第178話 ダクネスお帰りなさい!(2)

「そうだぜ。あの言葉もほんの冗談さ! もう昨日の花嫁劇自体、全部忘れてしまおうぜ!」


 俺が懸命に弁解する中、隣を挟んだアクア年少組が腕組みしながら、俺に軽蔑な視線を送ってくる。


「そうなのか……」


 しかし、ダクネスはなぜか落ち込んでしまっていた。

 もしや、俺と一緒に手作りの人力飛行機で愛の逃避行がしたかったみたいな告白のフラグか?

 俺はバーカ悶々とした気分でダクネスの次の言葉を待ち望んだ。


「あの……私をパーティーから除外してと書いた置き手紙のことだがな……」


 何だ、流し素麺ならぬ、そちら方面か。

 ダクネスの気持ちの中では俺らのパーティーを抜けたと解釈してるのか。


 それで昨日のことをチャラにしたら身体で払うと言ったこともなかったことに……。

 脳筋のわりには意外と考えてやがる。


「ダクネス、気に病む必要はないですよ!」

「ウチの大事なクルセイダーを離すわけがないでしょ」


 落ち込むダクネスを励ますように、笑顔のめぐみんがダクネスの腕を優しくとる。


「そうそう。ダクネスの居場所はここなんだからね!」


 もう一方でダクネスの空いた腕を掴むニコニコ顔のアクア。


 あっ、お前ら俺の天下取りならぬ、イカした台詞をぶんどりやがって。


「で……でも……。私はあの……」

「ダクネス。お前の本心を言えよ」


 俺の問いかけに対して、おどおどと口を開くダクネス。


「あ、あの! 私は攻撃もまともにできなくて硬いだけのクルセイダーですが……」

「もう一度、私をこのパーティーに入れてもらえないでしょうか……?」


 深々と頭を下げたダクネスからの精一杯の言葉を受け止める俺。

 俺の中でも彼女への答えは見つかっていた。


「今さら何を言ってんだよ」

「お帰りなさい、ダクネス」


 よほどのことなのか、ダクネスが嬉しそうに俺たちに微笑んだ。


「た……ただいま」


 こうして俺たちのパーティーにダクネスが再度加わった。


****


「ねえ、カズマ、正直に言いなさいよ。ダクネスに身体で払ってもらうって言ったこと、実はあっち系のこともするつもりだったんでしょ?」


 はあ、部屋に入るなり、この女神は何の話を振ってくんの?


「ゆんゆんとの子作り計画にあっさりと頷き、王女様に兄扱いされてデレデレしたり、紅魔の里では寝ている私に手を出したりと、チョロくて鼻の下を伸ばすのにもほどがありますよね」


 めぐみんも何を言ってんだ?


「私もカズマが屋敷に侵入してきた時に一線を越えそうになったぞ」

「おっ、おい! 俺は踏み越えてないだろ!」


 心のボーダーラインは何とか制御できたんだぜ。

 それなりに紳士な男として見てほしいぜ。


「あなたってとんだマヌケね。何を考えているの? 私たちはダクネスを連れ戻すためにカズマが遠くに旅立っても念入りに作戦を立てていたのに……」


 おい、俺は死んだ予定に入っていたのか?


「この男は連れ戻すのはフリだけで夜這いに行ったのですか!? 男としても最低のクズですね!」

「そうだな、深夜に私の部屋に入ってきて、私が叫ぶ暇もなく口を塞ぎ、ベッドに押し倒され、さらに荒い息遣いでお腹までも触られて……」


 ああ、確かに話の筋は合っているんだが、もう俺の純情を弄るのはやめてくれ!


「カズマがダクネスをそんな色目で見ていたのは承知してましたが、女ならば誰にでも手を出すチャラ男だったとは‼」

「待て、落ち着いて話を聞け、めぐみん闘牛士!」

「私にも気があるフリを見せて、ただ猿のようにやりたい盛りだったのですね」


 めぐみんがマナタイトの杖を攻撃対象となった俺の方へと合わせる。

 何でそこにお前の好感度を左右するパラメータが降ってくるんだよ?


「ああ、何と言うことでしょう」

「大昔の恐竜時代から私とカズマが馬小屋で寝ていた頃、このオオカミもどきは私のセクシーな体を密かに奪おうとしていたのね!」

「いや、お前年増のオババだし、それは絶対に死んでもありえん」


 俺は手を左右に手を振り、熟女派ではない反応を示す。


「何でそうなるのよ!」 


 耳さえも年増なアクアが俺の好みにガブリチョと食らいつく。


「フフッ」


 俺と仲間とのやり取りに含み笑いをするダクネス。


 ちっ、ダクネスめ、ようやく元の調子に戻ったか。

 昨日まで、あのおっさんとの結婚の件でギャーギャーと機械獣のようにわめいていたのに……。


 ……あれ、ちょっと待てよ?


「なあアクア、一つ聞いてもいいか?」

「ええ、私の分かることなら」


 アクアがドヤ顔で胸を叩くのを自然にかわしながら気になる質問をする。


「この国のさ、結婚での入籍とかどんな感じなの?」

「ああ、それね。式を挙げる日の朝に入籍の書類を役所に提出して、それからお昼頃から結婚式をするように……はっ!?」


 アクアが喋るのを止めて、何かの重要さに気づくまで数秒もかからなかった。

 真剣な顔つきになっためぐみんも同様のようだ……。


「何だ? みんなして急に黙りこんでどうしたのだ?」


 無垢なダクネスだけが俺たちの不穏な空気を感じ取るが、本質は見抜けてないようだ。


「まあ、最近はバツイチなんてどうってことはないですよね! 自分が好きで選んだ道ですし!」

「ええ、全くだわ。おほほっ」


 二人の会話を耳にしたダクネスの顔か血の気が薄れる。


 お嬢様なのにマゾとか、初めてもまだなのにバツイチとか。

 この女はどんだけレアな属性を生んでいくんだろう。


「……と言うことは、式の途中で拐われたダクネスは次の日に新郎が夜逃げとなると、周りの目からじゃあ、ダクネスがあのおじさんに捨てられたことになるわよね」


 さあ、初日から捨てられた女はに。

(琵○湖)


「まあ、結婚の籍替えくらいで気にすんなよ。なりふり構わず、お前はこの呼び名を胸に刻んで生きていけばいい」


「……なあ、よ」


 俺は黄泉の国より、生まれ変わった女の名を呟いた。


「うわああああーん!!」


 ダクネスはバツが悪そうに両手で顔を覆い、一目散にこのリビングを出ていったのだった……。

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