第124話 この王女に強引に拐われて覚悟あるごっこ遊びを‼(3)

「だからあれは誤解なんだ、アイリス」


 場所は城の中庭にある神殿のような一畳ほどの部屋。

 柱と同じ石の丸テーブルがある部屋でアイリスに懸命に釈明をする、黒いスーツを着た俺。


「だからさ、お兄ちゃんは変態じゃなくて、今日はパジャマがなかったら下着で寝ていたわけで……」

「分かりましたから、もうこの話は止めましょう。!」


 あー、折角、お兄ちゃんと呼んでくれたのにな。

 家族移住計画の脚本が全て白紙状態だ。


「そうか……じゃあ話は変わるが、城に残った俺はアイリスの教育係でもすればいいのか?」

「い、いえ……。私の教育相手はクレアとレインが担当ですので、お兄様は、わっ……私の遊び相手にと申しまして」


 そういえばレインもアイリスの遊び相手になってと言っていたな。

 しかしアイリスはこの城で一番偉い王女様なんだから誰かに頼めば相手ならいくらでもいるはず……。


 ……うーん、歳のわりに大人びているから、周りの人々に気を遣ってしまうんだろうか。

 自分のワガママで周囲がどれほど振り回されるのも判断していて……。


 引っ込み思案な性格みたいだし、ストレス解消のため、俺が少しでも彼女を楽しめてあげるといいか。


「ああ、いいぜ。何して遊ぼうか?」


 まあ、無礼な寝起き姿を見せた償いもあるよな。

 俺はアイリスの内なる願いにとことん付き合うことにした。


「は……はい。今日は習い事はありませんので、このゲームの相手をして下さいますか?」


 アイリスがどこかで見たようなチェスのボードゲームを俺に見せる。

 これってめぐみんとアクアが俺の屋敷で遊んでいたゲームにクリソツだな。


「それでいいんだな。俺は王女様相手だからって手加減はしないからな!?」

「はい、望むところです。お兄様の本気を見せて下さい!」


 フッ、元ゲーマーの俺の腕を甘く見るなよ。

 どんなゲームでも俺の手にかかれば一発でコロリさ。

(※ボードゲームは大切に扱いましょう)


 アイリスが泣きながら俺にすがりつき、『お兄様、今日はもう勘弁して下さい』と、わびを入れる姿がまぶたの裏に浮かぶぜ。


****


 夕暮れ一色に染まった中庭の部屋に朝から居座り、二人は白熱した勝負(ゲームだよね?)を見せていた。


「あの、お兄様。もうじき夜になりますので今日は終わりにしましょう……」

「ふざけんなよ、このまま勝ち逃げするのかよ!」


 百戦百敗だが、アイリスの癖やこのゲーム性も少しずつだけど分かってきたんだ。

 次こそこの王女様に勝って、俺の胸の中で泣かせてやる。


「よし、もう一回だ! 先に言っとくが手加減するなよ。一発で分かるんだからな!」

「本気で遊ぼうと言ったのは、お兄様の方でしょ。とっても面倒な方ですね!」


 たかがゲーム、されどゲーム。

 そのゲームの勝敗をかけて二人は言い争っていた。


「やかましい! このゲーム、何なんだよ。仲間とプレイしてもテレポートばかりで逃げやがって、肝心な時にいねーよな!」

「私にそんなことを言っても、このゲームの製造者ではありませんので!」 


 口から怨念の炎を漏らしながらアイリスに楯突く。

 その製造者とやらをこの炎で焼き尽くしてくれるわ!


「おい、こら貴様、こんな所で何をしている!」


 俺たちの痴話喧嘩(違う)にクレアが飛び出してくる。


「夕食ができたのでアイリス様を訪ねてみれば! その乱暴な物言いは何だ!」

「駄々をこねずに負けを認めろ! 早く夕食が冷めないうちに食堂へ行け!」


 お前には分かるまい。

 こんな年下に負かされた俺の傷ついた心境を!


「こんにゃろー! クレアの邪魔が入ったから勝負は明日に持ち越しだ。今度こそ絶対に勝つからな!」

「もう、お兄様はゲームなんかで思いっきり燃焼して、全くもって子供ですね」


「お兄様!? アイリス様、こんな男をお兄様と言いましたよね……!?」


 クレアがアイリスにお兄様の質問を投げかけてもアイリスはその件についてはノーリアクションだった……。


****


 昨日の争いが嘘のようなのどかな次の日、俺は城の中庭に一人でいた。


「こうやって、王族の方々は一般人にはない、多くの才能を持ってお生まれになり……」


 アイリスは今日はレインとお勉強なんだな。

 聞いていて意味不明な内容からして、経済学か何かだろうか。

 暇で暇でつまらないな。


「おそらを~自由に~舞いた~いなー!」

「うりゃ、竹とんぼー‼」


 四次元の未来からやって来た俺は幻の遺産、竹とんぼを空中に放つ。


「カズマ様! 勉強中のアイリス様の邪魔はお止め下さい!」


 上の窓から顔を出したレインから怒られて、その場からすたこらとネ○ミ小僧のように撤退する俺であった……。


****


「はあ、はあ……おっ、お兄様、授業は終わりました。先ほど窓から見えた空を飛んでいた魔道具は何ですか?」


 アイリスが息を切らせながら俺の元に寄ってくる。

 別に急いで走ってこなくても俺はここにいるぜ。


「ああ。こいつは風の魔法を秘めた高性能の魔道具でな……」


 俺は両腕を捻り、竹とんぼを上空に飛ばす。


「こうやって回数無制限で何度も回せ、誰でも単純に飛ばせるアイテムなのさ」

「えー、無制限にですか!? まさに神の遺産みたいじゃないですか!」


 俺はそこでピンと閃いた。

 これならアイリスに勝てるかも知れない。


「……それでだ。これからあのゲームをして、ある条件を聞くのなら、これをあげても良いぜ?」

「はっ、はい。聞かせて下さい!」


 ─今日の日中も王女様とのゲームの勝負は続いた。


 そして、通算二百三十回目。

 勝利の女神はついに俺に味方したのだ!


「はい。私の負けです」


 アイリスがアーチャーの駒を置いて降参する。


「やったぜー! 俺の勝ちだー‼」

「ふふっ、お兄様は子供みたいです」

「じゃあ、約束だったから、この竹とんぼを差し上げよう」

「は、はい。ありがとうございます」


 ご褒美にと竹とんぼを渡す俺。

 本当は金メダルとかもあげたいんだが、予算がねーからな。


「でも、これで良いのでしょうか。駒を一つ落とした勝負でこんな貴重な魔道具を頂いて……」

「うむ、これでええのだ!」

「お兄様はたまに不思議な語呂を言いますよね?」

「ウイスキー、ボンボンだからな」


 バ○ダ大学を卒業した腹巻きを身に付けたおっちゃんの姿が頭をよぎる。


「アイリス様、ここに居られたのですね。あら、それは竹とんぼですか?」

「あっ、レイン」

「レイン、この魔道具は凄いんですよ。まさに神の遺産と呼ばれた高性能の……」


 そこでレインが不思議そうにアイリスが持っている竹とんぼをじっと眺める。


「魔道具ですか? どう見てもそれは普通の竹とんぼでして、竹を削って作っただけの子供のおもちゃですよ……」

「アイリス様、作り方を知れば誰でも作れますよ?」


 レインの答えにアイリスが頬を怒ったフグのように膨らます。


「お兄様、嘘を吐きましたね! 先ほどの勝負は取り消しです!」

「はははっ、アイリスの世間知らずを上手く利用した俺の作戦勝ちだ!」

「それは認めません! 私と勝負のやり直しです!」

「おおっ、もう飯の時間か。今日は俺の圧勝ということで仕舞いだな」

「ああ、卑怯です。どさくさで勝ち逃げするのですか!」 


 アイリスがムキになって俺に言いかかってくる。

 悪くないな、異世界で可愛らしい王女様とこんなゲームのやり取りも……。

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