第172話 このクルセイダーの花嫁姿に祝福を‼(4)

「はっ! ワシとしたことが!」


 アルダープが必死に金をかき集める最中に俺とダクネスが目の前にいないことにようやく気づく。


「いかん、ララティーナを逃がすんじゃない! お前らこれは命令だ、何があってもララティーナを捕らえよ‼」


 アルダープの命令に忠実と言わんばかりに俺たちの行方を遮る黒服の軍勢。


 くそ、出入り口の扉にいるウザい輩、その数にして五~六人。

 逃○中のステージまでとはいかないが、ダクネスを抱えたまま、このままごり押しで突破出来るのか!?


 いや、男カズマ、手が使えないならこの足でやるしかないぜ。

 まさか、王都で培った俺の真の力を再び見せる時が来るとは……。


 そんなチャレンジャー精神旺盛だった思いの中、扉からうっすらと光が漏れだして……、


『ドコーン!』

「「「ぐはっ!?」」」


 ……扉にいた黒服たちを巻き込み、激しい閃光と共に出入り口もろとも粉々に吹き飛んだ!


「なっ、何が起こったんだ!?」

「カズマ、扉の方を見ろ!」


 光と煙が消えた瓦礫の上にはお馴染みの二人の美少女がいた。


「ふっ、悪い魔法使いの参上ですよ」

「悪い魔法使いの本能に抗うままに天空の花嫁を拐いに来ました」


 顔の正面に手を当てて、カッコいいポーズを決めているらしいめぐみんと、彼女の背後で後ろ向きに恥ずかしげに同じくポーズを決めるゆんゆん。


 ちなみに天空の花嫁は実在しないぞ。

 それはド○クエⅤのゲームだからな。


「めぐみんとゆんゆん……」


 そう、俺とダクネスはこのキテレツ……いや、救世主に救われたのだ。


「めぐみん、ついにやったわよ。犯罪の匂いがプンプンする恐ろしいことを」


 ゆんゆんがめぐみんの背中越しに正直な意見を伝える。


「まあ、これは仕方がないわね。親友から『ゆんゆん、どうか力を貸して下さい、私の大切な親友殿』なんて言われたら断りようがなくて……」

「はいはい、じゃあ私の親友殿、用は済みましたから、もう帰っていいですよ」

「えー、あんまりよ、めぐみんー!?」


 親友から無惨に捨てられたゆんゆんには片道行きのチケットしかなかった。


「カズマ、ダクネス救出劇、お疲れ様です。カズマなら今回も何かをやらかすと思い、この場にやって来ました」

「さあ、後は私に背中を預けて行ってください」


 めぐみんの言うことはにかなってはいるのだが、何か美味しい所を全部持っていかれたような……。


「ああ、助かったぜ、めぐみん。雪の積もる話は後だ!」


 俺は羞恥心を隠しながら、めぐみんのわきを通り抜け、外に出て階段を駆け降りていく。


「待てえええーい!」

「紅魔族の小娘もワシの邪魔をしてからに!!」


 魔法の衝撃で円状の穴が開いた教会の奥からアルダープの怒りの声が響く。


「お前ら、ララティーナ以外は殺してもいい! 力ずくでも取り戻せー‼」


 俺たちの周りを黒服の集団が囲む。

 うぬぬ、外にいた連中も集まってきたか。


「カズマ、私をそろそろ降ろしてくれてもいいのだが……」


 ダクネスが困ったような顔でこちらを見ているが、今はそれどころじゃない。


「入り口周辺にいた社畜な蟻はゆんゆんが有無も言わさず、残酷な悪魔の攻撃で倒したのですが」

「えっ!? あれはめぐみんの命令で……」


 ゆんゆんが半泣きでめぐみんにすがる。

 一方でアルダープは腹を立てる始末だった。


「いいか、それに冒険者共も聞け!」

「そこの口だけが達者な冒険者は犯罪者だぞ! そいつからワシの花嫁を取り返してくれー!」

勿論もちろん、タダとは言わん。取り押さえた者には多額の報酬金を払うことを約束する! だからワシのララティーナを捕まえてくれぇー!」


 教会のバルコニーの手すりからアルダープが高らかな気持ちを叫ぶが、冒険者たちは口笛を吹いたり、手持ちの本を読んだりと素知らぬ顔だった。 


「おい、貴様ら、ワシはこの街の領主だぞ。大人しく言うことが聞けんのか!」


 荒々しい口調からして、アルダープは心底から焦っていた。

 ありがたいな、みんなもこのまま俺たちを黙って逃がしてくれるみたいだ。


「おい、ダクネス見てみろよ」

「誰の力も借りず、一人でヒュドラを倒そうとし、今度は勝手に嫁に行こうとしたワガママなお前を今回もみんなが助けてくれようとしてる」

「いいか、ちょっとはそんな頑固な考えを捨てて、頭を柔らかくして反省くらいしろよ?」


 ダクネスは恥ずかしげに寄り目にしながらも俺の言い分に無言を貫いている。

 コイツなりの暗黙の了解と言うやつか……。


 ……とキザポテト並みに言ったものの、こんなに大勢なおっさんの部下から逃げるのも一苦労だな。

 両手にはダクネスを抱えてるし、迂闊うかつには攻防もできない。

 さあ、どうするカズマ格闘家……。


「カズマ、私、あの領主や部下に苛つきを感じていますし、どうせ私たちは犯罪者。ここで大きくどかーんと撃ってもいいですか?」


 めぐみんの威勢がいい発言に少しだけ顔色を変える黒服たち。


「バカを言うな! こんな路上で爆裂魔法など放ったら、ここいらの無害な冒険者も巻き添えになるぞ! ただのハッタリだ! その紅魔族の小娘をすぐさま取り押さえろ!」

「しっ、しかし、アルダープ様、あの娘は特別、頭がおかしいと有名で……」


 今まで無感情に命令に従ってきた黒服の連中から動揺な発言が飛び出す。


「ほほう。アルダープの家来よ。この私がこんな場所で魔法を放つのに怖じ気づくとでも……」

「仲間を犠牲にして、爆裂魔法を撃つのに躊躇ためらいがあるとでも思っているのですね!」


 めぐみんが黒服たちに向けた杖に全魔力をふんだんに籠める。

 

「いいでしょう。よろしいでしょう」


「やっべー、みんな避けないと死ぬぞー!」

「ワー! キャー!」


 めぐみんのイカレっぷりを知る教会の周りにいた冒険者たちは大急ぎで、この場から逃げていた。


「いいでしょう! 望むところです!」

「その大いなる挑戦を受けましょう‼」


 魔力を蓄えためぐみんの赤い瞳に潤いが増す。

 再度言っておくが、これは目の充血ではない。


「さあ、みんな纏めてくたばりなさい!」


『エクスプロージョン!!』


『ドオオオオオーン!』


 教会の真上に巨大な花火が撃ち上がり、教会の窓ガラスは魔法の振動により全壊し、アルダープと黒服の連中は爆風で飛ばされていった……。

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