第144話 この神器とやらをゲットするために城に乗り込む行動を‼(4)

「お頭、あんな大根女騎士にビビってないでこの国のために任務を遂行しないと!」

「そうだね、盗みもゴミ拾いみたいに清く正しく美しい行いをしないとね」


 俺とクリスはあたふたしながら、その場で義賊になりきろうとするが、ダクネスは何か言いたげな表情だった。


「ダクネス、大声を張り上げてどうかしましたか?」


 ああ、厄介なヤツ二号が来たな。


「何、賊ごときに手こずっているのです! まだ魔力は満タンではないですが、こうなればこの私が賊を成敗して」

「あげま……」


 めぐみんよ、魔力の使いすぎで腹が減ったのか?

 そんなに俺の方を見つめて、揚げまんじゅうが食べたいのか?

 夜の揚げ物は女の子のお腹には手強いぞ。


「か……格好いい……!」

「えっ、めぐみん?」


 めぐみんがとろんとした目で俺を指さしてダクネスの肩を左右に揺らす。

 これじゃあ、ダクネスが振り子時計だ。

 そのうち口からハトポッポを口ずさむぞ。


「ダクネス、この義賊は最高に素敵です! あんな格好いい仮面をつけて、おまけに衣装も黒装束ですよ!」

「あっ、あの仮面盗賊団の名前は何なのですか!?」

「いや……めぐみん。実はだな……」


 脳筋なダクネスは人差し指を額に当てて、しばらく考え込んだ。

 そのまま強く念じて、どこかの大魔王みたいに『あかんこうさっぽう』とか叫ぶんじゃないだろうな。


「こっ、このお賊め……あっあっと、こっ、……ここからの先は、このダスティネス一族が容赦せんぞ」


 下手くそで日本語が片言な猿芝居で、話しすらも噛み合っていないような……。

 これなら人形劇を見た方が気楽だぜ。


「お頭……ダクネスは俺たちの正体を知っても何か訳ありなんだろうなと話を合わせているらしい」

「助手君、それって?」

「だからダクネスには後々説明してアイリスの元へ急ごう」

「うん、了解だよ」 


 俺とクリスは小声で意思の疎通をはかる。


「お、おんどりゃー、我がクルセイダーが誇る痛恨の一撃を受けるがいいー‼」


 ダクネスの酔いどれ剣術がこちらに目標を捉える。 


 ダクネス、悪いな。

 ちょっとばかり犠牲になってもらうぜ。


『バインド!』


 俺の捕縛スキルにダクネスの体が縄に縛られて床に転がる。


「おおお!? この感覚は何とも!?」


 拘束されたダクネスが火照った顔になり、荒い息を吐きながら一人で酔っていた。


 ごめんな、ダクネス。

 この詫びはきっとするから今は耐えてくれ。

 当の本人は非常に嬉しそうなのは置いといて……。


「よし、今のうちに!」


 俺とクリスは急ぎ足でダクネスの傍を横切った。


『セイクリッド・スペルブレイク!』


 どこからか出てきた浄化の光でダクネスを縛っていた縄が簡単に消えた。

 こんな常識外れでとんちんかんなレベルの魔法を使うヤツはアイツしかいない……。


「フフフッ。この私がいる限り、逃げようとしても無駄よ」 


 俺とクリスが進もうとした扉から魔法を使用したとんでもねーあねさんなアクアが静かに歩いてくる。


「一体何の目的かは知らないけど、あなたたち二人を捕まえたら、お礼として高いお酒をくれると思うの! だからここで黙って捕まって頂戴ちょうだい!」


 あくまでも飲む限定なアクアが足を止めて、高らかに勝ち誇った宣言をする。

 意外と甲子園球場が好きそうなタイプかもな。

 土を持って帰る袋は持参したか?

(負ける前提)


「あわわっ、アクアさん……」


 クリスが慌てた顔でアクアに背を背け、フードで深々と口を隠す。

 この女めー、いつもは役に立たないのにこんな時ばっかり……!


「ダクネス、今のうちよ! 顔を赤くしておかしくなってるめぐみんを除いて、やれるのはあなたしかいないわ!」

「えっと、いや、どうしたものか……」


 ダクネスは迷いながらも心の葛藤と戦っていた……そう、葛根湯かっこんとう。  


「──急げ、賊はアイリス様の部屋だ!」

「そのまま陣形を乱すな!」


 ドタバタとこのフロアに足音と喧騒が近づいてくる。

 もう俺らには時間が残されていない。


「お頭、この先の部屋にはアイリスがいるはず。そのまま駆け抜けてスティールで決めるしかない……!」 

「……そうだね!」


 俺たちは覚悟を決めて前の扉へと急いだ。


「よっし、よく聞けよ、賊どもよ! 今から放つ、でとどめをさしてやる!」

『ブオーン!』


 俺とクリスはダクネスの大振りな攻撃に、頭を軽く下げて避け、アイリスのいる扉へと足を速めた。


「もう、ダクネス何やってるの! どんな攻撃をするのかを言いながら攻撃しても無意味でしょ! だからいつまで経っても脳筋なクルセイダーなのよ‼」

「ううっ……」


 アクアに鋭く突っ込まれ、傷ついたダクネスは声を抑えて目を潤ませていた。


「──あなたたちが例の侵入者ですね!」


 奥の部屋の中では右手にレイピアを構え、片方の手を突き出した戦闘体勢の勇ましきアイリスがいた。


「私は代々勇者の血を受け入れて、その力を蓄えてきて実力をものにしてきた王族の一人です!」

「私を前にそう簡単にことが進むとは……!」


 俺もクリスも迷いもせず、全速力で王女の元へ駆けていく。

 アイリスの首に着けられたネックレスをスティールで奪うために!


 ──そして、アイリスをすぐ隣を横切った……。

 そのすれ違いに『はっ!?』として驚いた顔で仮面の俺たちを目で追うアイリス。


「上手いこと盗ったか!?」

「多分ね。でも確認する余裕はないよ!」


 俺とクリスはそのまま窓際まで走った。

 走れ、走れ、どこまでも。


「待ちなさい! 何の魂胆でそれを盗んだのかは知らないけど、そのまま封印させてもらうわ!」


 アクアの広げた手から激しい光が放たれる。


「ちっ、アイツめ、最後まで邪魔を!」

「こんちくしょーがー!!」


『ガシャーン!』


 俺とクリスは顔を両腕で覆い、格子ごと窓をぶち破って、下にある川へと落下した。


 よい子のみんなよ。

 普通、こう簡単に人力では窓は割れないし、下手をすると大怪我するから、絶対に真似するなよ。


****


「残念、逃げられたわ……」


『私の唯一の楽しみが……』と言いながらアクアが悔しそうに唇を噛む。


「アイリス様、ご無事でしょうか!」


 数秒遅く辿り着いたクレアにレイン、ぞろぞろとやって来る騎士団の集団。


「申し訳ありません。誠に不本意ながら、こんな夜に賊を侵入させてしまいました。お体は怪我しておりませんか」

「ええ……」

「おい、すぐに川にも増援を呼ぶんだ! 例え、この身が危うくなってもアイツらを逃すなよ!」


 クレアが騎士団に的確な指示を出す。

 いくさ馴れしてきたクレアのことだ。

 あの二人が捕まるのも時間の問題だろう。


 アイリスは頬をほのかに赤らませ、無くなった物に手を添えて、壊れた窓から月を見上げて、一人感傷に浸っていた。


今宵こよいは一段と月が綺麗ですね……」

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