第140話 この諦めの悪い義賊から警告の結論を‼

「ねえ、キミ生きてる?」

「のわっ!?」


 黄身か白身派かいざ知らず、俺が寝ていたベッドのすぐ横にある窓からスポーティーな格好である女の子があらわれた!


 どうする?


 たたかう

 →さくせん>さわぐ

 にげる

 じゅもん(いのちごい)


「ちょ、ちょっとクリス、性懲りもなくまた来たのかよ!」 


 俺はとりあえずRPGの王道として、王宮の王様になったつもりで次にレベルアップまでの経験値などをさわぐことにした。


 いくら泊まっている宿屋にしろ、俺の意思は無視だから住居不法侵入だ。

 宿屋のオーナーもすぐに駆けつけて、このクリスを引っ捕らえるだろう。


 ……待てよ、確かここのオーナーも貴族だったよな。

 ……ということは王族の晩餐会に誘われ、今ごろはタダメシでも食ってるのか?

 人様に奢られたあの焼き肉のようにタダより旨いものはないからな。


「あれれ、今日は晩餐会じゃなかったの? 見かけによらず随分と少食なんだね。そんなんじゃ大きくなれないよ」

「何で晩餐会のこと知ってんだ。スパイもやってるのかこの女め」


 大きくて何の得があるんだ?

 大きくなっても着るサイズの服が中々入手できずに困るじゃないか。

 クリスはそんな俺の感情さも受け取らず、難なく窓枠を細くて白い足で跨ぎ、俺の寝床に侵入する。


「それでさ、保留にしてたあの件だけど……」

「いんや、電話の着信拒否と同様、何度来ても世界を半分やると言っても答えはNOだ」

「まあ、手に入れた情報だけなら伝えるけどな」


 俺は布団に潜り込み、明後日の方向でクリスに真相を告げる。


 城には確かに強力な神器が一つあり、体を入れ替える代物だが、入れ替われる時間はとても短い時間で、無条件で建物を壊すウ○トラマンよりかは危険性は低いということを……。

 あれ、ウ○トラマンは光の国の王子様じゃなかったっけ?


「ちゃんと言ったから感謝しろよ。あとは一人でトロとマグロの泥棒ごっこでもやってくれ」


 俺は居酒屋にありそうな料理名を挙げて、ふて寝モードに入ろうと重いまぶたを閉じる。


 もう俺は何もかも忘れて冬眠する。

 次に目が覚めた時はエリス様のひざまくらだろうか。

 ついでに耳かきも強制させてやる。

(男と女の耳ゲーム)


「あの魔道具は体を入れ替えてる最中に片方が死んだら元に戻れないんだよ」


 俺の眠りが一気に覚める。

 おい、クリスよ、今何語を喋った?

 解読する容量が満タンで処理しきれないぞ。

 オーまいがー!?


「だから、あれはうまく使えば永遠の命だって手に入る凄い神器なんだよ」


 クリスが飛んでもないことを言い出す。

 何だ、妄想を越えて脳ミソでも飛んでるのか?

(天○越え)


「己の体が衰えたら若くて健康な人と体を入れ替え、元の相手を殺せばいいんだから」


 クリスがさらに滅茶苦茶なことを語ってくる。

 異世界だからって何でも殺すとか言うなよ。


 蚊と人間の争いじゃないんだぜ。

 人類がもっとも殺してる生き物だとはいえ……。


「それに体を入れ替える前に自分の持っている財産を相手に渡しておけばお金にも困らないし、騙すだけ騙して結局は命を取られる運命さ。最高に残忍だね」

「おいおい、冗談はよせよ」


 クリスの言い方に洒落にならない空気が流れ込む。

 誰か、カツ丼じゃなくて持ち運びできる空気清浄機を持ってこい!


「いや、その力を誰にも教えずに黙っていれば……」


 俺は喉元から出かかった言葉を飲み込む。

 ちなみに逆流性食道炎ではない。


「あれは最初はどこぞかの貴族にオークションで買われたんだよ」


 なるほどネットで頼んだ焼き豚の中に混じっていたか。

(ヤ○オクです)


「でもさ、それは貴族の手から王女様の手短な場所に行き着いていた……どう考えても話が変だよね」


 誰が何の策略で王族の元に贈ったのか?

 最高の誕生日プレゼントをありがとう、パパ、ママ、ちび○る子のおじいちゃんどころじゃすまない。


「そりゃ、マズイぜ。もしもこの国の最高権力者と体を入れ替えたら……」


 俺の背筋におぞましい寒気が走る。


「……おい、マジでヤベエアイテムだぜ! 急いで国のお偉いさんに教えないと……!」

「それは口外しない方がいいよ」


 ……神器の力を知った人たちが選ぶ道は欲望への第一歩。


 クリスはこう断言する。

 間違いなく国中の貴族らが金と力に物を言わせ、神器の奪い合いになるだろうと……。


 そうなれば王族である身でも神器を悪用する恐れすらも出てくるはず。

 力のある権力者であるほど、永遠の命というものを喉から手が出るほど欲しがるものだと……。


「こうやって神器の件を話したのもキミなら、そんな使い道はしないだろうと思っていたんだけどね」


 いや、異性と一緒に風呂に入ろうとする不純な動機は悪用とは言わないのか?


「ねえ、キミってば王女様の遊び相手係なんでしょ?」

「あん?」


 クリスの横顔に月光が射し、片方の頬だけにある三日月のような傷跡が浮かび上がる。

 その顔はやんちゃな笑みを滲ませていた。


「じゃあ、今から王女様の場所に遊びに行かない?」


 クリスが開いたままの窓に親指を指してゴーサインを出す。


 ──こうして俺とクリスは騒ぎを起こさないように王女様のネックレスを奪う作戦に出るのだった。


 くっ、また上手い具合に口車に乗せられて、新たな犯罪を重ねることになろうとは……。

 クリスが正義のためだと言い切っても俺の心の闇(病みでは?)は晴れなかった……。

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