第137話 この入れ替わった二人の間にだけ、叶えられる願いを‼(2)
ここでじっとしたいのも山々だが、今はとにかく動こう。
あのまま部屋で閉じこもるのもいいが、それではアイリスらしくないと疑われるだろう。
アイリスは俺とは違い、ひきこもり派ではないのだから。
──俺は周りの王族に自然に振る舞うために城内の廊下をのしのしと大股で歩き、デッキブラシ片手に暇潰しをしていた。
(モンキーブラシ、西遊記カズマ)
ふっ、後ろからは何も知らず、あの気丈なクレアが大人しくついてくるし、通りかかる度に王族やメイドたちがご丁寧な挨拶をして
この上から目線な気分最高だな。
ただ歩いてデッキブラシを持っているだけで出会ったみんなから俺に敬礼みたいなことをされてさ。
俺は帝国陸軍の掃除員たる姫か、見る者の心を奪う掃除屋(殺し屋)か何かか?
もう、俺がこの王女になっても良くないか?
俺は王女としての立場ににやけが止まらなかった。
スーパーマ○オの無敵スターのように時間制限はあるけどな。
「あの、アイリス様? 先ほどとは雰囲気がまるで違いますが、またあの男に至らないことでも聞かされましたか?」
クマノテならぬ、ガチでムカつくな、コイツ。
いくら人気者の俺が嫌いだからって失礼にも限度があるぞ。
(圧倒的に不人気なのでは?)
「クレア。カズマ様にそんな無礼なことを言ってはいけませんよ」
「えっ、アイリス様?」
アイリスな俺の本心にクレアの足の動きが止まる。
「あの御方は我が国の歴史の教科書に名前を載せても良いくらい素晴らしい御方なのですよ? かの徳川家康の末裔なのですから」
アイリスな俺は手のひらを合わせ、俺に好意を秘めた乙女のような色気を放つ。
「なっ!? アイリス様! またご冗談を。今度は徳川幕府の何を聞かされたのですか!? やっぱりあの男は打ち首にして、島流しにして始末した方がよくありませんか……!」
おい、本人の背後でそんな宣告をしないでもらおうか。
アン○ンマンの顔じゃないんだぞ。
「あっ、アイリス様にクレアさん」
そこへ勇ましい甲冑を着込んだミツルギと廊下で鉢合わせする。
また会ったな、このナルシストピザ(キザ)野郎め。
「これはミツルギ殿。今回も先陣を切って魔王軍を退けて下さり、誠にありがとうございました」
クレアが照れ隠しな目でミツルギに感謝を述べる。
つけメンな俺の時とは大違いだな、この女め。
「いえ、あれくらい何ともないですよ。それに……」
「弱い者を救う剣士として、この国の人々やアイリス様を守るのは当然の義務ですから」
晴れやかな笑顔のミツルギの手がアイリスの俺の頭を軽く撫でる。
その気色悪い甘い行為に俺の体に電流が流れた。
「クレア、私の頭にいやらしい手を触れたこの男を即刻縛り上げて死刑にしなさい」
「えっ、いえ、アイリス様。僕はそんなつもりではなくてですね……」
ふん、そのイケメンを武器にそんな風に無意識で色んな女の子を落としまくってるんだろ。
この天然女たらしめが。
「アイリス様、やっぱりさっきから様子が変ですよ! お疲れなら部屋でお休みになられては……?」
クレアもミツルギも王女の俺には困惑の言葉しかかけられない状態だった……。
****
うーん、ここにもダクネスはいないな。
てっきり堂々と城内に入ったのかと……。
俺は『ダクネスを探せ!』の絵本みたく、城の中でダクネスを
(目薬は必須です)
「クレア、ララティーナはどこにいるのかご存じですか?」
「はい、ダスティネス卿なら先ほどの戦闘で
「今は入浴されて……」
ニューヨーク(入浴)という暗号にアイリスな俺の目がギラギラと光り、飢えた獣の瞳になる。
「クレア! 今すぐそのお風呂場まで案内しなさい! 私も一緒になってララティーナの背中の流しっこをしますから!」
さあ、クレアよ、焦って俺の言葉に迷いを持たず、早く風呂の支度をしろ。
着替えは持ったか、コーヒー牛乳は冷やしてきたか?
時間は有限なんだ。
レッ
「アイリス様!? いくらダスティネス卿であっても、王族が家臣の貴族の体を流すなど……!」
生真面目なクレアを無視し、ゴリラ歩きで前を進むアイリスな俺の台詞に正反対の論を求めてくるクレア。
「クレアも……日頃のお礼を込めて
アイリスな俺はクレアの方にクルリと体を捻り、精一杯の照れ顔でクレアを魅了させる。
クレアは口を開けたまま不意に黙りこみ、その切なき魅力に何かのネジが外れたようだ。
安心しろ、外れたネジなら300円までのおやつと一緒にお前の未来の墓場に供えておくから。
(小学生の遠足気分)
「とんでもございません、アイリス様! 今すぐお風呂場へと行きましょう。さあ、すぐさま直行で行きましょう!!」
クレアが目を輝かせ、興奮して呼吸を荒くしながら、アイリスな俺の両肩に後ろから手を置く。
クレアも立場が変われば扱いやすい騎士なんだな。
そんなんで鉄壁の守りは大丈夫か?
****
「アイリス様? パーティーの前にお体を清めに来たのですか?」
ダクネスがタオルで濡れた長い髪を拭きながら、アイリスな俺に話しかける。
「あの……ララティーナはもうお風呂から?」
「はい。私はすでに入浴は済ませましたけど……」
ちっ、一足遅かったか。
「そうですか。激しい戦闘で傷ついたララティーナやクレアの背中を流してあげたかったのに……」
「まあ、私が来るのが遅かったからしょうがないわね。ガッカリだわ……」
アイリスな俺は心からしゅんと落ち込み、眉を曲げて頬を紅く染める。
「「なっ!?」」
そのはじらひの落雷に二人の女性が無言となり、見事に悩殺されたようだ。
「いえ、折角のアイリス様からのご厚意なのです。そのお言葉に逆らうなど失礼極まりありません! もう一度お風呂に入りましょうか‼」
ダクネスとクレアがシャツのボタンを外しながら、アイリスな俺の前で脱ごうとする。
へっへっへ、俺の目が怪しい光でギラついているのも特に気にせずにな……。
(思考回路はオッサン)
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