第130話 この魔剣使いの話を聞くために自身のやるべきことを‼(1)

 あれからさらに日が進んだ日中、アイリスと付き人が居る王の間で俺は義賊を捕り逃したことを報告した。


「ふーん。あれだけ会場で強気に宣言して賊からは逃げられたと」


 聖なる騎士とは相反な据わった目をしたクレアが俺に口答えをする。


「ああ、そうなんだよあー。でも俺がいなかったらアルダープのオッサンが色々なお宝を盗まれていたからな……」

「それも言えてますね。まあ今回はいいでしょう」

「魔王軍に幹部を倒してきたカズマ殿には荷が重すぎたのでしょうね」


 俯瞰ふかんの目線で話を紡ぐクレアの顔は怖いほど白い歯をこぼしていた。

 積年の恨みが募ったような身の毛もよだつ顔だ。


「まあ、それは何よりご苦労様でした!」


 挨拶は生き生きだけど俺と遊んでいた頃と違い、どことなく元気がないアイリス。


「義賊の逮捕ができなくてもあなたは盗みを未然に防ぐことができましたから!」


 表情を明るく保ったアイリスが王座から立ち、俺をただただ誉める。

 どうやら元気がないのは俺の思い過ごしだったようだ。


「ですのであなたが責められる理由にはなりません」


「アイリス様……」


 王女よ、ありがとう。

 こんな俺でも庇ってくれて。

 ええ、もういいからもらい泣き。 


「カズマ殿、アイリス様の優しさに感謝することですね」

「ですが、貴族が居る中であれほどの話を吐いて今回は失敗とは……。本来なら罰があるものですが、アイリス様の名により、無罪とします」


 この城ではちょっとした発言でも罪になるのか。

 以後、上がらないよう、気をつけなければ……。


「しかし捕縛ができず仕舞いのあなたには、この城には滞在できる理由にはなりません!」 


 クレアが大きく手を広げて俺たちを追っ払う。


「さあ、理解したのなら、さっさと立ち去られよ! 衛兵よ、連れていけ!」


****


「カズマ、お前にしては上出来だったぞ。あまり気にするな」


 俺たちパーティーは城から出され、王都の城下町を歩いて雑談をしていた。


「アイリス様の言う通り、賊の犯行を防いだのだからな。ヘタレのわりには立派な行いじゃないか」

「そうです。もう長居はせずに帰りましょう。アクセルの家でゆっくりすればいいじゃないですか」


 ダクネスとめぐみんが俺を励まそうと会話を振ってくる。


 俺だって城でニート生活を送りたいわけじゃないんだ。

 単にあの大きな城で寂しそうなアイリスの姿が気になっただけなのに……。


「しょうがないか、気を取り直して、一回家に帰るか……」


 考えることは山ほどあった。

 情報量が多すぎてシュレッダーにかけて粉々にしたい気持ちでもあるな。

 記憶の容量がイッパイなだけに。

(一杯食わされた男)


「あっ、アクア様じゃないですか!」


 後ろから声をかけられて、見返す先には、これまたイケメンな初号機(人間だよね?)がいた。

 イケメンよ、神話になれ!


「街で見かけないと思いきや、王都にいらしていたのですね」

「あなた、誰かしら?」

「えっ……ああ、アクア様は本当に冗談がお好きですね……」


 ブラウスの上に薄いコートを重ね着したチャラ男の言われように対し、小声で俺に話しかけるアクア。


「……ねえ、カズマ。私のファンか何かは知らないけど、あの男やたらと私に馴れ馴れしいんですけど?」

「ああ、この人はミツアメさんだよ。前に会ったじゃないか?」

「んー、確かに甘い誘い文句よね」

「誰がだ、僕の名はミツルギだ!」

(僕の名は→前々前世)


 黒飴好きな熊さんはお怒りのようだ。


「まあいい、丁度良かった。君とアクア様に大切な話があるんだ」

「何だよ、今忙しくて時間が惜しいんだ。オツルギ」

「だからミツルギだと言っているだろー‼ 君にとっても大事な話なんだから少しは耳を傾けろ!」

「しょーがねーな。ダクネスとめぐみんはちょっとそこら辺で楽しんでいてくれ」

「そうですね、じゃあ私はダクネスと買い物でもしてきます」 

「悪いな。お気遣い感謝だぜ」


 二人を残し、俺とアクアはミツルギの背中を追いかけていった。


****


「それで何の話だよ、モテそうなイケメンの分際で恋バナか?」

「いや、その前にアクア様にプレゼントが……」


 喫茶店のテラスにある丸い席に座り、ミツルギが指輪がはめられた四角いケースをアクアに手渡す。

 アクアは意図が読めずにその箱を両手で受け取り、納められている指輪をぼんやりと眺めていた。


「アクア様は見た感じアクセサリーを身につけておりませんので、もしよろしければと思いまして」

「うわ……。これまた重い品を……」


 俺の背筋に悪寒が走り、一歩ヒク形になる。


 モテる男であっても、付き合ってもないのにプレゼントが指輪とかおかしくね?

 俺とつつきあってって(ツボを突くの?)言ってるもんじゃん。


「なに? これタダでくれるの?」

「ええ、どうぞ! 安物ですみませんが……」


 ミツルギが穏やかに爽やかなスマイルを見せる。


 いや、どう見てもダイヤの宝石がキラキラした指輪だろ。

 魔剣が特殊なだけに、どんだけ稼いでるのか、こんにゃろー。

 最近流行りのYouT○beもやっていて、そこからの報酬も含まれるか?


「お前、よくこんなチャラいことができるよな……いつもの取り巻きの二人の彼女を放っておいて、ここでアクアをナンパしてていいのか?」

「ああ、違うよ。彼女たちは取り巻きじゃなくて僕の大切な仲間だ。今、彼女たちは隣の国で経験値を稼いでいるよ」

「いつも僕と一緒だと、僕が沢山倒して、彼女たちは、ほとんどレベル上げができないからね」


 それでその間はこの男は王都付近でモンスター退治をしているとか……。

 いくら剣が強いとは言え、お前、余裕だな。

 剣は剣でもアキレス腱みたいな構造とかじゃねーよな?


「あの……指輪のサイズが合わないんですけど?」

「ああ、それは今は魔法がかかっていて、自動でサイズの調整ができまして……」


 ミツルギの答えにピンとアイデアがひらめいたアクアは持ち前のハンカチでテーブルに置いた指輪を包む。


「カズマ、見ててよ!」


 アクアがハンカチを取ると隠していた指輪は跡形もなく消えていた。


「どうかしら? 今即興で考えた新作の芸よ!」

「おおっ、凄いな! それで指輪はどこに移動したんだ?」

「えっ? どこか分からない所に消したから居場所とか聞かれても困るわよ」


 お前のマジックによる転移先はブラックホールかよ。 

 俺ら三人のテーブルだけの空気がスクラップ記事としてハサミで切り取られたような気がした……。


「サイズの合わない安物でも場合によっては使い道があるものね。ありがとう」

「いえ、アクア様の芸のお役になったのなら……」


 笑顔の裏でミツルギが落ち込んでいるのが、恋愛に素人な俺にでも分かる。


 こりゃ、渡した相手が悪かったな。

 お気の毒にな……。

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