第132話 この義賊の夜這いに正当な防衛策を‼

「ねえ……きて……ねえ……」


 城下町の宿屋で爆睡する中、一人の女の子の声がする。

 これは夢の言葉じゃないようだ。


「ねえ、起きてってば」


 そうか、現実の世界で俺の寝込みを襲うとはいい度胸だな。


曲者くせものにフタであろうにー‼」

「ひゃあああ!!」


 俺は妄想を捨てて、侵入者の後ろに回り込んで、俯せにさせ、身動きがとれないように二つのお茶碗を揉む。


「ひゃあああっ! だからあたしだよ。さっきからどこ触っているの!」

「ああ、その声はクリスなのか?(棒読み)」


 クリスが胸を揉まれてもがくのを何となく察し、俺は不可抗力という言葉を彼女に付け足しておく。


「──全く、折角せっかくあたしが来て義賊をやってる事情を話そうとしたらこれだもん」


 俺はクリスの急な言い分に両手で耳を塞ぐ。


「って、耳を塞がないであたしの話を聞いてよ!」

「どうせ厄介事だろ。聞きたくないから帰れ!」


 俺はベッドの掛け布団を頭から被り、頑固拒否の姿勢をとるが、クリスはその布を強引に引き剥がそうとする。


「なら無理矢理にでも聞いてもらうよ」


 ──クリスの話にいると、この世界には超強力な神器じんぎと呼ばれる装備品や魔道具が存在しているとか。

 それらは簡単には入手はできない代物だが、その神器を持っている者には共通点があり、黒い目と黒い髪をした、ちょっと変わった名前をした持ち主がおもらしい。


「だからね、キミのようなヘンテコな名前の人しか手に入れられない物でもあるんだ」

「おい! 俺のイカした名前にケチをつける気か? 紅魔族の連中の名前と一緒にするなよ!」


 なるほどな。

 ミツルギに与えた魔剣のように、アクアが転生者に渡していたチートアイテムのことか。

 ちなみにまだ俺へのアイテムは貰っていないままだが……あの女神め、永遠に脱がないつもりか?


「それでね、所有者がいなくなって、二つの神器が世間に流れて、ある貴族が買い取った所までは突き止めたんだけど、それ以降の情報はサッパリで……」

「それでどんな神器なんだ?」

「ランダムにモンスターを召喚して使役できる物と、他人と体を入れ変える物みたいだよ」


 使役はともかく、体を入れ替えるだと?

 その転生者は何を考えていたんだ?


「それでどこに行ったのか、あたしの宝探知スキルで貴族の家を色々と調べていてね……」

「いくら感知しても神器じゃない宝とかばかりだったから、じゃあ、ついでに悪徳な貴族の怪しいお金や財産を奪っちゃえって感じになったんだよ」


 何だ、ル○ン三世みたく、ノリと勢いで義賊をやってたのか。


「まあ、何となくは分かったけど、クリスが神器を集めてる理由って何なんだ?」

「あー、それは時期が来たら説明するよ」


 クリスが咳払いをして、今度は彼女が俺に突っかかる。


「それよりもカズマ君! 昨日キミが泊まっていたアルダープさんの屋敷から、異様なお宝の気配がして忍び込んだんだけど、屋敷にはすごい魔道具とかあった?」


 うーん、どう考えてもあのマジックミラーは神器とかじゃないよな。

 ダクネスが破壊したし。


「もしや、アクアの羽衣のことじゃないのか? 物干しに干してるけど、あれでも神器とか言ってたし……」

「アクアさんか。それならいいか」


 クリスが俺から目線を反らして、納得したような表現になる。


 何だ、アクアと聞いてやけに大人しくなったな。

 あの女神と訳ありか?


「じゃあさ、ここで本題に入るね!」

「実はさ、お城の方からも強烈なお宝の気配を感じてさ……! そこで何だけど色んな便利な盗賊スキルを持ったキミと一緒に……」


 おい、今までのは序の口だったのか!

 俺の警戒レベルが頂点に達する。


「ほら見ろ! 俺に犯罪者になれと言ってきたもんだ! 断るに決まってるだろ!!」

「お願いだよ、神器を回収しないと後々大変な目に遭うんだよ!」

「いいからとっとと帰れ! そんなことは俺じゃなく、勇者やってるヤツとかに頼んでくれ」

「えー、あたしとしてはキミにやってほしいんだよね!」

「うるせー、覚えたての『バインド』の魔法でセクハラされたいのか!」

「わっ……分かったよ。今日はこれで帰るから! でもまた来るから……」

「いいから失せろ、バイン……」


 クリスが何やら文句を叫びながら窓から飛び降りて逃げていった……。


「ふう。あらかた片付いたな。次から次へと勘弁して欲しいぜ」


 確かアクセルの街のギルドでは俺は幸運のステータスがやたらと高いと言っていたが、あの話はデマなのか?


「幸運の女神エリス様、どうか俺に平穏な毎日を……」


 俺は布団に潜り込み、今度こそ安眠の願いをこめてまぶたを閉じる。


『カン、カン、カン、カン!』


 俺の眠りを邪魔する悪魔な警告音。


『魔王軍襲撃警報! 魔王軍襲撃警報! 騎士団は出撃準備をせよ! 王都にいる冒険者の皆様も準備を整え次第、出撃をお願いいたします! 繰り返します……』


 魔王軍か知らんが、もうお前らも夜中は寝てろよ。

 まあ、別に夜は眠らない夜型でもいいが、こうも騒いだら近所迷惑だぞ。


「カズマ、魔王軍が来たぞ。出撃準備だ!」


 眠そうなメンバーの二人を引き連れ、一人だけ元気なダクネス。


「いや、今は寝てますよ。それにここには英雄ミツルギ先生や、強い王族の皆さんがいるでしょ?」

「何を言っている。貴様ふざけているのか! 二人を見習え!」


 ダクネスがアクアとめぐみんを俺の前に突き出す。


「ダクネス、王都にまで来て何で戦わないといけないのよ。私は遊びに来ただけよ‼」

「おい、アクア、ワガママを言うな。めぐみんを見てみろ! こんなにやる気に……!」


 ダクネスの言う通り、めぐみんの瞳は順丈じゃないほど燃えていた。


「ええ、私は魔王軍の元に一人で向かい、伝説の魔法使いに名を馳せるのです! ……ってダクネス、手を離して下さい!!」

「待て、一人では無茶だ。やめんか!」 


 今宵はいつまでも喧しいな。

 そもそもアクセルで金持ちになった俺はこんな戦闘に参加しても何の得もない。


 いや、待てよ?

 この戦いで俺たちが活躍すれば、義賊を捕まえるのに失敗した汚名返上で城に戻れるのでは……?


「ああ、どうして我々のパーティーはこうまでして協調性がないのだ!」


 ダクネスがアクアとめぐみんをなだめながらも困り果てた顔で二人の動きを腕っぷしだけで防いでいた。

 流石、脳筋ゴリラ二号だけのことはある。


「……おい、お前ら」


 俺は枕元から静かに立ち上がり、ちゅんちゅん丸の鞘を腰にあてがう。


「国の危機を前に何じゃれてんだ。さっさと戦場いくさばに行くぞ!」


「「「……」」」


 その場の空気の流れが一瞬で変わった。

 俺の凛々しい侍の発言に無言になり、白々しくなるダクネスたち。


 そうさ、この戦いでモンスターを退治して成果を上げ、またアイリスと一緒に暮らすんだ……。 


 ──そんな順風な流れでいけると思ったのだが、気がつくと俺だけが、一人の無愛想な女神が立っている、例の無機質な神殿で目覚めていた……。


「……どうもです。エリス様、お久しぶりです」


「まさかこのレベルで低級雑魚なコボルトに殺されるとは思ってもみませんでした……」

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