第133話 この不機嫌な女神に納得がいく説明を‼

「いや、エリス様。俺もですね、途中までは上手く敵と戦えていたんですよ!」


 危険で狂暴なモンスターはすでに他の冒険者が退治していたから、それなら俺は数で勝負(運動会の玉入れ?)だと、雑魚の人狼コボルトに狙いを定め、先を行くダクネスの後方から矢を五月雨さみだれの感じで放ちまくった俺。


 ……とそこまでは良かったのだが、ここで俺のつまらぬ欲が膨れ上がり、『コボルトなんか俺の抜き打ちテストの敵じゃねー、俺だって着実にレベルアップしてるんだ!』と叫びながら、弓矢を納め、一番ひ弱そうなコボルト一匹をちゅんちゅん丸を片手に追いかけていったら……。

(ヘタレカズマだな)


 大量のコボルトから周りを塞がれてボコボコと挟み討ちに遭いまちた……ばぶぅ。

(こんばんは赤ちゃん)


「……いや、深追いして起きたことは事実ですが、あんなに大勢のコボルトが身を潜めていたなんて……」 

 

 ドヤ顔で勝利宣言をした男の末路がコボルトにボコられて死んだとか、みっともないよな。


 いや、待ちたまえ。

 コボルトとボコるって響きが似てね?


 しかし俺の説得にエリスは何を感じ取ったのか、真一文字に口を閉じたまま、一言も喋ろうとしない。

 いつもとは違う彼女の顔だが、これが彼女の本性なのか?

 いや、裏表のないエリス様だけに、それはあり得ないと思いたい。  

(恋は盲目)


「あの……エリス様。俺も大概、反省してますんで、いい加減に機嫌を直してもらえますか?」

「カズマさん……どんな理由であっても、セクハラはやったら駄目ですよ?」


 エリスが伏し目がちに照れた表情で俺に発した言葉……はっ、俺、何かしただろうか。

 俺の思考が数秒フリーズする。


 ……ああ、そうだった。

 エリス様は地上の様子が丸分かりだったんだ。

 先日に部屋に忍び込んだエリス教徒である盗賊娘にお茶碗を揉むなどのセクハラをしたんだった……。


「いや、あれはですね、誤解なんですよ。胸のスレンダーの部分からてっきり男だと思っていまして……それでわしゃわしゃと……」


 俺の性論せいろんに対し、エリスの体が自家発電のように小刻みに震えている。

 怒りから電力を補えたら、これほど便利な生産エネルギーはない。


 エリスはむすーとした不機嫌な顔つきで俺のことをじっと睨んでいた。

 俺の脳内に天使を乗せた暴れ馬が暴れまくり、『謝れモード』が発動する。


「ごめんなさい。何だかよく分からないけど本当にごめんなさい。エリス様」


 俺は石畳の冷たい床で深々と土下座をする。


「……本当にあなたはセクハラが多すぎですよね。冒険者としての自覚はあるのですか」

「はい、すいません」

「まあ、最近は可愛い妹さんもできて心から幸せな生活をおくっているみたいですけどね。ねっ、お兄様ってw」

「えっ、俺の行動をどこまで見てるんですか?」


 俺はつくづく思った。

 この女神には隠し事はできないと……。


「ふふふ……。まあ、いじめるのはここまでにしましょうか。それよりあなたに頼みがあります」

「はて、頼みとは?」


 俺に頼み事とはなんだろう。

 主婦の目が光るスーパーで駄菓子を大人買いする勇気がないので、俺にその買い物を頼むのかと?


「昨夜、カズマさんがセクハラした私の信者から話を聞きましたよね?」


 ええ、話なら脳にカビが生えるほどに。

 でもセクハラ発言は消えないんですね。


「アクア先輩が与えてきた神器が世間に流れてしまったことですが……」


 そういえば俺が何も聞くまいと布団で抵抗してる傍でそんなこと言っていたな。


「でも前に俺がチートな魔剣を使おうとしても、持ち主以外は普通の剣と一緒だと聞かされましたよ?」

「そうですね。神器は持ち主本人限定でしか、本来の力を引き出せないということは真実です」


 何でも切り裂いていく強力な魔剣は普通の剣、無限の魔力が使える魔法の杖は魔力が早く回復する杖と、普通の神器なら悪いことに使われても大したことはないらしいが……。


「ですが、行方不明の二つの神器は本当の力が使えなくても十分な効果がある神器なのです」

「モンスターを使役できる神器は対価や代償を払えば使役ができるようになり、他者と体を入れ替えれる神器は入れ替えに時間制限がつくだけです」

「フムフム……。それは恐ろしいな。条件付きだが、能力的には変わらない、ノビオをダメにする僕ド○えもん的なアイテムなんですね」


 その二つの神器を使う時はある情報を与えないと簡単には使用はできないのだが、持ち主以外でも神器を使えることを知れば転生者の方々が目の敵にされるかも知れない。


 エリスはこんなセクハラ魔神な俺に必死になって説明してくれた。


「カズマさん」

「このような神器はアクア先輩に渡したら封印をしてくれます」

「これはお金にも名誉にもならない仕事ですが……」


 エリスが俺の両手を握り、しっとりと湿った柔らかい感触が伝わってくる。  


 そうか、他ではない俺だけの頼み。

 エリスも手汗をかいているということは心の底では緊張してるんだな。


「カズマさん、どうか、私の代わりに神器の回収をお願いできませんか?」


 この可愛くて清楚な女神様の言うことが聞けないほど俺は腑抜けじゃない。

『ええ、エリス様のためなら喜んで』と答えた瞬間に俺の額が細い指で押され、意識が遠ざかっていった……。

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