第145話 この王女の持っていた神器を盗んだ二人組に絶叫を‼

 次の日の朝、宿泊先の宿屋でダクネスの怒声と二人の男女の悲鳴が混じる。

(B級ホラーへようこそ→違う)


「全く、そんな大事なことをなぜ私に黙っていた? ちゃんと正直に話せば、このようなことにはならなかったのだぞ……」

「そんなん直々じきじきに言われてもな」


 ダクネスの馬鹿力による強烈な頭同士をぶつけ合ったグリグリ攻撃を受けた俺とクリスは、そのあまりもの痛さに床で悶えていた。

 痛いの痛いの飛んでかない。

 現実とはそういうものだ……。


「体を入れ替える神器だし、場合によっては永遠の命が手に入るんだぜ。実はクリスから王族でも悪用する恐れがあるからと口止めされてさ」 

「あ、あたしはダクネスならいいかなって!」

「ああん?」 


 今さら何言ってんだ、この小娘は?


「それにさ、ダクネスに頼むとあたしの正体がバレたらマズイって助手君から責められたから仕方なくね!」

「あっ、お前、俺に罪をなすりつける気か!」


 クリスの自由奔放さにぶちギレた俺はクリスのこめかみに地獄のグリグリをする。


「お前、調子に乗って、全部俺の責任にする気か!」

「いたいいたい! 助手君、暴力反対!!」

「分かったから、ここで喧嘩はやめろ‼」


 ちっ、運のいいクリスめ。

 本当は死ぬほど強力なのをおみまいしようと思ったんだが、ダクネスの温厚さに感謝するんだな。


「私もお前たちだと正体が判明したから、あのような芝居をしたんだぞ。お前たちならアイリス様に害が及ぶことはしないと信じていたからな」

「……まあ、やったことはどうしようもないが、幸か不幸か二人の正体は私にしかバレてない。クリスはアクセルの街に帰って、カズマは私と一緒に城に行くぞ」

「何でだよ!」


 それじゃあクリスの方が安売りのツナ缶のようにお買い得感に溢れてるじゃんか。

 同じ行動をした者通し、同じ罪を被るべきでは?

(罪とツナ)


「あくまでも状況報告だからな。クリスは銀髪で見バレする可能性があるし、カズマはアイリス様との別れの挨拶がまだだろう」

「いや……今の厳重警備な城の状態で俺が行って、もしバレたら打ち首どころじゃすまないし……。それにお前から受けた頭の攻撃で、こめかみの病にふせっていたい気分で……」

「訳の分からん猿芝居はいいから、さっさと来んか!」

「えっと……助手君、男なら気合いだよ!」


 クリスの話では奪ったネックレスはアクアにより、誰も盗られない場所で封印したから、もう大丈夫らしい。


「クリス、隠していることは他にはないのか?」

「えっ……あの、その……」

「あるんだな! さっさと言え!」


 クリスが目を反らして、頬の傷跡を掻く嘘つきの癖をダクネスは見逃さなかった。


「ごめんなさい!! 助手君が神器の他に別のお宝も盗っていましたー‼」

「なっ、この人でなしがあ‼」


 クリスの思いっきりの発言に俺の感情が逆なでする。


「貴様、至らん盗みばかり働きおって! それでは冒険者ではなく、本当の盗賊になるではないか! さっさとある物を出さんか!」

「あ、いや……俺も男だし、大したお宝ではないけどさ……」


 俺はおずおずとダクネスに城の宝物庫で盗んだえっちい本を差し出すと、その本の表紙を見たダクネスの顔に嫌な影が入る。


「毎度毎度、お前というヤツは……」

「……はい。つい、興味本意で。だからもうかえして……」


 俺は指通しをくっつけ、反省の意味を込めてダクネスからの返品を要求する。


「あっ、そういえば一緒にスティールした助手君も王女様から何か別のアイテムを盗っていたよね?」

「ああ、それなら手元にあるぜ。あの時アイリスから盗ったものだろ?」


 俺はそのアイテムをダクネスに見せる。


「何てことない、どこから見ても普通の指輪だぜ」


 俺が指で摘まんだ指輪をガン見したダクネスの顔から血の気が抜けていく。


「こっ、これをアイリス様から盗んだのか!?」

「おい、何だよ、血相を変えてさ?」

「……いいか、カズマよ。その指輪は大切に扱い、死んでも無くすなよ? そして墓の下まで持っていくんだ」


 ダクネスが俺の肩に手をかけて、一言一句丁寧に悟らせてくる。


「何だよ? そこら辺で拾ったって言って返したらいいじゃないか」

阿呆あほうか!」


 この指輪は王族が子供の頃からはめている物で婚約者ができたときに、その大切な相手(伴侶)に渡す物らしい。

 それを賊に盗まれて、俺のような冒険者が拾ったというパターンなら……例え善意の行いでも俺は口封じとして殺されてしまうということに………。


「何だよ、めっちゃ怖いんだが! おい、クリスがルルルー、ルーのテ○子の部屋みたいにアイリスの部屋にそっと返すことはできないのか?」

「嫌だよ、あたしはくろ○なぎの子孫でもないし、何でも屋さんでもないんだよ!」


 俺は指輪を光にかざして、アクセルの街に帰ったら、餌を隠すワン公のように自身の屋敷の庭に埋めることを決意するが……。


「バカなことを考えるな!」

「アイリス様が大事にしていた指輪だぞ! 何があってもそれを手離すな! そして誰にも見られないようにせんか!」


 あの……、それ何の罰ゲームですかね?


「ああ、分かったよ! だからそっちのお宝は返してくれ! その本も城に返す訳にはいかないだろー‼」

「ほお……?」


 本と聞かされ、ダクネスの影により深みが増したような気がした……。


****


「ううっ……。何で本を燃やしちゃうんだよ……この罰当たりめ」

「良いではないか。お前が作ったライターが役に立ったのだから」

「そ……そんな目的で作った物じゃあーないぜ……」

「いいから諦めろ! これからアイリス様に会いに行くんだぞ。いつまでもメソメソするな」


 俺のロマン飛行を詰め込んだお姉さんは灰へと変わったんだ。

 大切なものを失い、もうしにたい。


「カズマ、神器の件は私から説明するが、義賊の目的はアイリス様の神器を狙う者から助ける目論みだったと芝居をするつもりだ」

「いいか、お前は黙って私の言葉に頭を縦に振っているだけで……おい、聞いてるのか!」


 ダクネスの声なんて当の昔に耳に入らない。

 何度も語るが、俺、大切な物を失って、もう夢も希望も無くして生きていけない……。


『コンコン!』

「アイリス様、ダスティネスです。急なお話があり、失礼いたします」


 ダクネスが扉を軽くノックしてアイリスのいる部屋へと入ると、そこには先客がいた。


「安心して。あのヤバい神器は私がガッチリと封印したから。あんなのちょろいもんよ」


 アクアがアイリスの座る椅子の取っ手に肘をつけ、これ見よがしに自慢している。


「まあ、魔道具に詳しい紅魔族の私が言うから間違いないでしょう。あれほどの神器をパクることはもう誰にもできないでしょうし、悪用されることもないでしょう」


 アイリスを挟んだ向かい側にはめぐみんもいて、手をあごに当てて、自身の高貴の良さを語っているように見てとれた。


「あの盗賊ったら、今回はとんでもない物を盗んでくれたわよね」

「まあ、無事に封印できましたし、これで神器の永き因縁たたかい(ヤー○ン?)もおしまいですね」


 アイリスが少し困った顔つきでアクアとめぐみんに愛想をふっていた。


 国を纏める最高権力者でもあり、苦手な相手でも皮肉を言わず、それ平等に意見を分かち合い、気兼ねない大人な対応をしなければならないアイリス……。


 国民の支持により成り立ち、王国を治める者としてもなおさらのことだ。

 王女様もこんな迷惑な相手に絡まれて色々と大変だな……。

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