第126話 この別れの晩餐会に現れたイケメンたちに勇ましい暴言を‼

 いつ見ても美しい満月の夜。

 時が過ぎても欠ける気配を見せないからして、俺の知り得る月面を食事場所とするウサギたちも異世界でのお餅つきはやらないのだろうか。


 城内の高貴な輝きを纏う会場にて、俺のお別れ会として、場違いな人たちの集まる晩餐会に招待されたのはいいものの……。


「ちょっとカズマ!」


 やれやれ、またきたか。


「この天然の野良メロンに生ハムをのっけたやつなんだけど、凄く新鮮で美味しいわよ!」

「それは良かったな」


 アクアから食べられたメロンの切れ端らしきものがビチビチと体を震わしている。


 ああ、メロンよ、お前さんの言い分は分かってる。

 スプーンですくわれた場所が痛いんだな。

 安心しろ、じきに全てアクアの腹に収まるからな。


「カフマカフマ、ほれもおいひいれふよ!」


 めぐみん、口に物を入れたまま喋るなよ。 

 どこの怪しげな異国の言葉かと思ったぞ。


「酢飯に乗った高級プリンにわさび醤油をかけたこのご飯は何とも味わい深い味ですね」 


 八色に広がる宝石箱やー! と言いたい所だけど、それプリンじゃなくて、ウニの軍艦巻きだからな。 

 でも今頃、彦丸さんもグルメ試験会場(それ、どこだよ?)で無線を聞きながら、うんうんと納得しているはず。 


「あっ、あっちには高級森のポンポコたこ焼きがあるわよ!」

「おい。お前ら、恥ずかしいからあまりハメを外すなよ!」


 これで何度目だろう。

 俺の屋敷でグルメからほど遠い食生活からにして、初めて食べた料理に俺に向かって感想を述べるアクアとめぐみん。


 俺は念のため、一人の保護者として忠告する。

 二人のマセた小学生? を相手にするのも中々大変だぜ。


 アイリスが俺のお別れ会を開いてくれたのはいいが、王族や貴族ばかりで正直俺たちは浮いてしまい、居心地が悪いな。


 それで一応貴族で通っているアイツはどうしてる……?

 俺はルネ○サンス伯爵のようにワイングラスを少し傾けながら、ダクネスの方に視線だけを移す。


「ダスティネスきょう


 一人の若い貴族がダクネスの前にひざまずき、一輪の薔薇バラの花を差し向けていた。


 薔薇の花言葉は純愛ともいう。

 罪深い女だ。

 純愛とか、純潔とか似合わない女なのにな。


 ……っていうか、ダクネスのことは女神級扱いなこのキザみ海苔みたいな野郎は誰だよ。


「こういう公衆の場が苦手なあなたがこのような会場に参加するとは珍しいこともあるものだ! 忙しい最中さなか、遠い異国から出向いたかいがあった」

「あ……あの」


 薔薇を受け取ったダクネスは少し困ったような顔つきになっている。


 だよな、ダクネスにこんな綺麗ごとは通じない。

 いつも好きなのは花の方ではなく、トゲによる愛のムチだもんな。


「……今宵こよいは名ばかりなあなたに出会えて本当に良かった。いつ見てもお美しい姿。感激の言葉もありません」

「おっとヴィルヘルド卿、抜け駆けは卑怯ですよ。ダスティネス卿、お父上のイグニス様はお元気ですか? 実はわたくしはイグニス様とは仲がよろしくて……」

「ああ! 麗しい。あなたに会えたことを女神エリスに感謝します!」

「百年に一度だけに咲く月光華草げっこうかそうですら、あなたの美には敵わない」

「このパーティーが終わったら、わたしとデートを……」


 イケメン貴族集団にグイグイと攻められ、モテまくりなダクネス。


「オホホ。皆様お上手な言葉ですこと。お手柔らかにお願い致しますね」


 お前、どこの誰だよ。

 多少なりともイラついた俺はダクネスにカマをかけることにした。


「よっ、こんな所にいたのかララティーナ。今日はモテモテだな、ララティーナ!」

「ぶっ!?」


 ダクネスが口に入れていたワインを勢いよく吹き出す。


「そうだな。ララティーナにも衣装というべきか、よくドレスが似合っているじゃないか。なあ、ララティーナ?」

「ゴホゴホ……こっ、これは失礼をした……」


 ワインを喉に引っかけてむせかえるダクネス。

 おい、責めに生じてヨダレが垂れてるぞ。


「ダスティネス卿、顔色が冴えないようですが、大丈夫ですか?」


 イケメン貴族たちがダクネスの身を心配している。


 いい気なもんだ。

 コイツらはこのお嬢を見かけだけで評価して本性を知らない。


「どうなさったのですか。冒険者仲間のサトウカズマ様? そのような名をこの場で連呼されると、私たちの関係が入らぬ方向に誤解され、災いを招いてしまうではないですか。オホホ」


 ダクネスが口に手を添えて、お上品に笑ってみせる。

 だから誰なんだよ、おめーは。


「あはは……冒険者のお仲間だったのですね」

「下の名前でダスティネス卿を呼びますから、余程の深い間柄と勘違いしましたよ」


 おい、イケメンたちにはなぜかウケてるみたいだが?


「しかしダスティネス卿のお仲間だけあり、ジョークも冴えていますね」

「確かにダスティネス卿の名前をイタズラであろうとも、下の名で呼ぶなんて羨ましいかぎりですね」

「いっ、いやその……」


 天下無敵な防御力のダクネスにヒビが入り、頬がひきつっている。


「それよりもダスティネス様には婚約者はいらっしゃるのですか?」

「あなた様をお名前で呼べる幸運な男として、わたくしから名乗りを上げてもよろしいですか?」

「ええー!?」


 話が結婚という思わぬ方向に飛んでしまい、色恋に興味がないダクネスがうろたえる。


「ちょっとお待ちを‼ ダスティネス家に見合いを申し込んだわたくしを先に譲るのが紳士としての礼儀ではないのか!」

「いや、ここは私が」

「違う、私だ」

「あっ、あの。皆様……!?」


 ちっ、何かムカつくぜ。

 あいつら、美人なのか、胸がデカイせいか、ダクネス相手に一向に引かないよな。

 だったら、ここで別の爆弾発言を仕掛けてだな……。


 作戦コードネーム、裏切りのじゃじゃジャーキー馬娘発動だ!


「──お主ら、近年、多大なる功績を揚げているダスティネス様にはもっと相応しいお相手がいるだろう」

「貴公たちでは話すらならんな」


 その禁断な作戦を遂行しようとすると何者かが俺の邪魔に入る。

 あれ、あのヒゲのオッサンは俺が判決を受けた裁判所で熾烈な言葉を投げかけていた……?


「これはアルダープ様。ご無礼を致しました……」


 イケメン共もオッサンの地位には逆らえないようだ。

 地球の重力で落ちるリンゴと一緒だ。


「あんた、何でこんな所をうろついてるの?」


 だが俺はあえて、その波に逆らった。

 するとアルダープが修羅の顔になり、俺との間合いをグイと詰める。


「貴様がワシの屋敷をぶっ壊したから、王都の別の屋敷に暮らしておるんだろうが!」

「それからこのワシに対してあんたとは何様だ! アルダープ様と呼ばんか‼」


 おうっ、顔に唾がかかる。

 粋な消毒剤みたいだな。

 ハンドソープの仲間? だけに。


 それにしてもこのオッサン、今は王都に居るのか。

 美少女ならまだしも、これまた変な場所で再会したよな……。

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