第16章 悪徳な屋敷に盗みに来た義賊と、ある女神の子守唄

第128話 この義賊を捕まえて安眠な生活ライフを‼

 豪華なシャンデリアの下で紡がれる俺の最後の晩餐会。


 俺は一人で場所に戻ってきた。

 やっぱ、いつ来ても空気が美味しいぜ。

(新鮮な料理がお待ちしております)


「おおっ、ダクネス! ここにいたか。しかもクレアまで一緒とは」

「ま……またお前か。今度は何しに来た。今、忙しいのだが……」


 ダクネスが八の字の眉になり、ビクリと身を震わす。


 そりゃ、あれだけ嫌がらせをしたら誰でもこんな感覚になるよな。

 すまんな、悪気が過ぎたぜ、ダクネス。  


「どうかしましたか、カズマ殿?」


 ダクネスとは裏腹に、いつも面倒事を押しつけてきたクレアは至って冷静だった。


「アイリスから聞いたぜ。この王都では義賊というヤツに貴族たちの資産を狙われているらしいな」

「ああ、確かに行いが悪い貴族が狙われているみたいだが……」

「それがどうしたのです、カズマ殿?」


 クレアが不思議そうに俺の様子を見る。

 そんなに俺の衣装がおかしいのか?

(おかしいのは君だ!)


「そのふざけた義賊を俺が捕まえてやるぜ!」

「はあ!?」


『ざわざわ、ざわざわ……』


 その途端、俺の発言にざわめきだす会場。

 貴族の皆さん、俺に悟られずに小声で話しても会話は全て筒抜けですよ。

(自主規制)


「おい、カズマ。今度は何の冗談だ?」

「いや、早く捕まえないとダクネスの家も狙われる可能性もあるし」

「おい! 当家は義賊に襲われるような悪どいことはしてないぞ!」


 良家ダクネスのお家柄、それはないとは思うが、反乱分子はできるだけ摘み取っておきたい。


「みんな聞いてくれ。義賊だからってやっていることは盗みと同じで許される訳がない!」

「数ある魔王の幹部を撃退した俺たちが今回の件も見事に解決してみせようぞ!」


 逆転裁判的な流れで変な日本語になったけど、俺は現地出身であり、無罪だから。


「カズマ、お前らしくもない正義感を振りかざして正論を言って何のつもりだ? ついに頭がイカれたか?」

「だってさ、俺が義賊を捕らえたという善行で王族から高く評価されてさ、この城で本格的に養われたくて……」

「あなたも懲りない人ですね!」


 クレアが俺に怒鳴り声を上げる。

 それでこそ、クレアらしい。

 俺はその感情を待っていた。


「素晴らしい!」

『パチパチパチ!』


 さらに華麗なるターンを終えた俺の後に無数の拍手が飛び交ってきた。


流石さすが、ダスティネス様のお仲間だけのことはある。自分は義賊に標的になる覚えはありませんが、賊が捕縛されるとは喜ばしいことですね」


 あれだけアイリスの遊び相手のニートとかパッとしない男とか言っておいて、調子のいい連中だな。

 でもこれが成功した暁には駄々っ広い城の中でゴージャスにゴロゴロニャーニャーできるぞ。

(猫まっしぐらだニャー!)


「了解しました。カズマ殿が選んだ素行の悪い貴族の家に泊まって、そこで義賊を捕縛するために張り込みをしてもらいます」


 えっ、クレア。

 俺にその宿泊先を選ばせるのか?

 知らない人でも優しく迎え入れてくれる田舎の民家とは違うんだぞ?


「この作戦が上手くいきましたら、改めてあなたの城での滞在を考えてみますので……」


 本当だな、武士に二言はないんだな?

 クレアは騎士であるが、この際どうでもいい。


 俺はもてる頭脳をフル発揮し、泊まりの宿を探すことにした……。


****


「それでワシの屋敷にやって来たと? ダスティネス様もワシがそんな悪徳貴族と思われで?」

「いや、アルダープ。これは別に……」


 一夜が明け、俺たちはやたらとでかくて立派なアルダープの屋敷に赴いていた。

 そうだな、あんたの所が悪い意味では一番人気だろ。


「まあ、いいでしょう。世間の目もありますし、この屋敷に義賊が来ると言うのなら気が済むまで滞在して下さい」


 おい、あのアルダープが俺らに頭を下げたんだぜ。

 寝耳に水とはこのことだ!

(中耳炎になります)


「おっしゃ、滞在の許可が下ったぞ!」


 俺は屋敷の前で宙にピースサインをする。

 このチョキで勝機を取り戻せ!

(目つぶし)


「俺は一番大きな客室だぜ!」

「あっ、カズマ抜け駆けする気! なら私は食堂に近い部屋ね!」

「私は一番上の部屋が良いです!」


 俺たちはオッサンが住む屋敷の陣取り合戦に夢中だった。


「……すみません。皆さんまだ子供っぽくて。アルダープ様、しばらくご厄介になります……」

「……いえいえ、ダスティネス様も苦労しておられますな」


****


 俺は屋敷内の中庭を一人で歩きながら計画を練っていた。


 それでどうやって義賊を捕まえるかだが、ここは賊の気持ちになって探ってみるか……。


 侵入するとしたら深夜帯だろうし、できるだけ侵入しやすい場所を選ぶだろう。


 あれ、この窓とか簡単に外れそうじゃないか。

 あのオッサン、立派な屋敷に住んでいるのにこういう所はケチって作っているのかよ。


 それで窓から入ったら壁沿いに廊下を進んでと……何か俺が義賊になったみたいでドキドキするな。


 俺は壁の先にあった扉を盗賊の真似事みたくゆっくりと開くと、その部屋には木のバケツを持ったアルダープがいた。


「むっ! お前、この場所に何の用だ!」

「いや、賊の侵入経路を探っていたら偶然な。しかし使用人がいるのに、あるじ自らが表立って掃除だなんて泣かせてくれるぜ」


 あれ、そのわりには物は一切なく、壁に大きな円状の鏡があるだけの殺風景な部屋だが……?


「あっ、おいっ。その鏡は……!」


 やたらとソワソワしているオッサンを置いといて俺はその鏡を覗き込む。


「あれ?」


「何だ、この鏡、奥の部屋が丸見えだぜ」


 奥の部屋は浴室みたいだが、スカートを膝上まで捲り上げ、素足にてデッキブラシで床をせっせと掃除をしているメイドさんは無反応過ぎる。

 いや、こちらの気配にすら、気づいていないのか……?


「もしかしてこれがマジックミラーっていうものか?」


 なるほど、このオッサン、ダクネスがこの浴室に入るのを楽しみにしながら鏡の手入れをしていたのか。


「オッサン、ここで取引をしようじゃないか! ダクネスやメイドさんには黙ってやるから俺にこの部屋を使わせろ!」


 俺は強気な姿勢でオッサンを責め立てる。

 お前のものは俺のもの。

(byジャ○アン)


「……いや、お前こそワシと取引しないか?」

「お前からはワシと同類の匂いが漂っている! 男同士、この鏡の前で仲良く幸せに浸ろうじゃないか!」


 男と言われ、精悍な顔つきになった俺はアルダープに質問を投げ込む。


「そんなに凄いものなのか?」

「ああ、見れば見るほどすんごいぞ。ワシと一緒に楽しもうでは……」


 俺とアルダープが熱い交渉成立の友好条約な握手をしようとした時だった……。


「ほお、それは面白そうな話だな?」


 物音も立てずにダクネスが俺たちの間にさりげなく登場する。


「そんなに喜んで、何がすんごいのか私に

も聞かせてもらおうか……?」


 壁に背をもたれて顔を俯かせ、黙って腕組みをするダクネス。


「「コイツが覗きをしようとして……」」


 俺とオッサンが同時に相手に指を指し示す。


「……」


 次の瞬間、グラリと動いた無表情なダクネスの正拳突きが鏡に直撃し、鏡は粉々の破片となったのだった……。


「ワッ、ワシの遺産がぁぁー‼」


 世界遺産に登録していたか知らんが、執着心もほどほどにな。


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