第142話 この神器とやらをゲットするために城に乗り込む行動を‼(2)

「何があった!?」

「侵入者が王が若い頃に大切にしていた貴重な宝を」

「何だと、何はともあれ、曲者くせものじゃー!!」


 喧しい警報と同じく動き始める騎士通しの忙しい会話。


「助手君、キミには後でたっぷりとお説教だからね!!」

「くっ、ハニートラップ恐るべしだな! この勇者の俺が食らうなんて!」


 クリスが涙目で俺を追いかける中、俺は大事に紙の遺産を抱きながら真っ先に逃走中だ。

 俺のいた世界では紙よりお手軽な電子書籍が売りに出されていたからな。


「あっちに行ったぞ」

「追えー!!」


 おえおえとか言ってるが、食あたりでも起こしたか。

 それとも何かの暗号か?


「まあともかく、お頭! 今はこの状況を切り抜けないと」

「キミがこうしたんだよね。偉そうに言うなよ!!」


 クリスが少し怒りながら俺の背中に走ってくる。


「ならば‼ 先手をうって!!」

『クリエイトウォーター!』


 俺は半身だけ後ろに身をよじり、水魔法で床を湿らせる。


「それプラスアルファー」

『フリーズ!』


 続いて、その水を凍らせる氷魔法で床を氷の絨毯へと変えた。


「うわっ!?」

「ぐえっ!」

「ぎゃふ?」


 俺たちを追跡していた甲冑の集団が芸人寄りな奇声を上げながら思いっきり足を滑らす。


「おー、中々やるね、助手君がいると色々と便利だね!」

「お頭、駄目な駄目な小学生みたいな感想はいいから手伝ってくれって!!」

「分かったよ! ここでお頭の力を見せてあげる!」


 体を後ろに捻ったクリスが懐から細い導線を引っ張り出す。


『ワイヤートラップ!!』


 クリスの体から出てきた無数の紐の束が上下左右に張り巡らされる。


「おおっ、何だ!?」

「ただの針金ごときに臆するな、早く切れ!」


 騎士の集団は迷いもせずにワイヤーの網に手をかけた……。


****


「時間稼ぎしかできないけど逃げる時間は十分にあるよ!」

「でもさ、こうまで騒がれたら、もう神器どころじゃないね。助手君、今夜はこれくらいにして……」

「いや、このまま行こう。俺は明日になったら王都から追放されるんだ。今日中に片付ける」

「ええっ!? 盗賊と冒険者の盗賊団なんて、実力が知れてるよ。いずれは真っ先に捕まってアウトというか……」

「キミって、そんなに頑張っちゃう能がない真面目タイプの人だった!?」


 そうだな。

 クリスの言うことも一理ある。

 俺は何でこんなにも精を出して頑張っているんだろう?


 熱い熱血キャラでもなく、女神から選ばれた勇者でもない。

 それに俺はアクセルの街に帰れば遊んで暮らせる。 

 こんなに必死にならなくてもこのまま逃げ切って自身の屋敷でのんびり過ごして……。


 ……だけど、頭の中でアイリスの曇りなき笑顔が見れた想い出が浮かんでくる。


 ──いえ、私、あなたのようなタイプと出会ったのは生まれて初めてでしたので……。


 一人だけ無礼で物怖じもせず、あげくには王族のわたくしにおかしな話などを吹き込み、さらに問答無用でゲームでは子供っぽいやり方で勝ち逃げをしてみたり……。


 おい、俺の嫌な所じゃなく、気に入った所の話だぞ?


 はい、そうですよ。

 それが気に入った理由です……。


 ──俺はどうしてアイリスにここまでお熱を上げているのだろう。

 何でアイリスもこんな俺と仲良くなってくれたのだろう。


 どのみち何年か過ぎればアイリスも正式な一国のお姫様になり、身分違いの俺と一緒に楽しく過ごすこともなくなるだろう。


 そう、今日この城から逃げれば永遠に会えない気もする。

 ということはお兄様として慕われるのも今日までだろう……。


 ──俺は逃げる足を止めて現状に立ち向かうべく、敵の来る方に立ち向かう。


「えっ、助手君? 逃げないと……」

「お頭、悪いな」


 俺は胸に手を当てて、今ある気持ちをぶつける。


「俺、今から本気出すから」

「助手君……!?」


 クリスも足を止めて俺の言葉に呆然としていた。


「おい、見つけたぞ! 賊はすぐそこにいるぞ!」


 甲冑の衛兵たちが剣や槍でワイヤーを切り、俺の元へと寄ってくる。

 俺はそんな彼らに手を差し伸べた。


「何だ? その真似は?」


 斧を持った衛兵の質問に無言で握手を交わそうとする俺。


「そうか、降参するんだな? 大人しくするのなら命だけは助けてやろう……」


 衛兵も迷いもせず、俺と熱い握手を重ねる。


「ぐおおおお~!?」


 その途端、衛兵の腕から暗黒の煙が舞い上がり、その場に倒れ込む。


「なっ……何だ今の技は!」


 これには甲冑の者共も恐れをなしている。


「フフフ、ハハハ……」


 どうだ、俺が真の魔王みたいだろ。

 俺は笑うしかなかった。


「何だか絶好調のトキメキな気分だぜ! さあ、モノどもかかってこいよ。俺様の故意する本気とやらを見せつけてやろう!!」

「助手君、何かおかしいよ!? どうしたの!」


 今晩までだからこそ、今度や明日があるからと逃げを作らないで、出し惜しみせず全ての力を解き放つ!!


『ウィンド・ブレス!』


 俺は砂の風による魔法を鎧連中の顔面にぶち当てる。


「ぬおおっ、砂が目に入った!!」

「くっ、ずる賢いことを……!」


 脱げない鎧の頭部を抱えて、のたうち回る騎士。

 催涙ガスとは違い、環境には優しい。


「お頭、今のうちに早く行こう」

「うん……」


 夜明けまで時間がない。

 寝てる時間ではないようだが、アイリスが待っているんだから。


「おい、腕の立つ賊が城内に侵入したぞー‼」

「相手は強敵だ。できる限りの応援を呼べ!!」

「城に宿泊している冒険者にも協力を要請するんだ‼」


 城内に轟く衛兵たちの叫び声。

 できれば面倒は起こしたくない。

 俺というゴミの収集ならよそでやってくれ。


「お頭、アイリスがいる部屋へ続く階段はそこの角を曲がって右になりやすぜ」

「うん、助手君……言葉遣いが変だし、明らかに吹っ切れた感じかな?」


 クリスの言い分にも納得がいく。

 髪は黒いままだけど、俺もスーパーなんちゃらとかになれたかな。


「おおっ、前方にて敵さんのお出ましだ!」

「どけどけ、銀髪盗賊団のお通りだぜ。警察手帳はメモ用紙だが、黙って道を空けろー‼」

「えっ? ねえ、その名前はいつ決まったの!?」

「騒ぎが広まってきたし、キミが活躍してるんだから仮面盗賊団じゃあ……」

『ウィンド・ブレス!!』

「ぐはー、目が、目が痛いー!!」


 俺は床で転げ回る騎士の腕を握って、暗黒の煙でその場に昏倒させる。


「嫌です。仮面盗賊団だと俺が主犯みたいな響きですので」

「あたしだって主犯になりたくないよ。銀髪って目立つから即効で名前覚えられるじゃん」

「それよりもさっきから使ってる怪しげな技って何なの!?」

「このスキルは俺の隠れ必殺技です。隠し必殺技ですのでコマンドなどの詳しい内容も非公開です」


 まさかリッチーのスキルが使えるとか言えないよな。


「それより魔法使いのような敵も来ましたよ。ここは任せます、お頭!」

「もー、分かったよ! あたしも覚悟を決めるよ‼」


 クリスも応戦をするようになり、俺たちは衛兵相手に白熱した戦いをし始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る