第136話 この入れ替わった二人の間にだけ、叶えられる願いを‼(1)
「うおおおー!? マジで俺はアイリスになっってるんだなー!?」
アイリスが急に奇声を言ってスカートの端を摘まんでうちわのように大きく扇ぐ。
「すげえな! 目が覚めたら勝手に女装されたような感触だぜ。うおっ、このヒラヒラドレスとかもエロくて何とも言えん!」
「ちょっ! お兄様!!」
スカートを捲りながら、興奮した顔で内側に風を送り込むというより、あれがチラリと見せそうだが……履いてますよね?
「お兄様、私の体でそんな過激なことはしないで下さい!」
真っ赤で恥ずかしさ全開なカズマがアイリスのスカートに顔を
「女ってこんな無防備な格好で街中を歩いているのか! これじゃあ足元がスースーして恥じらい所じゃすまねーぞ!」
「二人ともその体勢は絵面的にアウトですので、いい加減離れて下さい!」
めぐみんが俺とアイリスとの密着を強引に引き離す。
『──アイリス様、先ほどから悲鳴を上げているようですが、どうなさいましたか!?』
この声はクレアか。
アイリスの俺はドアに背中を寄せて、廊下側のドア越しにいるクレアに話しかける。
この城の最新装備、もしもし壁通話だ。
(ただのドア越しの会話じゃん)
「おほほ。クレア、何でもないですわ! お兄様と山手線しりとりで遊んでいたら、ちょっと興奮しただけですわ!」
『そうですか。楽しむのも結構ですが、その男はセクハラ魔神なので、あまり長居をすることは控えてくれますように』
「あっ、はい! おかまいなく!」
はー、危なかった。
俺たち三人は深く深呼吸し、大きくため息を吐いた。
天然記念物みたく、セクハラの異名が付いたままだし……。
「さあ、これからどうすれば……」
「お兄様、みっともないですので足は閉じて下さい!!」
「俺としては今後も美少女として生きていくのもいい判断基準だと思うんだが、16年間男として生まれてきた自分の体にも未練はあるし……」
「今、カズマ、とんでもなく凄いことを言いましたよね?」
めぐみんがアイリスの俺に疑惑の目を向けてくる。
「それにしても困ったよな。このネックレスにさっきの言葉を試しても宝玉が光るだけで入れ替われないし……」
入れ替わりを解く暗号が別にあるのか?
しかも持ち主でもないのに、そのままそっくり体を入れ変えてしまうとは。
何て強力な魔道具だろうか……。
「どうしましょう……もう私には冒険者として生きる道しか残されていないのでしょうか……」
「長年居た城を追い出され、冒険者なのだからと危ない旅路に強情に送り込まれ……」
カズマのアイリスが椅子に行儀よく座り、足を内股にして、この世の終わりのように落ち込んでいる。
はっきよーい、終わった、終わった!
(ビバ千秋楽)
「それでもって、縛られることもなく自由で気ままに冒険ができ、仲間と出会い、迫り来るモンスターを倒して、未知の大陸へと足を踏み出し……」
「……あれれ? お兄様、私は元に戻れなくても最高に嬉しい気分です!!」
カズマなアイリスがわきをしめて手を握り、キュンとしたときめきで現状に酔っている。
もっともっと、ドきめき!
「王女様、とりあえずお気を確かに。今、とんでもなくアホなことを言っていますよ! あなたは王女なのですから現実逃避したらダメですよ!」
「えっ、でも冒険者も結構楽しそうですよ?」
うむむ、ワイワイ楽しくても、確かにこのままではマズイよな。
トイレや風呂とかに困るし、何より目の前の俺が何をしでかすか……。
この魔道具が呪われているのなら、アクアの魔力でどうにかなりそうだが……。
あれ、アクアはさておき、あの女神も何か言っていたな……。
──アクア先輩が転生者に与えた神器がこの世界に流れてしまいました。
カズマさん、私の代わりにその神器を回収できませんか?
──もしや、これがエリス様が言っていた頼まれ事のアイテムで、どうしようもないニートな一般人でも使える、あの二つある神器の一つか?
俺は首にかけたネックレスを手に取り、感傷にフケる。
まだ16とは言え、歳は取りたくないものだ。
(光って腰抜け玉手箱)
「おい、この魔道具はとある神器だ。これは体を入れ替える能力があるが、持ち主以外が使うと入れ替わりに時間制限があるみたいだ。ずっとこのままということは、まずないだろう」
「そうですか。元に戻れるのなら心配は入りませんね」
気落ちしていためぐみんの顔が明るくなる。
カズマなアイリスも同様に明るくだ。
こうやって城は明るさを取り戻していくのだ。
(何、この城、病んでるの?)
「あの……お兄様。相談があるのですが……」
「私、家臣無しで城の外を出歩いてみたいのですが!」
「なっ、それはヤバくないか……?」
「お願いです。この姿で居られる間に自由に外に出かけたいんです!」
そうか、城に閉じ込められ、たまに外出ができても家臣が付き添うから、気ままに街中も見て回れないのか。
色んな所に行きたい気持ちも分かるぜ。
俺だってサキュバスのお姉さんのお店が無ければ今ごろは廃人に……。
(ここに病んでる一名)
「いや、俺は構わないが、そのアイリス一人では危険な場所もあるというか……」
「……ダメでしょうか?」
そんな泣きそうな顔で責められたらいくら俺の姿でも困る。
「仕方がないですね」
アイリスの思いがけない投球にめぐみんが打って出た。
この魔球相手にはホームランするとは。
ロリの二軍にしては中々やるな。
「外面だけでもカズマがそうまで言うのでしたら私がついて行きましょう」
「あっ。ありがとうございます。お姉様」
アイリスなカズマの瞳が少女漫画のように薔薇色に染まる。
「あの……その、カズマの姿でお姉様の呼び方は止してくれませんか。普通にめぐみんでお願いします」
「あっ、はい…… めぐみんさん」
中身は王女だけあり、でしゃばらないカズマなアイリスは上下関係をよく認知していた。
「おい、気持ちはありがたいんだが、お前に任せて大丈夫なんだろうな?」
「心配はご無用です。私は家臣の人のように文句は言いませんし、値切って押しまくる買い物の上手な仕方や、街で売られた喧嘩上等な買い方などを教えてあげますから」
「はい。よろしくお願いします」
めぐみんの言葉に物腰よく頷くカズマ姿のアイリス。
おい、お前ら、調子に乗って人様の体で変な事件を起こすなよ!
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