第127話 この思惑通りにいかせないためにほんの少しの黒いユーモアを‼

「アルダープ様……」


 勇気ある一人の貴族の男がアルダープに問いかける。


「……失礼かも知れませんが、ダスティネス様に相応しい方とはどなたになりますか? 噂によればあなた自身がダスティネス様に好意を抱いていたようですが……?」


 ロリコンオッサン、憐れなり。

 いくらダクネスがそれなりの年齢でも、オッサンとは年齢差が離れすぎている。


 まあ、何だ。

 好きになり、愛をはぐくむのは個人の自由だが、この晩餐会にて、やっぱりロリコンだと後ろ指をさされる末路になるとは……。


「無論、ワシではない」

「ちなみにワシの息子バルターでもないぞ?」


 バルターか、懐かしい響きだ。

 元気にやっているだろうか。

(カズマおじいちゃんより)


「今となっては家格以上に個人で実績を伸ばした女性において、ダスティネス様と釣り合う男など一人しかおらんだろう」

「フッ、それはつまり俺のことか」

「おい、カズマ。紛らわしくなるから、お前は口を出すな」


 ダクネスから軽く頭を拳骨される。


「そう、現在、国王陛下と国の正規軍と共に魔王軍と戦闘をしておる第一王子のジャスティス様に決まっておる」 


 ダスティネス様も最近では魔王軍の幹部を次々と撃破しており、この国の英雄ともいえる存在だ。

 そして、二人の間に強くて立派な子供が生まれれば、この国も安泰に違いないと……。

 アルダープの顔が余裕に満ちていた。


「ううっ、確かにな……」

「ジャスティス様に比べれば私たちの実力は平民以下の存在かと……」


 アルダープの言葉で混乱を満たす貴族たちもジャスティス相手には白旗を上げつつあった。


 誰だよ、ジャズなんたらって?

 有名人のわりには、まだ俺は会ったことがないぞ?  


「くっ、アルダープめ。さっきから好き放題言いおって……」


 個人的に苦手意識らしいこのオッサンの前で気に入らない態度を示すダクネス。

 そろそろ白馬の王子様の出番かな。


「おい。それじゃあ俺との禁断な関係はどうなるんだ」

「!?」


 周りの異様な目が一斉に俺の方を向く。


「この俺をぼろ雑巾のように捨てるというのか。ララティーナよ!」

「カ、カ……カズマ様、いきなり何を申すのですか!?」


 ダクネスがとんでもなく慌てて俺の肩を掴む。


「またまた困りますわ。そのようなご冗談は!」

「冗談も何もお前さんとは、花と蜜蜂の誓いをした仲じゃないか」

「カズマ様、それは何の大嘘で?」


 俺とダクネスは正面から恋人繋ぎのように眼前で手を握り合い、お互いの気持ちをぶつけ合う。


「おい、あの頃を思い出すんだ! お前が俺の背中を優しく流してくれたり、俺のことをご主人様と呼んで叫んだ特殊プレイの数々を……」

「カズマ様、ご冗談もほどほどにしませんと、後々大変なことになりますよ!」


 俺とダクネスの空気がガラリと変わる。

 ようやく鬼の目に覚醒したか。


「へえー、俺相手にいいのかララティーナ。お前の怪力をここで発揮すれば周りの貴族方からゴリラ女二号のアダ名がつくぜ!」

「何のことかさっぱりですね。でも二号ということは元祖もいるということですよね。それならば、か弱い私も元祖に見習い、少しだけ力を入れてみましょうかしら」


『グギリ!』

「のはあああー!?」


 ダクネスから手首を捻られ、腕から伝わる激痛により、俺はダクネスから手を離し、床の上でジタバタと転げまくった……。


****


 いや、悪気はなかった(少しだけ)んだぜ。

 モテモテのダクネスに腹が立って、ちょっと邪魔しただけじゃんか。


 それに今日の晩餐会は俺が主役だろ!

 ダクネスの方が注目されて俺だけがこんな外に追いやられてさ……。


 一人ぼっちで城のバルコニーへと押し出され、何とも言えない孤独が心を支配する。


「お兄様、こんな場所でどうしたのですか?」

「アイリスちゃま!」


 ついに俺の目の前でも天使のラン○セルが現れたぞ。

 ラララーン♪ 天使のバネ~♪


「うわああーん、何て神憑り的な妹なんだ! ボッチで寂しがっていた兄を気にしてやって来るなんて!」

「えっ、お兄様?」


 俺は泣きながらアイリスとのいちゃつきを希望したが、彼女の無言なグーなる抵抗に、そこで思い止まった……。


****


 バルコニーの手すりの上に二人並んで座り、思い出話に華を膨らます。


「明日からまた静かなお城に戻りますね」

「クレアやレインを悩ませる誰かさんが帰ってしまいますから」

「あの二人もこの一週間で俺を見る目が変わったよな」


 あれは俺を獣のような類いで見ているからな。

 実際は欲を被った獣に間違いないけど……。


「まあ、騒がしかった城が静かになるんだ。俺のような邪魔者が消えて、みんなせいせいするだろうさ」

「それはそうですが……」


 足元を見て、心底寂しそうな顔になるアイリスときたもんだ。

 俺はその横顔を見て、思っていたことを語り出す。


「アイリスもここ一週間で随分と俺になついてくれたよな。出会ってすぐに強引に妹扱いする俺も俺だけどさ」

「……ご迷惑だったでしょうか?」

「いや、嬉しいんだけど俺のどこを気に入ったのかななんて」

「いえ、私、あなたのようなタイプと出会ったのは生まれて初めてでしたので……」


 一人だけ無礼で物怖じもせず、あげくには王族のわたくしにおかしな話などを吹き込み、さらに問答無用でゲームでは子供っぽいやり方で勝ち逃げをしてみたり……。


「おい、俺の嫌な所じゃなく、気に入った所の話だぞ?」

「はい、そうですよ。それが気に入った理由です」


 アイリスが俺に屈託もない顔で笑いかける。


 俺の中の心拍数が急上昇した。

 おう、近くで見るとますます可愛いな、こいつ……。 


「この一週間、あなたと過ごした日々は永遠の想い出となるでしょう」

「……ララティーナもこんな想いを抱いているのでしょうか。きっと毎日が幸せなんだろうな……」


 月夜を見上げたアイリスはどこか切なげで見ている俺の心を苦しめた。

 俺が帰ればこの子はワガママを捨てて、再び王族という旗を背負って生きていくんだろうな。


 でも何か味っ気がないんだよな。

 俺がこの城に残れる理由はもうないのだろうか。

 そもそも帰る理由は俺がこの城で何の役にも立たなかったからだけど……。


 俺もこの王都で何かしらの功績を出せば、俺はここで必要とされる人間になるわけだし……。


「私もララティーナみたく、冒険者になって旅してみたいですね」

「うん?」

「いえ、王族は代々高い魔力を秘めており、盗賊の職業に就けば、今話題の義賊みたいになれるかも知れませんね。でもそんなことをしたら、クレアからお叱りを受けますね」

「いや、ちょっと待ってくれ、話題の義賊って何ぞや?」


 今、巷で世間を騒がす義賊。

 評判の悪い貴族の家の資産を盗み、翌日にはエリス教団の経営する孤児院に置かれる沢山の寄付金。

 その盗賊は義賊と呼ばれ、平民を中心に周りから過大な人気を誇っているとか……。


「……それで王族の私が盗みをし、義賊として呼ばれたら、ちょっと格好よくないですか?」


 義賊か。

 例え義賊でも盗賊に変わりはない。

 だとしたらその義賊を俺の手で捕らえれば……。


「アイリス、それだああああー!」


 俺の決定打の合図に、指を指されたアイリスは言葉を失っていた……。

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