第125話 この王女に強引に拐われて覚悟あるごっこ遊びを‼(4)

「なあ、アイリス。お前さんは城の外を出歩きたいと思わないのか?」


 俺はアイリスと例のボードゲームをしながらアイリスに気になる質問をする。


「え? それはどういうことでしょう?」

「うーん、アクセルの街限定じゃなくて、川とか山とか、辺境の片隅にはボードゲーム専門店などもあるんだ。世の中は色んなもので満ち溢れているぞ」


 近所の主婦に評判な怪しい仮面をつけた変わった悪魔や、お店が貧乏な売り上げゆえにもやしやパンの耳を主食にしている友好的なリッチーとかもいるしな。


「お兄様、私が城の外に出るのなら騎士団の護衛が必要になります」

「……私は一人で王都からは出られない決まりですし、そんな悪魔やリッチーがいるわけないでしょう。あまり私をバカにしないで下さい」

「これまた随分と疑われたもんだな」


 余程、俺による竹とんぼの騙され方が嫌になったのか?

 レインめ、冗談の一つも通用しないのか?


「世の中には常識が通用しないことも数知れずあるんだぜ」


 俺は多少オーバーな表現になりながらも少しでもアイリスを和ませようとする。


「これ知ってるか? 魚は川や海で獲るんだが、ししゃもだけは畑で獲るもんなんだぜ」

「いや、それはご冗談でしょう!?」

「本当だよ! 俺が酒場で働いていた時、裏の畑からイキのいいししゃもを獲ってこいって……」

「それは……お兄様がイジメに遭って……」

「おい、人聞きの悪いことを言うなよな!」


 畑には確かにぶっ刺さっていたんだぜ。

 あれを他に何だと言うんだ?


「はい、ここで王手です」

「ぬえっ、しまった!?」


 アイリスが騎士の駒を俺のアーチャの駒の前に出す。


「集中力が散漫になりましたね、お兄様。今回も私の勝ちです」

「ちょっと待てよ、もう一回やり直しだ」

「いいえ、認めません。それからお兄様……」

「……例え城の中でも、今の私は毎日充実した暮らしを送っていますので」


 アイリスが要領よく俺の前で笑っていた。


****


 ここに来て一週間が経った……。

 アイリスの城で貸し出された自室でゆったりとベッドにあぐらをかく俺。


「アイリスもよく笑顔を見せてくれるようになったし、最初の頃の素直で大人しいアイリスはどこに消えたんだろうな」


 最近は俺を舐めてるみたいだから、ここで兄と妹という上下関係というものを分からせてだな……。


 ──お兄様、ダメ、私がいるこんな所でイケない勉強をして。

 そんなことはちゃんと自室でやって。


 やろうにもできないだろ?

 見えない部屋で、

 朝顔の観察日記なんてさ……。


『──コンコン……』


 おっと、のんびり妄想してる時じゃない、そろそろメイドのメアリーが来る時間だな。


「どうぞー」


 さて、アイリスのお勉強が終わるまでメイドさんの調教でもするか!


「さあ、メアリー。いつもご苦労様と言いたい所だが、俺のシーツを取り替えたいなら、こう言うんだ。ご主人様どうかわたくしめに……」


 出入り口から現れたのはメアリーではなく、俺の願いを威圧的な態度で見つめ返すいつもの三人組だった。


「カズマ、結構いい部屋に住んでるじゃない」


 アクアが落ち着きもなく、部屋の周りをキョロキョロと見ている。


「おい、クズマ。ご主人様どうかわたくしめに……? の後に何と言いかけたんだ? 内容によってはただじゃおかんぞ」


 ダクネスが指の関節を鳴らし、俺を尋問するように問いただす。


「いえ……。わたくしめにご主人の香りがするシーツを……」

「何だ、セクハラはお前の専売特許だろうが。毛布を頭から被って変に恥じらわず、とっとと続きを言わんか!」


 ダクネスの押しの言葉に耐えきれず、俺は堪らずダクネスに手をかけた!


「お前ら、ここは俺の聖域だぞ‼ 何しに来た!」


 怒りの俺はダクネスの指を絡めて食ってかかるが、ダクネスはそれを怪力で食い止める。

 この怪獣め、俺の氷魔法で氷河期の化石になりたいのか!


「何を言っている! お前を連れ戻しに来たに決まってるだろう!」

「めぐみんなんか、貴様がまた何かの厄介事に遭ったのかと思い、飯も喉に通らないほどに心配していたぞ!」

「ダクネス、そこまで私は心配はしてませんよ!?」


 とんでもない発言にめぐみんの声が裏返る。

 何だ、ただの風邪気味だったのか……。


「さあ、帰るぞカズマ。お前にこの城は不向きだ!」


 俺の腕が女子レスラーダクネスにより、強引に引っ張られる。


「いいや、俺はアイリスの遊び役という仕事に就いたんだ。これからの余生はここで笑って楽しく生きていくんだよ! だからこの手を離せー‼」

「何を言っている! 貴様がアイリス様に変なことを教えるから不埒な影響を受けているとクレア殿から聞いたぞ⁉」

「別にいいじゃないか。アイリスは段々と明るい性格になってきたからさ!」

「いや、聞けば聞くほどにお前のような変な絡み言葉も覚え、親不孝な悪影響も生まれつつあるとか。お前が帰らないのなら力ずくで帰らせるぞ!」


 ダクネスが俺の首に腕を回して、身動きがとれない型へと持っていく。


「クソアマがー!! そんなヒラヒラのドレスの中身をスティールするぞ! そのまますっぽりと大惨事になってもいいんだな!」

「ああ、やれるものならな!」


 そのままレスラーダクネスは俺の体を封じるように寝技に持っていく。


「さあ、生まれたままの姿にしたいのなら、今すぐここで剥いてみろ! ゆで卵の殻のようにツルンと剥いて私を襲う覚悟があるならやってみろ!」

「おおぅ、開き直ったな、このエロ担当め! あっ、あいたたたー、やめろー、折れるぅー!!」


 ダクネスによって完全にはめられた腕挫十字固うでひしぎじゅうじがために俺の腕が悲鳴をあげていた。


「あの……。ララティーナ……。できれば、そんな可哀想なことはしないで……」

「アイリス様……」


 俺の部屋に立ち寄り、暴力沙汰を止めようとするアイリス。


「アイリス様、この男は人の皮を被った性獣せいじゅうです。この男は私たちが責任をもって連れ戻します」

「あの……それでも……」

「うっ……そんな目で見ないで下さい。アイリス様」


 いいぞ、アイリス。

 そのまま俺を引き止めるために、ダクネスカードの動きを封じろ!


「お気持ちは分かりますが、アイリス様。この男は屋敷持ちで名も売れてきた冒険者です」

「アクセルにはこの男の知り合いもいて、居なくなれば心配する者もいますし、私たちもこの男を心配して、ここに駆けつけたのです」

「そういう理由ですので、そろそろこの男を解放して頂けると私たちも助かるのですが……?」


「……分かりました」


 あぐっ、アイリス、そこですんなり納得するなよ!

 一国の王女なんだかワガママを貫き、もっとグイグイ迫れよな!


「あの……ララティーナ。せめて今晩までは皆さんとご一緒に……」


 今夜限りとなったアイリスの最後のお願いとは、自身の城で俺のお別れ会による晩餐会へのご招待だった。

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