第20章 女神エリス感謝祭に対抗しようとする女神アクア
第180話 この義賊のお願い事を断り切れない俺を‼
「ここに何しに来たのですか、エリス様」
クリスが固まったまま、その場から動こうともしない。
ダルマさんが転げた!
「エリス様じゃないよ、クリス様だって!」
冷や汗をかいたクリスが挙手して、エリスではないことを強調させる。
何を動揺してる、クリスの方にも語尾のご飯粒、様が付いてるぞ。
「いやいや、どちらにしろ、ドングリの背比べですよ」
前からクリスの言動が気になっていたことは確かだ。
俺のパーティーの中でアクアだけさん付けだしな……。
「あたしはアークプリーストのアクアさんに熱い信仰心を寄せているからね。彼女を呼び捨てにするわけにはいかないよ」
「いや、俺の目が腐っても誤魔化せませんよ。エリス様って困っている時は今のように頬を掻く癖がありますよね」
俺は彼女という女神を長年から見てるからな。
それだけ死んだ数も多いけど。
「もう一度質問ですが、ここに何しに来たのですか?」
「ふふっ。流石、名探偵カズのオトシゴさん。あなたの予想は正しいです」
オトシゴ?
俺は確かにこの世界に落とされた子供でもあったが……。
(こんな時だけ子供になる男)
「普段は何てことのない冒険者、そして裏では義賊のお頭、そんでもってダクネスとの友人でもあり、あたしの本当の正体は……‼」
クリスが歌舞伎役者のごとく、ゆるく演舞をするように開いた両手を前に突き出す。
バックの絵柄は日光に照らされたきらびやかな富○山がお似合いだ。
「前振りが長いし、妙にテンションも高いですね、エリス様」
「カズマさんは意外にもクールですね」
そりゃ、クールビューティフル(自称)で通った男だからな。
「……はあ、とうとうバレてしまいましたね。こうなったら全てを教えましょう──」
クリスが俺のいるテーブル席に大人しげに座り直す。
「カズマさんの推理通り、私の正体はエリスです」
「やっぱそうだったんですか」
俺の推理がストーカー行為にならないことを祈るぜ…… 待てよ、彼女には多少のセクハラ疑惑があったな……謝るなら今しかない!
「だったら初対面の時にエリス様の下着を持って調子に乗り、街中を走り回ってしまい、すみません」
「それから屋敷に忍び込んだ時にエリス様を捕まえる時にスレンダーな体をワシワシと触ったこともすみません」
「あぁー! そのようなことはもう忘れて下さいー!!」
気が動転したクリスがテーブルを叩き、正面にいる俺に顔を寄せる。
衝撃で横に倒れた空のコーヒーカップには恥じらいの感情しか含まれていない。
「とにかく、この姿の時はクリスと呼んで下さい。後、敬語も使わずに今までのようにフレンドリーな関係でいきましょう」
「まあ、エリ…… クリスがそう言うなら」
その方が俺も気楽だしな。
「所でクリスは何でわざわざ地上に来てるの? 見た感じ遊んでいるようにも見えないし」
「うーん、そうだね。神器探しをするのが主な理由かな」
──神器とはこの異世界に旅立つ人が貰えるチートアイテムのことであり、何らかの理由で持ち主を失った神器を回収して、新たにこの異世界に来た人にそれらを与えるのがエリス様の役割だとか……。
それを回収しやすいように身軽な格好で、神器探しに便利なスキルが色々と使える盗賊の職業になったらしいが……。
「それから、『仲の良い仲間が欲しい』と、毎日祭壇で祈っていたお嬢様と友達になることかな……」
なるほどな、ダクネスはエリス様の教会で『冒険者の仲間が欲しい』と毎日願っていたとダクネスの親父さんが喋っていたよな。
「毎度ながら、エリス様って優しくて絵にもなる女神ですよね」
「ちょっとエリス様とは言わないでって!」
恥ずかしさのあまりか、クリスが両手を前に出して大きく横に振る。
「あたしもダクネスと冒険するのは楽しかったよ。でもあたしの正体はあたしたちだけの秘密だからね?」
顔を真っ赤にさせて、俺から顔を反らすクリス。
エリス様と中身を知ったら、彼女の一連の動作が可愛く見えて仕方ない。
食っちゃ寝するならまだしも、酒をガバガバ飲んで、グースカと大きなイビキかいて寝るおっさんみたいな女神とは比べもんにもならないな。
「それからさ、エリス様とクリス、どっちの言い方と性格の方が素なんだ?」
「うーん、そうだね。エリスとクリス、どっちの私が好みかな?」
「どっちも大好物ですよ」
「おっ、おう……。多少、セクハラオヤジくさい返し方だけど、即座に言ってくるとは思いもしなかった」
クリスがしどろもどろになりながらも真面目に返事を受け止める。
「キミってこういう真面目な告白の時には戸惑いくらいするものだと思っていただけに……」
「いや、男の娘みたいなお頭に、淑女らしい癒し系のエリス様、どっちも引けを取らないと言うか。まあ、日替わり弁当みたく、クリスとエリス様と交互になれば、実質的には、二人と付き合うように見えて」
俺はいつもより顔面偏差値をアップ(あくまでも妄想)させて、クリスに爽やかな笑みをぶつける。
「そんなわけで一人ハーレムが可能なクリエリ、俺と付き合うことに……」
「もう、最低! キミってどこまで女たらしなんだよ!」
男はハーレムに期待して、なんぼな人物だからな。
余談だが、みたらし団子が食いたくなってきた。
「ほんと、隠していた正体が判明されて気分的にも盛り上がる展開だったのに」
「それでお茶会と言うのは名ばかりで、俺をここに呼び寄せて何のつもりだ? 同じ付き合いでも、また神器探しの方、付き合えの流れでは?」
「ああ、流石、助手君だね。話が早くて助かるよ」
クリスが両手を握り、みるみると明るい……いや、分かりやすい表情になる。
──今、クリスが探しているのは
「いや、何も知らんし、何も聞いてないぞ、俺はぁぁー‼」
俺は椅子から飛び出し、クリスから逃げようとするが、クリスからマントを摘ままれる。
「危ない橋の探索ならごめんだぜ!」
「めぐみんやダクネスともいい感じの関係になってきたし、金もあるから、このまま美少女とラブラブしながら退廃な生きざまを過ごしたいんだ!」
「何なのさ、キミ、ついさっきまであたしと付き合おうとかいった分際で!」
何とかクリスから逃げようとするが、そこは力と権力のある女神だけあり、マントを握られたまま、一向に振りほどけない。
「どうしても行かない?」
「この身が裂けてもいきません」
いやいや、裂けるのは股でもなく、サキイカだけでごめんだ。
クリスが息を微かに漏らし、残念そうにするのが、彼女の顔を見なくても分かる。
「……サトウカズマさん、お願いします」
急に丁寧な言葉で語りかけるクリスになり、俺は無意識にそちらへ振り向いた。
「この世界のために力を貸してはもらえませんか?」
クリスが両手を目の前で組んで上目使いでお願いする姿に、あのエリス様の姿と見事に重なる。
そんなお嬢様な女神の物腰で言われると、一人の男として断り切れない……。
エリス様、やり方が卑怯ですよ……。
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