言が得意なあんたならこんな末路じゃなく、平和的な解決も知ってたんでしょ?」


 あのアクアの説教にも逆らわず、言いなりになっているのは自分の身を案じているのか、それとも迎撃体勢がとれないからか?

 アクアの女心もだが、悪魔の考えていることも正直分からない。


「バニルさん! 店主の私がいない時に何をやらかしたのですか!」


 ウィズがバニルを問いつめようとするが、半分はこいつに恐れをなしているような感じである。

 まあ、バニルにあれだけ上から目線でこきつかわれたらな。


「ああ、どうすれば! 金庫にあったあの大量のお金が、実はカズマさんから得た権利を売ったお金だったなんて……!」

「返したくても、もうお金がないのに……!」


 相変わらずなウィズの貧乏状況に今まで大人しかったバニルが反応する。


「おい、貧乏店主よ。金庫に入れていたお金はそう簡単に使いこなせる金額ではないぞ」

「ああ、あれはですね、バニルさん。私のお得意さんが大量のマナタイト結晶を持ってきまして、今なら半額以下という安値で金庫のお金全額と交換できるからと言われて、即決で買っちゃいました!」

「今回はとても素敵な買い物をしましたね! 久々に商売人としての血が騒ぎましたよ!」


 マナタイトとは数に応じて魔法を一度だけ放てる結晶だが、高価であり、しかも使い捨て。

 魔法もろくに覚えてない駆け出しの冒険者がわんさかいるこの街には利用価値などない。


 バニルも俺たちもギャンブラーのようなウィズの手際の良さに完敗していた。


「それはいいとして、お前に聞いてみたいんだが、ダクネスの親父さんは悪魔に呪いをかけられたらしいんだけど……」


 俺は絶望で砂人形となったバニルに話を戻す。


「……この街には悪魔はお前しかいないじゃん。だからお前をこうやって縛っているんだけどさ」

「フハハハハッ!」


 俺の質問に砂から復活したバニルが笑い出す。  


「我輩が人の命を奪う呪いなどかけぬわ。あの呪いは、毎度ながらおかしなことを言い、頭のネジがいくらか足りないくらいに壊れた有名な大悪魔のやり口である!」

「それ、お前が犯人と暴露してるようなもんだぞ」


「やっぱりお前の仕業だったか……」


 話を小耳に挟んでいたダクネスが指の関節を鳴らし、体がゆらりとバニルの方へと揺れる。


「貴様の悪巧みにより、父は……」

「待て、今回はこんな件になったのは我輩の責任でもある。領主から花嫁を奪い去る悪の感情を食したかったことは認めよう」

「だが、目の前の男が気になって屋敷内を薄着で徘徊するのに快感を覚えたそこの娘……」


 アクアとウィズが逃げないように強引にバニルの腕を組む。


「えええーい、父のカタキだあー!!」

「こらっ、仮面の中にタバスコを入れるな。しかも貴様の父親はまだ健在だろーが!」


 ダクネスがタバスコの入った容器を持ったまま、バニルの仮面を剥がそうとする。

 彼女の暴行にアクアもウィズさえも止める者は誰もいなかった。


「カズマ、黒幕はバニルと分かったみたいですし、今日の爆裂魔法コーナーに付き合ってもらえますか?」

「めぐみんも何か料理番組のユーチューバーみたいなこと言うようになってきたな」

勇中部ゆうちゅぶ?」

「名前っぽい響きも何だかなー……」


****


「そういえばカズマにはお礼をしてませんね」


 めぐみんと無言で山への遊歩道をいく最中、彼女の方から口を開いてきた。


「何だ、布団に世界地図を描いた所を近所の子供に見られ、からかいから口喧嘩になり、小心者のお前の代役として仲直りのしるしに、その子の母ちゃんにに○かせんぺいを持っていって謝りに行ったことか」

「違います。何でそうなるのですか!」


 強がりもいいが、たまには喧嘩に負けてもいいんだぜ。


「カズマにはダクネスを助けてくれたというお礼が言いたかったのです」

「まあ、あいつもそれなりに役に立つし、そう簡単に俺のパーティーを抜けたら困るからな」

「それにお前らの尻拭いにも慣れてきたからな。どうってことないぜ」

「いえ、そう思っていてもですよ」


 めぐみんがマナタイトの宝玉が付いた杖を上空に向ける。


「文句を言いながらも最後は助けてくれる。私はそう言うあなたが好きなのかも知れません」


 世間話的な感じで言ってきためぐみんの告白に俺の頭の中が空白になる。


「えっ?  何のつもりだ? それは俺に対しての告白と受け止めていいわけ?」

「どうぞ、ご自由に」


 この娘、本気で言ってんの?

 こんなことを言ってくるにはダクネスを助けたことからだろうけど。


 あの時の俺は意外とイケていたのかも知れない。

 いや、めぐみんとも一つ屋根の下で暮らしてそれなりの付き合いにもなるよな。


 そうなんだ、筆者も読者も気づいていたはず。

 こういう状況で今までハーレムにならない方がおかしかったんだな……。


 なら、さらりと告白するんだ佐藤和真さとうかずま

 めぐみんの気持ちに答えるんだ。

 今ならどんな下手な告白を言っても断れることはない。

 目を閉じてイメージしても、百パーセント成功の道のりが見える。


 今日から俺は海鮮王ではなく、リア充王になる!


「そうだな。めぐみんの気持ちは嬉しいさ。俺もめぐみんのこと好きなのかも……」

『エクスプロージョンー‼』


 大きな爆音が俺の勇気ある告白を打ち砕いた。


****


「カズマ、ねえカズマ?」

「……」

「カズマ? さっきから何で機嫌が悪いのです?」


 背中にかるったカルガモめぐみんが俺にしつこく話しかける。


「私が魔法を唱える時に何か言ってましたよね? またセクハラ発言ですか?」

「いや、何でもないぜ。お前のことなんて何も思ってないからな!」

「何でツンデレモードなんでしょうね?」


 えええーい、もう俺はお前の言葉には騙されないからなー!


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