第179話 このお頭の言動から女神の仕草を‼
「──そんなわけで今回も色々あってさ」
アクセルの街にある小さな喫茶店で俺はクリスと優雅なお茶会をしていた。
「その後でダクネスが実家に完全に引きこもりモードになってさ。高難度クエストで盾がわりにならない味方がいないから大変な毎日だよ。まあ、また屋敷に乗り込めば丸く収まるんだけどさ」
「……キミって本当に鬼教官みたいだよね」
ダクネス関連の話題に花が咲く中、クリスが丸テーブルに肩肘をのせ、呆れながら大きくため息をついた。
「あのね、ダクネスは確かに硬いクルセイダーで強そうなイメージがあるけど、中身は繊細で傷つきやすいんだからね」
「ああ、分かってるさ。そういうクリスこそどこで何をしてたんだよ? 王都からここまで来るのに時間かかりすぎだろ。段ボールでキャタピラー走行でもして這いずって来たのか?」
「えっ? えっと……まあ、前進はしてたんだけど……」
クリスが頭をがさつに掻きながら、焦った表情になる。
「いやあー、最近ドタバタで忙しくてね。一度はこのアクセルの街の近くまで来たんだけど、緊急の用事ができちゃってね」
「色々と後始末に追われていて、やっとここに来れた感じかなって」
クリスの説明に無理があるのは俺の思い込みか?
「緊急って何だよ? 盗賊関係の仕事の依頼か?」
「そうだね。人が死ぬと色々あるんだよ」
「へっ? 救急車の真似事でもしてんの? しかも人力で神輿を担ぐようにして?」
「いや、死んでるから救急車になってもしょうがないじゃん。しかも何かな、人力って?」
確かにここは葬儀屋で霊柩車の方が正しいよな。
こちらもエコのために人力の予定だがな。
(設計者カズマは語る)
「でもさあ、探していた神器を二つとも領主が持っていたとはねえ」
どうやらこの前、領主の屋敷に忍び込んだ時はアクアの持っていた羽衣の神器と反応がダブっていたらしい。
「もう一つの神器はランダム召喚したモンスターを意のように操れると言っていたけど、あのおっさんはそれで何がしたかったんだか」
「うーん、どうせロクでもない使い方をしたんだと思うよ。例えば『おい、家来、泥で汚れた靴を自前のハンカチで綺麗にしろ』とか」
いや、靴くらい自分で洗えるだろ?
幼稚園児でも、歯ブラシで細かく洗うわけでもないし。
「まあ、これでこの件も完遂だね。ダクネスを救い出してくれてありがとう、助手君」
「……と言うことで今日は助手君の奢りで盛大にカンパーイ!」
「良いですよ。神器のことを知ったのも鯛のお頭のお陰でもありますし」
俺とクリスはコーヒーカップを手に取り、祝勝会のような気分でホットコーヒーを一口飲む。
ほろ苦くて上品な大人の味がする。
俺の味覚はお子様だから、変にカッコつけないでカフェオレにすれば良かった。
「はあ……でもね、神器は他にも沢山あって一人じゃあ探すのが大変なんだよね」
「ねえ、助手君、キミにお願いがあるんだけど……」
「一人炊飯ジャーの所すいませんが、ここは行けないと先手を打たせてもらいます。俺も色々と忙しい身ですから」
いくら美少女の頼みでも、ここでビシッと言っとかないと、また悲惨な目に遭うからな。
「じゃあ、バイト料を弾むからさ」
「いや、金には困ってないからパスかな」
クリスが困った顔で頬を掻く。
「全く、お金にも釣られないなんて、キミもしょうがない人だなあ」
クリスが席を立ち、ウィンクして笑いながら俺に一言付け足す。
俺、そんなに金に飢えてるように見えるのか?
「その内、強制的にでも手伝わせるからね?」
……あれ?
今の母性愛に満ちた笑顔に、困ったら頬を掻く姿……どこかで見たような気がしてならない。
俺はそのクリスの姿に親近感を抱いていた。
それにクリスはダクネスやめぐみんは呼び捨てで、どうしてアクアだけさん付けで呼ぶんだ。
それからあの人と名前も似ているし、髪も瞳の色の同じだよな。
クリスとは裏腹にあの人はアクアを先輩と呼んでめぐみんにはさんを付ける。
でもダクネスのことを呼び捨てにするのはダクネスが親友だからでは?
複数の仮説が一つの結論に繋がった名探偵コバンな俺は自然体でクリスに接することにした。
「そうそう、エリス様。領主から回収した神器はその後でどう調理したのですか?」
「あはは、神器を食べるだなんて助手君も面白い発想だね。それならヒュドラが眠った湖の底で厳重に封印して隠してある……よ?」
「……って、あっ」
クリスが俺の巧妙な尋問にかかったことに気づき、二人の間を沈黙が支配した……。
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