第15話 このデュラハンとうんぬんな決着をつけるための作戦を‼(2)

『セイクリッド・ターンアンデッド!』


 アクアが両手でハートの輪っかを作り、最大級の神聖魔法をデュラハンに向かって繰り出す。


「ごあああああー‼」


 その激しい聖なる炎の衝撃波に体ごと魂を持って逝かれそうなデュラハン。


「ぐおおおおー!! あちあちあちー!!」


 石畳の地面で体ごと、だるまのように転がるデュラハン。

 それに反して燃え盛るデュラハンの転がり(生首祭り?)から逃げまとう住人たち。


「見てよ、カズマ。やっぱり上級魔法でも効いてないわ。普通だったら水蒸気のように消滅するんだけど」

「いや、十分にダメージは与えてるような気がするけど……」


「フフフ、このくらいどうってことはない……」


 床に手足をつき、ブスブスと鎧から黒煙を吹き出すデュラハン。


 嘘もほどほどにしろ。

 ダイエットにしろ、痩せ我慢は体に良くないぞ。


「まあ、よくよく考えたら俺自らが手を下す必要もなかったな。貴様ら、この俺を馬鹿にしたことに後悔するがいい」


 デュラハンが立ち上がり、背後のモンスターらを手招きして呼ぶ。


「さあ、お前たちの出番だ。この街の者どもに恐怖と絶望とやらを思い知らせろ」


「キシャー!!」


 剣や斧などの武器を握りしめ、俺たちの方に目を光らすアンデッドの兵隊たち。

 叫び方がエイリアンのようで実に不気味さを増した。


「自分じゃ対応できないから、部下に責任を押しつけるのか。最低の幹部だな」

「余程、アクアの魔法が痛いらしいな。それでその痛みをなすりつけるか。このパワハラ上司」


「ちっ、違うわい!」


 ダクネスと俺との会話に図星をつかれたのか、声のトーンが高くなるデュラハン。


「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺の名はベルディア。魔王の幹部の一人。デュラハンのベルディアだ!」

「何だ、暴れん君将軍じゃないのか?」

「そっ、そんな異名など持ち合わせておらんわっ‼」


 そうなのか?

 あれほど黒い馬に乗って、徳川家の一族みたくノリノリだったじゃないか?


「さあ、お前ら、街の人々を残らず皆殺しにしろ!」


 デュラハンの命により、大群のアンデッドの戦士が冒険者らに襲いかかる。


「ちっ、戦うしかないのか」


 剣を構えて襲撃に備える俺だが、あの多勢のアンデッドに、にわか剣術が通用するどうか……。


「ククク。絶望の声を聞くのもオツなものだな。お前たちの苦しむさまが目にも浮かんで……」

「へっ?」


 しかし、アンデッドたちは冒険者からアクアだけに目標物を捉え、アクアを追っかけ回していた。


「ちょっと、どういうこと? 何で私の方に集まって一斉に攻撃してくるのよ!?」

「お、お前ら、そんな素人プリーストのことはいいから、他の冒険者にも攻撃をせんか!」


 その気持ち分かるぜ。

 相手が女神だから、素直に成仏したいんだな。

 デュラハンのことだから、ろくに飯も与えてないみたいだし……。


「ああ、なぜ私のことは襲ってくれないのか。少しアクアに嫉妬してしまうな」


 頬に手を当てて、赤面しながらその追いかけっこを眺める鎧の女性。

 こっちもダクネスの妄想が始まったか。


「めぐみん、あのアンデッドの集団に爆裂魔法で一掃できないか?」

「無理ですよ、数が多すぎですし、相手の出方も予測できません」


 このままだと、流石さすが不味まずいな。


「カズマ、ボーとしてないで助けてよー‼」

「のわっ!? 俺の方に来るな!?」


 そこで俺の頭から一つの策略が閃く。

 そうだ、奴らを街の外におびき出したら……。


「めぐみん。街の外に出ていろ」

「えっ? 今度は何の野外プレイですか?」

「いいから外で黙って構えていろ」


 俺はそそくさとめぐみんを正門から出るように指示すると、めぐみんは何の不平も言わずに外へと出ていく。


「アクア、そのアンデッドを引き連れて、正門から街の外へ出るんだ!」

「出ろも何も、好きでこんなパーティー編成組んでいないんですけどー‼」


 アクアがめぐみんの近くに駆け寄り、後方はモンスターのみの軍勢となった。


「めぐみん、今だ。あのアンデッドの集団に爆裂魔法を放て!」

「ご協力感謝します、カズマ」


「ベルディアよ、我が紅魔こうま族最高で最強の魔法使いの力を思い知るがいい!」


『エクスプロージョン!』


 激しい爆発を受けたモンスターたちはめぐみんの魔法により、粉々になり、その身を消し去った。


「ふええーん。何とか助かったあー……」


 半泣きのアクアが口の中のすすを水魔法でゆすぎながら、その場にペタンと座り込む。

 大勢のモンスターがいた地面には大きなクレーターができていた。


「よっしゃー、よくやっためぐみん!」


「おおっ、やってくれるじゃないか。頭のネジが数本取れたおかしな子」


「凄いじゃないか。名前も頭もおかしくてもやる時はやるんだな」


 俺の発言に続くかのように冒険者たちがめぐみんを痛いように褒め称える。


「よくやったな。もう休んでいていいぞ」

「その前にカズマ、あの冒険者の人々にも爆裂魔法を放ってもいいですか?」

「お前、そんな魔力残ってないだろ」


 俺はおんぶしためぐみんの怒りを何とかなだめる。


「ハッハッハッ!」


 デュラハンは黒い霧に身を纏いながら大声で笑う。


「そんな貧弱な力を持った貴様らが我が配下を一掃するとはな」


「今度はこの俺が貴様らの相手をしてくれるわ‼」


 デュラハンが闇の空間から自身の背丈並みの長さの大剣を引き抜く。


「くっ、なんだか知らんが相手は一人だ」


「ああ。ヤツの隙をついて攻撃するぞ」


「「うおおおおー、くたばりやがれ‼」」


 冒険者数人がデュラハンの周りを取り囲み、魔法使いが魔法の詠唱をし、戦士組が一斉に攻撃する。


「ククク。愚か者どもが‼」


 デュラハンが片腕に持っていた兜を上空に投げる。

 その次の瞬間、襲いかかった数名の冒険者や詠唱中の魔法使いを剣で切り刻んだ。


「俺に見えない物はないし、隙も作れん。どんな攻撃も通用しないのだ」


 人々が傷を負い、倒れて気絶する中、俺は足がすくんで動けなかった。


「くっ、変な首を使って攻撃しやがって……妖怪ろくろ首かよ」


 死角がないデュラハン相手に俺たちは窮地きゅうちの底に立たされていた。

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