第129話 この屋敷に忍び込んだ義賊の明かされた正体を‼

 アルダープの屋敷に泊まり、あれから一週間が過ぎようとしていた。

 今晩も俺はあんパンと牛乳で腹を満たしながら一人で深夜の張り込みをしている。


 だけど賊は一向に現れず、めぐみんからは俺とデートしようと言ってきながら毎日、日課の爆裂魔法に付き合わされるし……。


 どうせこんなことだろうと思ったぜ。

 めぐみんも里の事件以来、完全に吹っ切れて遠慮が無くなったみたいだな。

 お陰でアルダープの元には苦情ばかりきてるし、やっぱりあいつには上級魔法を覚えさせるべきだったな。


 しかし、参ったな。

 義賊がこの屋敷を全然狙って来ないとは……。


 俺たちが張り込んでいる計画を知って行動に移さないのか?

 元より外れクジを引いたのか?


 ──ふと、俺の暗視スキルが発動する。


 キッチンに誰かの気配を感じるな。

 アクアめ、さては酒のつまみでも切らしたか?


 飯代も後でアルダープに請求されるし、タダじゃないんだぞ。

 ちょっと後ろから脅かしてやるか。


「ふう……見張りはいないよね?」


 いや、アクアじゃないな。

 何者だ?


「今まで無性に嫌な感じがして、この屋敷だけは避けてきたんだけど……」


 そうか、見えざる相手は義賊か!!

 ようやくお出ましか!


「そこに誰かいるの……?」


 おっと、ヤベエ!

 俺は慌ててその場から離れる。


 義賊ならと盗賊職に当てはまるだろうし、敵感知のスキルに注意しないとな。

 こっちも潜伏スキルで近づかないと……。


「気のせいか、誰もいないか」


 フードで顔を隠し、俺のいた廊下を見渡す。


「さて、こっち側にお宝があるのかな」


 この泥棒ネコめ、そうはさせないぜ!


「義賊、確保だあっー!!」

「キエエエエッー!」


 俺は白鳥の喧嘩のような奇声で相手の動きを止め、大きくジャンプし、義賊に襲いかかり体ごと捕まえる。


「ふぐっ!?」


 そのまま相手の背中に抱きついて、相手ごと地面に倒れる二人。

 掴んだ手に伝わるマシュマロのようなやわらけー感触。


 あれ、少し小さいが胸が付いている限り、こいつは女なのか?

 いや、それに惑わされてる場合じゃない。


「おい、この王都を騒がす賊とやら! 俺が来たからにはそうはいかないぜ!」

「覚悟しな、俺は例え女でも容赦しない鳴く子も黙る民主主義派だぜ!」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 俺はジタバタする女を背後から押さえつけ、動きを封じる。


「ねえ、君ってもしかしてカズマ君!?」

「へっ?」


 何か、この女の声、どこかで聞いた覚えがあるな……。


 女がフードを頭で払いのけ、端正な顔の女の子が上半身を捻り、こちらを向く。 


「あたし、クリスだよ! 前に君に盗賊スキルを教えたあのクリスだよー!」


 静まり返った闇夜に彼女の可愛らしい叫び声が響く。


「あれ、お前ゴーストじゃなく、正真正銘のクリスなのか?」

「ねえ、カズマ君。本物と分かっているならその両手を離してもらうかな」

「あっ……すまん。つい出来心で」


 俺は手の中にすっぽりと収まった二つのお椀の固まりから手を退ける。


「ううっ……カズマ君に身体中まさぐられて……もうお嫁にいけない……」

「いや、賊かと思ってな。捕まえるためのちょうどいいスキルも覚えてないし」

「それなら後からバインドというスキルを教えてあげるよ……」


 あの魔王軍の幹部、シルビアがやった縄で縛る技か。

 変態野郎のプレイを思い出しただけでも気分が悪い。


「いやまさかの新発見大陸だな。クリスがあの義賊だったのか……」

「うん。カズマ君はどうしてこんな所に?」

「ダクネスたちと賊を捕まえる目的でここの監視をしていたのさ。例え義賊でも犯罪は見過ごせないしな」

「えっ、ダクネスもいたらヤバいじゃん!? こんなことしてるのがバレたら……!」


 アイツも鬼ではなく人の子だ。

 素直に謝罪すれば命までは取らないだろう。

 ちゃんと面と向かい合い、お互い話し合いで自身の犯した罪を償うといいだろう。


 熱々のカツ丼が冷めないうちにな……。


「違うんだよ。これにはきちんとした理由があって……」

「あん、キッチンばさみが何だ?」


 クリスが頬にひとさし指を当てながら、本当のことを話そうとする。

 待て、この展開はどこかで?


「おいっ、話はもう聞きたくないし、ダクネスにも言わんでいい! 俺がこの場で許すからクリスは人がいないうちにさっさと逃げろ!」

「えっ、どうしてさ?」


「……ちょっと協力して欲しいことがあるんだけど……」


『協力』という嫌なNGワードが口から飛び出てきた。

 この流れからして、また厄介事に巻き込まれる最悪なバッドエンドルートだな。

 聞いたら俺が損するだけだ。


「よく考えてみろ。この屋敷の主はあの極悪人のアルダープだぜ?」

「えっ?」

「あの変態に捕まったら、あんなコトやこんなコトなどのキツいおしおきが待ってるぜ……」


 俺がクリスの耳元で悪魔の囁きをすると、彼女の顔の血の気がドンドン引いていく。


「わっ、分かった。今日の所は退散するよ。事情はまた今度に説明するからさ!」

「いや、今度じゃなくて、もう二度と来なくていいぞ。それより俺にバインドをかけてくれないか! 賊が逃げたってことの言い分になるからさ!」

「ああ、分かったよ」


『バインド!』


 クリスの手のひらから無数の縄が飛び出した。


****


「おい、どうした。怪我はないか、カズマ!」


 クリスが去って数分後、騒ぎを聞きつけたのか、寝巻き姿の三人組が縄で拘束された俺の元へ駆け寄ってくる。


「ああ、お陰でこの有り様だぜ……」

「カズマ、これは賊にやられたのか?」


 いや、賊じゃないとこんなに丁寧に荷造りされないだろ?

 ダクネスが結び目を何とか見つけてほどこうとするが、この魔法は指先なんかでは到底解けない仕組みだ。


「くっ、縄が固すぎて解けん……」

「ダクネス、みんな悪い……頑張ってみんなを守り抜くために戦闘に持ち込んだんだが、俺の力量不足で……」

「そうか、うまいこと逃げられたか。でも命があるだけマシだ。あまり気にするな。それでどんな相手だったのだ?」

「怪しい戦隊ヒーローものの仮面を着けた恐ろしい強敵だった。魔王軍の相手より戦闘力が上かも知れん……」

「そこまでの相手でしたか!?」


 めぐみんもびっくりしながら、俺の姿を痛々しく見ている。


 また来るとか言ってたけど、相手が知り合いだけに、ヤツを捕らえるのは並大抵ではいかないかもな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る