第134話 このモンスターたちとの死闘を終えて、俺たちパーティーによる絆の深さを‼(1)

「あっ」


 見上げた視線の先には月光に照らされたお馴染みの女の子が座り込んでいた。

 そうか、俺はこの世界に再び帰ってきたのか。


「コボルトに殺されたカズマさん、お帰りなさい」

「おい、一回ぶん殴られたいのか、駄女神!!」


 俺は拝んでいるアクアのひざまくらから飛びのき、思っていることをぶつける。


「お前さ、仮にも女神だろ? 生き返った人間にそんなこと言ったら失礼だぞ。ちょっとは同じ女神のエリス様を見習え!」

「何よ、コボルトに殺された人に文句を言われる筋合いはないわ」


 ……辺りはやたら静かで、モンスターの気配がしない。


「あれ? もう戦闘は終了か?」

「ええ。今回のモンスターの量は凄かったわよ」

「お前、全部片付けた後で生き返すなよ」

「でも弱いからすぐに殺されるオチでしょ」

「ぐう……」


 ぐうのも出ない(出てる)とは、まさにこのことだ。

 それにしても激しかった戦闘の後にしてはこちらの被害が少ない気がするが……。


「あっ、アクアさん! お疲れ様です! 祝い酒を用意してますのでどうぞこちらへ!」

流石さすがですね。回復だけでなく、高度な蘇生魔法でもあるリザレクションさえも軽々と使いこなせるとは。まさにアークプリーストの鏡ですね」

「お陰様でこの戦いでの負傷者はゼロになりました。ありがとうございます」


 そうか、アクアが怪我人を癒したのか。

 普段はポンコツ醤油味だが、こういう時には大活躍するよな。


「ダスティネス様も先ほどの勇敢さには惚れ惚れしました!」

「えっと、いや……」 

「ダスティネス様が敵の攻撃を受けながらも平気な顔で魔王軍に突っ込んでいく後ろ姿にはもう心から痺れましたよ!」

「だな。魔王軍の指揮官なんて白目を剥いて驚いていましたよね!」

「そうそう、ダスティネス様が敵を引き付けてくれたので負傷者も最小限で助かりました!」

「だから私は大したことは……」


 ふむ、男戦士たちの誉め言葉に戸惑いながら返事を返すダクネスもやったんだな。

 あれだけのモンスターがいたんだ。

 ダクネスのデコイスキルも役に立ちまくりだったろうな。


「おい、みんな退いてくれ! 本日のMVPのお出ましだぜ!」


 そこへ木製の担架に寝そべっためぐみんが運ばれていく。

 ミイラになったピラミッドのツタンラーメンごっこか?


「全てを灰の粉にしためぐみんさんの登場だ。道を空けるんだー‼」

「「おおっ、魔法使いの常識を塗り替えた、偉大なるめぐみんさんだー!」」


 何だ、物騒な会話だな。

 灰にしたということは核戦争でもしたのか?

 平和をぶち壊したぜ、ヘイユー!


「おい、のんべえアクア。あれは何の騒ぎだ?」


 ヘイユーか、ラーユかはともかく、兵士から頂いた一升瓶を片手にさかづきをかわすアクアに一応尋ねてみる。


「ああ、あれね。敵の指揮官が『今日のいくさは遊びに過ぎないわ。今度はもっと大量のモンスターを率いれてこの王都を滅ぼして見せるわ!』と逃げようとした時にめぐみんの爆裂魔法がサクッと炸裂してね……」


 モリ○ガ、サクッとチョコレート。

 めぐみんも要領を得てきたな。

 確かに敵のど真ん中に爆裂魔法を放てばスカッとするよな。


「ありがとう、めぐみんさん! 前からあの指揮官の態度にはムカついていたんですよ。自己中もほどほどにして欲しいですよね!」


 ……あれ?

 ひょっとしてパーティーの中で俺だけが無駄死にしただけ?


「なあ、めぐみんさんの決め台詞も良かったよな!」

「そうだな! 『我が名はめぐみん! アクセル一番の魔法使いで最強クラスの爆裂魔法を扱える者。灰になるのはお前たちの方だ……』ってな!」

「フッ、これが実力の差というものです。我が爆裂魔法は魔王軍幹部やデストロイヤーさえも闇に葬ったのですから!」

「何と! あのデストロイヤーさえも破壊したとは! 何て素晴らしい大魔道師なのだろう! 是非、めぐみんさんの他の上級魔法も見せてもらいたい気分ですね!」

「ははっ……今日は魔力がゼロなのでもう魔法は使えませんが……それに明日も忙しい身でして……」

「いえ、大丈夫ですよ。仲間に声かけをして何日でも待っていますから!」


 ああ、どうしよう。

 めぐみんの大威張りな態度で話が大ごとになっていく。

 もう嘘の固まりのてんこ盛り牛丼(食品サンプル)になっても俺は知らねーぞ。


 ──夜明けとなり、日の光が降り注ぐ城の外で俺はめぐみんをおぶって歩いていた。


「カズマ、明日、朝一番にアクセルに帰りましょう」

「おい、口だけ大魔道師。英雄気取りもいいが、もう腹をくくって爆裂魔法しか使えないと言った方が良くないか?」 


 ──今回の勝利で城の中で祝賀会を開いているらしく、ダクネスたちは城内に行ったけど、俺は面倒だからここで待つことにしよう。

 あんなことがあったばかりで気まずいし……。


「あっ、お兄様!」


 城内にいたアイリスが俺の元に駆け寄ってくる。


「お帰りなさい。無事で何よりです!」

「アイリス、ただいま」


 ──お兄様!?


 ──俺におぶられたままのめぐみんの表情が変化する。

 いや、背中に目が付いてるのではなく、ただならぬ殺気(戦闘力)を察しただけだ。


「まあ、一回死んだから無事とは言えないんだけどな」

「えっ、一回死んだって大丈夫ですか!? まだお兄様の部屋はとったままですので、すぐに体を休めて下さい」

「おい、またお兄様と言ったな!!」


 めぐみん、耳元でギャースカ騒ぐな。

 この地面に問答無用で落とされたいのか?


「ありがとう。心配は無用だよ」

「そうですか。それでお兄様。お城に滞在できるような戦果は残されましたか?」

「いや、今回は不意討ちばかりであまり調子よくいかなくてさ……」

「そうでしたか……」

「……でもこうやって帰ってきただけでも嬉しいです! 王都のために戦ってくれた気持ちだけでも十分なのですから!」


 アイリスの言葉にジンとくる俺。

 こん子はほんまいい子やなー。

(あんた誰だよ?)


「私がクレアに直接掛け合って、お兄様をこの城に住めないか相談してみます」

「ありがとう、アイリス。でも今回は無様に死んだし、無理難題じゃないかな、まあ、また夜にでも会おうな」

「はい! 楽しみにしています」


 アイリスが元気よく庭を駆けて去った。

 若いっていいなあ。

(カズマおじいちゃんの視点から)


「おい、ちょっと私が居ない間にあの小娘に大層気に入られたみたいだな?」

「ああ、俺にとっても大切な妹ができたんだ」


『もうまぶたの裏に入れても痛くないんだぞ』とめぐみんに誇らしげに自慢する。


「じゃあ、アクセルの街に帰ったら私もお兄ちゃんと呼びましょうか?」

「お前はロリキャラセンター代表だろ? 俺は別に妹が欲しかったんだよ」


『鯉する焼酎クッキー』の歌が大ヒットしたRORIRORI46(ロリだけに)のセンターだけどな。

 未来は酔っ払いだらけだよ~♪


「おい、貴様、私を何のキャラだと思っている。いい加減にロリ扱いするのは止めてもらおうか!」


 背中越しにめぐみんからへっぽこパンチを食らいながらも俺は城に入り、馴染みの客室へと向かった……。

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