第13話 この常識が分かっていないお堅いソードマスターとの勝負を!!(2)
「いくぜ、先制攻撃!」
俺は武器屋の安売りセールで購入した長剣を闇雲に振り回し、ミツルギを追い詰めていた。
「どうだ。俺の剣さばきは。さっきから避けるばっかりでちっともかかってこないな」
「くっ、こんなデタラメな攻撃で不意打ちなんて。そんなんじゃ、君にアクア様を任せられない」
「勝負に情けは無用。ようは勝てばいいんだよ。温泉まんじゅう(温室育ちでは?)ごときが甘いこと言ってるんじゃねーぞ!」
これまで遠慮がちだったミツルギが持っていた大剣を俺に向けて振るう。
「何のご冗談を。僕をあまりなめない方が身のためだよ!!」
スパンと音を立てて、俺の真後ろで胴切りにされる背後の大木。
俺の背中におぞましい寒気が襲った。
「最弱職の冒険者として様子を見ていたが、考えが変わった。この魔剣グラムの力、とくと思い知らせてあげよう。それでももし、君がこんな僕にでも勝てたのなら、何でも一つ言うことを聞こうじゃないか」
「卑怯だぞ、絶対的王者の素振りを見せつけうえに、そんな剣なんて貰いやがって!」
それに比べて、俺の剣はガラクタに近く、ちゃちな飾りの剣じゃねーか。
「カズマ、大丈夫?」
「何なのだ、凄まじい力の剣だな。これではカズマが圧倒的に不利ではないか」
アクアご一行が心配そうに戦いを見守っている。
「ねえ、キョウヤはどうしてあんなボウヤと?」
「昔、お世話になった相手で久々に手合わせしてるんだって」
ここでミツルギのパーティーの女子二人が現れる。
二人とも軽装で、遊んでいそうなヘソ出しな服装のわりには、発言は真面目そうで普通に可愛い。
「「キョウヤ、あんなガキなんてコテンパンしちゃえ!」」
くそっ、俺もあんなチアガールみたいな黄色い声援を浴びてえな。
「そもそも、君の実力ではこの世界を平和にすることはできない。でも僕は女神に選ばれたソードマスターだ。それが理解できたなら素直に降伏し、君のパーティーからアクア様を解放してくれないか?」
「分かった。俺が悪かった。大人しく身を引こう……」
「……と見せかけてウインドブレス!!」
俺は応援中の女子連中のスカートに向かって風の魔法を放つ。
「えっ?」
「きゃあ!?」
ストライプ、純白、水玉に続き、危うく両手でスカートを股で挟む女子もいたが、これだけムフフな下着が揃えばラッキーチャンスだろう。
「むぐっ!?」
彼女らの鮮やかなスカートめくりをマジ見したミツルギの顔が赤くなり、動きが固まる。
やっぱりコイツ、女子に対してエロい免疫がなかったか。
「かかったな。ウブでねんねの夏目漱石の坊っちゃんが!」
「なっ、このような不意打ち、二度も引っかかる僕では……」
「動きが鈍いんだよ、スティールー‼」
「あれ、剣が?」
ミツルギの持っていた剣をスキルで盗んだ俺は渾身の一太刀をミツルギの兜に浴びせる。
「必殺、脳天炸裂ギガサターン!」
『ゴツーン‼』
「はぐわっ!?」
その場でミツルギは倒れ込み、真っ白な表情で気を失った。
「キョウヤ、しっかりして‼」
「アンタ、卑怯よ。男だったら正々堂々と勝負しなさいよね!!」
「嬢ちゃんらは何も分かってないな。どんなことをしても最後には勝てばいい。それが勝負の世界さ」
俺は手にした魔剣グラムの刀身を鞘に収める。
「さて、何でも言うことを聞くという約束の通り、この魔剣を貰うぜ」
「駄目よ、その魔剣はキョウヤ専用の剣なのよ。あなたには使いこなすのは無理だわ!」
再度、魔剣の剣を抜いて凝視しながら、送り主のサンタクロースに
「アクア、そうなん?」
「ええ、魔剣グラムはあのキザな男の人専用の武器よ。カズマが装備しても意味がないわよ」
「何だ。でもいいや。戦利品として頂戴するか」
剣を背中に背負おうとした時、キョウヤの仲間の二人の声がしつこく邪魔をする。
「ちょっと待って、その剣はキョウヤのものよ。今度は私たちと勝負しなさい‼」
「いいぜ。でもいいのか。俺のスティールを食らって、街中を下着なしで歩ける勇気があるのならな」
「くっ、この変態。覚えてなさいよ‼」
「クックック……」
えっ、どっちが悪者かって?
俺は全国の男子諸君の願望を叶える正義の味方さ。
****
「しかし、変な男と騒いで疲れたな」
「でもカズマ、結構ノリノリだったじゃん」
「まあ、お陰さまで良いもの見させてもらったからな」
「ここにいたのか、
ギルドにて、俺たちの優雅な食卓ライフに好調に滑り込んでくるミツルギ。
はて、清掃員が床にワックスでもかけたか?
「君の噂は聞かせてもらったよ。街中で女の子の下着を強引に脱がしたり、粘液まみれのプレイを存分にお楽しむ最低でゲス野郎のクズマだってね‼」
「おいっ、待て。どこ情報だ。それ?」
この世界にもSNSというものが存在するのか?
「まあ、それよりもあの魔剣を返してくれ。ムシがいいのは分かっているが、あれがないと今いち調子が出なくて……」
何の健康商品の宣伝だよ。
持っているだけで金属反応で肩こりが和らぐ剣とか、深夜の怪しげな番組でやっていそうだな。
「ミツルギさん……」
「何だい、お嬢ちゃん?」
めぐみんが神妙な顔つきでミツルギキョウヤのマントを摘まむ。
「この場にすでに魔剣がないということにお気づきでしょうか……」
「ああ、魔剣グラムは最後まで最高の相棒だったぜ……」
俺は声のトーンを多少落とし、申し訳なく呟く。
「佐藤和真、もしや……」
「すまぬ。質屋に売りに出した」
「ちくしょうー‼」
ミツルギは慌てて外へと飛び出していった。
失われた相棒(剣)を求めて三千里か。
まあ、買い戻すなら無理のない返済(月払いローン)で頑張れよ。
****
「しかし、少々気になることがあるのだが、カズマもあの男もどうしてアクアを女神と呼ぶんだ?」
「ああ、ダクネス、そのことね。やっぱり隠し通せる事じゃないわね」
アクアは俺の方を一瞬だけ見て、無言で頷き、二人に向かって真実を打ち明けることにした。
「私はアクア。アクシズ教団が崇拝している水を操る力を持つ女神。私はあの伝説の女神アクアなの」
「「何だ、悪い夢でも見たのか?」」
「違うわ、二人ともガチの本気よ!」
だよな。
俺も未だに信じられないからな。
女神とやらの正式な身分証明書があったらぜひとも見せてほしいぜ……。
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