第173話 このクルセイダーの花嫁姿に祝福を‼(5)
街の空に舞い上がる大きな黒煙。
あれだけの威力に関わらず、俺たちはかすり傷もなく、無事のようだ。
「ふう、やれやれだぜ」
最大限の攻撃、最小限の被害。
空に向かって爆裂魔法を撃つなんて、プロな手口なめぐみん先生もよく考えていらっしゃる。
「ねえ、クズキリクズマさん」
「折角、男らしくダクネスを助けたのはいいものを、その相手を盾にして隠れるなんてクズ以下なんですけど」
アクアがめぐみんを支えながら床に伏せている俺に蔑んだ言葉を下す。
ダクネスはというと危機を感じた俺により床に投げ出され、お嬢様座りで途方にくれたような表情をしていた。
「カ……カズマさん、最低です……」
ゆんゆん誤解だ。
種の保存のために身を案じ、他人を犠牲にするのは動物業界ではよくある話で……。
(ドラマ、動物奇○天外より抜粋)
「でも道は開けたぜ」
「構わないでレッツゴ、ゴーヘブンーだぜ!」
俺は煙が消え、視界が開けたのを確認し、ダクネスの手を取り、古びたレンガの床を走り出した。
「くっ、何てバカな娘なんだ」
黒服の一人が顔をしかめながら立ち上がる。
「おい、爆裂魔法は一日一回が限度のはずだ。回り込んで捕まえろ!」
アルダープが行方不明の今、黒服のまとめ役らしいスキンヘッドの男が他の仲間に的確な指示を出す。
「ゆんゆん、この場はあなたに任せます! これから私に何が起こっても決して振り向かずに戦って下さい!」
前○前世で絶体絶命とはこのことか?
アクアに背負われためぐみんがゆんゆんを頼りにする。
「バカ! 私たちは親友でしょ。めぐみんをおいて逃げるわけにはいかないわ」
ゆんゆんを置いて逃げる俺のパーティー。
何も分かってないのはゆんゆんの方だった。
「ちょっと今何て言ったの!? 確か紅魔の里でもこんなことあったよね──!?」
ゆんゆん、ごめんな。
俺で良かったらいくらでも友達になるから。
無事に生きて帰って来いよ。
「怖じけるな、紅魔族とはいえ、相手は女だ」
「魔法を使う前に捕らえるんだ!」
『ドン!』
ツンツンヘアーの黒服が動こうとした時、冒険者のキースと肩がぶつかり合う。
「あん? 何だ?」
「ぎゃあああ、痛いいいいー!!」
苦痛な顔をしたキースがぶつかった腕を庇いながら床に転がり込む。
「この男がいきなり激しくぶつかってきて、ぐあっ……」
「骨が、お茶碗二頭筋に繋がる骨がやられたああああー!」
「キース、湯呑み茶碗がどーした!」
キースに近づいて懸命に介抱するダスト。
「何だ!? ちょっとぶつかっただけで大袈裟だぞ。それにそちらから飛び出してきたんだろうが!」
黒服がキースになめた口をきく。
それが暴発する引き金とは知らずに……。
「おい、黒服の旦那よ。コイツに大怪我をさせた分際で謝ることもせずに、ここから立ち去るのかよ?」
「領主様の家来か、毛ガニか何か知らないが、これは立派な暴力行為ってヤツじゃないですかねえ……!?」
ダストが奥歯を噛みしめながら、何かの暴走に耐えていた。
「……というか、最近、同性の貴族に付きまとわれて嫌気がさしているんだ。これだから貴族なんて俺は大っ嫌いなんだ!」
「ちょうどいいからお前らをボコって、ちょいとストレス発散に付き合ってもらうぜ!」
ぶちギレて
「おう、ダストの言う通りだ。アルダープの家来が何だ、いいからやっちまえ!」
「ああ、俺もあのふざけた領主は気に入らなかったんだ!」
「ぐべらっ! なっ、何をする、はぐぉっ! お前らやめんかー!?」
ダストの蹴りを筆頭にそれに加わる冒険者たち。
今まで善良だった民衆からタコ殴りにされた黒服は何を思うのか……。
****
「はあ、はあ……。こ……ここまでくれば大丈夫だろう」
俺たちは教会から数キロ離れた街中で走りを止める。
こんなに走り回ったのは現実世界でのマラソン大会以来だ。
ゲーマーにはキツいお仕置きだったけどな。
(学校の恒例行事です)
「またあいつらに貸しを作ったな。今度ダストたちにも旨い酒でも奢らないとな」
「カズマ、アクア、めぐみん」
ダクネスが肩で息をしながら、俺たちの名を口ずさむ。
「それから、ここにいないゆんゆんや沢山の冒険者たち。そんなみんなに対して私には感謝の言葉しか思い浮かばない」
「本当にありがとう。今日の私は世界一の幸せものだ」
ダクネスが最高の笑顔で笑ってみせる。
嬉しさで泣きながら、わだかまりのない心からの想いを……。
そんなダクネスの想いに俺たちも心から笑いかける。
「でも、これからどうするのよ? 私たちは犯罪者になったのよ?」
「うーん、家で荷物を纏めて今晩中に夜逃げするしかないか……」
ほとぼりが冷めるまでどこかで身を隠すしかねーよな。
とにかく寝床を確保するためにプチプチと段ボールはいるよな。
(クール宅配便?)
「いや……」
ダクネスが手の甲で涙を拭く。
「どうしても行かないといけない場所がある。一緒についてきてくれ」
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