第131話 この魔剣使いの話を聞くために自身のやるべきことを‼(2)

「それじゃあ本題に移ろうか。これは君にとっても重大な話なんだ」

「何だよ、さっさと用件を言えよ。話の展開がゆったりでイラついた読者が急かしてるぜ。前書きのページごと破られたいのか」

(この作品はデジタルです)


「ああ、すまない。以前、アクセルの街に魔王軍ベルディアが襲撃したことがあっただろう」


 襲撃があっただろう? とか、よく自信持ってそんな自慢話ができるな。

 肝心のお前はいなかったくせに。


 あの時、街が水浸しになって多額の修繕費で赤字に転落した俺の生活は地獄だったぞ。

(原因はアクアなのでは?)


「ベルディアが無言でアクセルに来た理由として、あの街に大きく神々しい光が降りてきたと魔王軍の予言者が発言したことがきっかけだったそうだ……」


 ──初めは半分も信用せずにベルディアを送った魔王だったが、そのベルディアが消され、続いて送ったバニルの関しては消息不明になり、さらに紅魔の里を攻略中のシルビアさえも最近倒されたと聞く……。


「それってとどのつまり……」

「それらの件に関して魔王軍の噂で、あるパーティーが必ず関わっているという話が魔王の耳にも届き、魔王自らもその冒険者パーティーに興味が湧いたらしい」


 そのパーティーのことって100%野菜ジュース的な俺たちのことじゃんか!?

 体に優しいくせして危険な目に遭うって何なんだよ!

 悪い物を中和する肝臓は何をやっている!

(働かない○胞)


「……ってことは、どゆこと?」

「つまり、そのパーティーが住むアクセルの街にまた幹部が攻めてくる確率が高いってことなのさ」


 自堕落でテレビを観ながらポテチに指を染め、気長に幹部を送っていた魔王のようであったけど、実は裏ではそんな面倒な様子になっていたのか。

(カズマ絶賛妄想中)


「それはそうと、アクセルの街に降りてきた大きな光ってもしや……」


 俺は紙ナプキンで折り紙を折っていて夢中なアクアの方に顔を向ける。


「いや、まさかな……」


 こんなアクアが今さら何だろう。

 ストローの袋で芋虫ごっこや紙ナプキンで折り紙をして遊ぶ子供のようなヤツだぞ。


「僕はアクア様のことじゃないかと思っている。初めは僕が舞い降りてきた光と思っていたんだけど……」


 うわっ、こいつナルシストプラス自意識過剰な性格かよ。

 自称とんでもなくめでたい御利益みたいなヤツだな。


 俺はミツルギに嫌悪感を抱き、座っていた椅子を一歩ヒイて、遠ざかる。

 よし、半径二メートルの心の距離は保ったぞ。

(十分な車間距離をとろう)


「おい、そんな異質な目で僕を見ないでくれ……!」

「とにかくだ!」


 話が熱くなったミツルギの会話に、眠気さえ襲ってくる。

 そんな異議院選挙(異世界ならでは?)がどうしたって?


「本気になった魔王軍がアクセルの街ごと滅ぼそうとしてきたら、アクア様であろうと無事ではすまないだろう」 


 ミツルギが手元のジュースを飲み終えて、静かにテーブル席を立つ。


佐藤和真さとうかずまよ、僕がもっと強くなり更なる力をつけるその日まで、精々アクア様を守ってやってくれ」

「まあ、アクアがいないと困るからな」

「ありがたい。恩にきるよ」


 将来マッスル候補のミツルギはテーブルに三人分のお代を置いて、アクアにご丁寧な一礼をする。


 ほお、無茶な話を聞いてくれたとして飲み物代は奢るのか。

 それなりの常識は持っているんだな。


「それでは女神様、これにて失礼します」

「そうなの? じゃあ指輪をくれたお礼にナプキンで作った折り紙でもどう?」


 タイトルはエリス神の重厚ロボであり、胸の装甲が着脱でき、三段階の変形も可能だとか。


「お前、凄いな!?」


 俺はアクアのテクニカルな折り紙で金儲けを企み、オリジナルの折り紙をゲットしようとした。


「なあ、アクア。俺にもそれを作ってくれ」

「嫌よ。オーダーメイドを採用しているから同じ物は作れないわ。高速移動戦車付き冬将軍なら作ってもいいわよ。戦車と離れる機能もつけて」

「おうっ、じゃあそれで頼むぜ!」


 この戦車に可愛らしい女の子のイラストを付けて大量生産すれば飛ぶように売れるぞ!

 パ○ツでフォー!

(冬将軍はオマケか?)


「佐藤和真……君とアクア様とは本当に仲がいいんだな」


 何も知らないミツルギの目からは俺たちは姉弟のように見えているのだろうか。


****


 ミツルギと別れて、街中を歩く俺とアクア。


「そういえば私、久々に女神って呼ばれたわね」

「あのラスラギさんって人も実はいい人かもね」


 だったらちゃんと名前を覚えてやれよ。

 名前の呼び方からして、何もかも終わった剣士の男に見えるだろ。

(ラスト山羊さん?)


「おい、一応確認しておくが、あいつはお前が送った魔剣の人だぞ。魔剣の」

「あっ、そうだったわね」

「お前、頻繁に顔を会わせないとすぐに名前を忘れるよな。もうメモっとけ」

「メモ? さてはイモ焼酎の仲間かしら?」

「お前、本当に女神かよ……?」


 焼酎とかさりげなく言ってくるし、コイツの素性が図り知れない。

 女神の顔して中身はおっさんか?


「まあ、何だかスッキリしたわね。二人が予約した宿屋へ向かいましょう」


 アクアが大きく伸びをして、軽やかな足取りでステップを踏む。


 このを魔王軍が警戒してる?

 いや、それはまず無いな、あるはずがない……。

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