第138話 この入れ替わった二人の間にだけ、叶えられる願いを‼(3)

「うへへ……」


 オッサン化した俺の漏れ出た心の呟きも気にせず、全部のシャツのボタンを外したダクネスが下着にも手をかけようとする。


「あの……ちょっ、ちょっとララティーナ、待ってもらえる!」

「えっ、どうしました? アイリス様? 何か問題でも……」


 いくら俺が女の子の姿でも、恥じらいも無しに脱がれては心の準備というものが……。


「さあ、どうされましたか? アイリス様も恥ずかしがらずに服をお脱ぎに……」

「クレア……いつの間に!?」


 裸体にバスタオルを巻いたクレアがキラキラと純粋な目でアイリスな俺の服に手をかける。

 この短時間でどうやってあの重厚なスーツを脱いだんだ?


 やっぱり脱皮か?

 人と見せかけてさなぎから蝶になったのか?

 その意図を詳しく……って俺のスカートを掴んで何をするんだよ!


「クレア、待って! 自分で脱げるから」

「まあ、遠慮なさらず。これも私の仕事ですから」

「これまたご冗談を。こんな着せ替えごっこがですか!?」

「ふふっ、自分から誘っておいてそれですか。誠に美味しすぎるアイリス様ですね……」


 クレアの早脱がせにより、履いていたスカートさえもどこかに飛んでいき、アイリスな俺たちは三人とも裸にバスタオル姿になり、湯けむりの漂う銭湯のように広い風呂場に入る。

 アイリスな俺はさっきから二人を直視できず、心臓の音が周りに聞こえるかのように飛び跳ねていた。


「「アイリス様、その……。ご一緒に背中の流しっこを……」」


 湯を張った大き過ぎるひのき風呂の前に、二人の巨乳美人が顔を赤らませ、アイリスの俺に願ってもない催促をしてくる。

 ああ……なぜ俺より早くやって来た転生日本人が、この神器を求めたのか分かる気がする。

 アイリスな俺は四つの固まりに囲まれ、すでに心は爆発直前だ。


 アイリスにこのことがバレるかも知れないが、そんなん知るか。

 今は精一杯楽しんで、後で融通を聞かせればいい。


「はい。分かりました……」

「では私から先に取りますから、二人もタオルを……」  

「「あっ……はい」」


 ダクネスとクレアが隠していたバスタオルを胸元からゆっくりと下にずらしていく……。


 ああ、幸運の女神のエリス様。

 俺は自分に与えられた運の強さというものにここで初めて感謝をいたしま──、


「──おい、上等じゃないか。このガキがー‼」

「兄貴にそこまで威勢を張って覚悟はできてんだろーな!」


 はっ?

 俺の目の前に筋肉ムキムキなタンクトップな色黒男がいるんだが?


「何これ、何で俺は街中に居るんだ?」


 何度辺りを見回しても風呂場ではなく、めぐみんと怒り狂った男連中しかいない。


「さあ、カズマ。後はあの連中をボコボコにするだけですよ!」


 おい、これどんな状況でっかー‼

(おばんどす)


「なあ、めぐみん! 俺で何をやらかしたんだ……」

「さあ、王女様! 相手が誰であろうと悩む必要はありません。黄金の味なクロスカウンターでビシッとやっちゃって下さい!」

「いや、だからさ……焼き肉のタレの話じゃなくてだな……?」

「何だ、今さら食いもんの話に逸らして怖じ気づいたのかコラー! ガチでぶちのめすぞ、オラー!!」


****


「王女様に手柄を与えたかったのですが、まさか元に戻っていたとは」

「あのな……アイリスに危険なことやらすなよな」

「いえ、王家の人々は元からの才能プラス身を守るための英才教育を赤ちゃんの頃から受けています。カズマの体で喧嘩しても余裕ですよ」


 赤ちゃんの頃からじゃ、保育士さんによる世話も大変だろうな。

 ええ才能をお持ちで……。


 ボロボロで顔がアザだらけの俺は思った。

 このタイミングで戻ったということはアイリスも今ごろ風呂場で……。


 「──あの……これは何事ですの?」


 そのアイリスはというと丸裸の二人に対し、風呂場で恥ずかしがってしゃがみこみ、バスタオルで体を隠していたのだった……。


「──それで何であんな騒ぎになってたんだ?」

「王女様と色んなお店を楽しんだあと、路地裏で妙な男たちに絡まれて」

「何だ、向こうから仕掛けてきたのか」

「いえ、普通は私みたいな清楚可憐な女の子を見たら、『おい、兄ちゃん、見かけによらず、可愛い女連れてるじゃんか』と絡むのが常識でしょ。でも無言で挨拶するだけで声すらもかけてこなかったので、このヘタレで根性なしがと罵っていたら……」

「全部お前が悪いんじゃねーか!」


 全く俺を連れてるからって片っ端から喧嘩を売るなよな。


「まあ、王女様もとてもご満喫でしたよ。屋台の食べ物も初めてらしく嬉し顔で美味しいと言って驚いていましたし。実はホットドックが犬の肉じゃないとか、わたあめは雨雲の固まりじゃないとかも」

「そうか。なら良かったけど、また俺の悪影響を受けたとか言わないかな……」

「カズマは相変わらずあの子には甘ちゃんですね」


 年下やロリな部分とか、自身に色々とキャラが似ていて今後に不安を感じてるというめぐみん。


「お前な、あの大人しくて一国を支えるお姫様な美少女とキャラが同じとその平然とした態度で言い切るのかよ」

「なっ、失礼ですね。むー」

「まあ、これを機会にめぐみんとも仲良くなれそうだし、また遊んでやってくれや」


 俺とめぐみんが城の庭先に行くと、玄関前にはダクネスとクレアが手のひらで指の関節を鳴らし、般若のような気配をしながら待ち構えていた。


「おい、今度はめぐみんとデートとは随分と能天気だなクズマ。アイリス様から話はあらかた聞いたぞ」

「貴様、鉄拳制裁というものはご存じか?」


 二人とも非常に激怒して聞く耳も持たず、異変を察しためぐみんが城内へと逃げ去るなか、二人による血の惨劇が俺に降り注いだのだった……。

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