第12話 この常識が分かっていないお堅いソードマスターとの勝負を!!(1)

「こらっ、俺のハンバーグを返せ! この駄女神が!」

「別にいいじゃないのよ。何かあった時のために好きなものは最初に食べろって親に教わらなかった?」

「そりゃ、お前んの教育方針だろーが‼」


 俺はアクアを追いかけて元を取ろうとフォークを持って襲いかかる。


『ガチャン!』


「へっ?」


 するとアクアが鉄格子の檻の中に逃げ込んで、内側から鍵をかけ、舌を出して俺を挑発する。


「ちっ、こんな中に逃げ込むとは……」


 この檻は前のクエストでアクアが汚れた湖の浄化に邪魔をしてきた狂暴なブルータルアリゲーター(ワニのモンスター)に対抗した頑丈な作りでもあり、モンスターを安全に捕獲するための目的にも使われた檻だ。


 そんなわけで今度はこの檻から駄女神を出そうと試みるのだが……。


「まあいいか。この中にヌルヌル巨大ナメクジでも入れれば……」

「いやー、それだけは駄目です。カズマ様ー!!」


 普段、高飛車な態度だけに『ごめんなさい』と泣きながら混濁する女神の状況も良いもんだな。


「あれ、女神様ではないですか?」


 俺とアクアとの痴話喧嘩(ご冗談を)に、茶色い髪のウルフカットで、重くて丈夫そうな青い鎧を身に付けたイケメンがアクアの元に寄ってくる。


「何、お前、面食いなうえにやっぱりクソビッチなわけ?」

「そんなわけないでしょ! こんな男、私も知らないわよ」


 イケメン相手にも動じないアクア。

 お前には水商売が向いている。


「女神様、覚えてないのですか? 魔剣グラムをくださって、この世界に送ってくれたではないですか!」

「ああ、美戸根鳥頭ミトコンドリアね」

「違います。御剣響夜みつるぎきょうやです!」

「あー、ミツルギ? そういえばそんな名前の人いたような気もしたわね。何万人も(一つの都市ができるな)この世界に人を送ってきたから忘れてしまったわ。てへぺろw」


「まあ、別に元気だったんで安心しましたけど、それよりも……」


 ミツルギが檻の柵を両手で掴んで、アクアのいる鉄格子を強引にこじ開ける。


 おいおい、何のトリックだ。

 相手はあのワニですら歯が立たない鉄の棒だぞ。 


 それを腕力だけで引っ張って開けるなんて、オモチャの缶詰めよりもビックリだ。 


「なぜアクア様はこのような檻に幽閉されていたのですか?」


 あー。

 もう、また面倒くさいヤツが来たな……。


****


「そんなこと、信じられん!」


 ギルド内の飲食ベースでテーブルに手を打ち付け、俺の襟首を思いっきり握る。


「セクハラな願い事で、この神聖な女神様をこの世界に連れ込み、なおかつあんな檻に入れて、モンスターの注意を引き付けていたなんて。君は正気か!!」

「いや、だからその檻にはアクアがみずから……」


「何だ、その言いぐさは! 君はあの清楚で上品な彼女に対して、ちょっと失礼に価しないか!」

「だからそのお嬢様設定なんだよ?」


「君、侮辱にもほどがあるぞ‼」


 ミツルギが俺の襟首を掴んだまま、ガンガンと左右に揺らす。

 そんな俺はボクシングのサンドバッグ状態だ。


「おいっ、ここで喧嘩は止めるんだ。お前はどこの馬の骨なんだ」


 そこでダクネスがミツルギの掴んでいた手を取り払う。


「君たちは?」

「これは失礼した。私はクルセイダーのダクネスだ。隣はアークウィザードのめぐみんと言う」

「クルセイダーにアークウィザードか……」


 ミツルギが冷静に立ち振舞い、ゆっくりと椅子に座り直す。


「なるほどな。こんなにべっぴんさんで優れた才能を持ったパーティー陣営なのに、この男から一方的に嫌がらせをされても、何とも思わないのか。揃いも揃って重症だな……」


 コイツ、黙っていれば好き放題言いやがって……。


 我慢しているのは俺の方だぞ。

 コイツらはてんで使えない駄目なヤツらなんだぞ。


「そうだ。アクア様と一緒にダクネスもめぐみんも僕の仲間にならないか? 僕なら君たちには変なことはしないし、僕のパーティーの戦士と盗賊とも仲良くできるさ。旅は楽しい方が良いだろう?」


 はっ、俺はパーティーに入れてくれないのかよ?

 旅は道連れ、世は情けって言うもんだろ。


「……まあ、俺は野郎のメンバーなんか嫌だしな。お前らもミツルギの方に行った方が安心した生活ができるぞ。俺が保証する」


 その保証も豆腐ハンバーグの一年契約だが、アイツらなら大丈夫だろう。


「いえ、カズマ。あの人カズマ以上にナルシストで鳥肌が立つほど怖いんですけど!」

「あの頭空っぽの高学歴か何か知らない男に爆裂魔法を放っていいですか?」

「私もだ。あの男だけは苦手だ。今すぐにでもボコボコに殴り返したい気分だ‼」


「「「そういうわけで、あなたと一緒の冒険はお断りです!」」」 


 三人の美人妻(違う)に拒否られ、クラクラと目眩を覚えるミツルギ。


「君たち、そうまでしてあのセクハラ男の言いなりに。でも僕は諦めないぞ」


 ミツルギが俺の名を呼びつけ、外へと合図する。


 だから何なんだよ、この陽キャ男は?

 鬼ごっこじゃないんだから、ギルドの中で話をすればいいことだろ?


****


「それで、こんな外に来て、何をするんだ? このすりおろしリンゴマン?」

「君には悪いとは思うが、僕はアクア様に安泰した生活をおくって欲しいんだ」


 そうか、そんなにお前はあのアップルパイになりたいか。


「この僕と正々堂々の勝負だ!!」

「何でだよ‼」

「僕が勝ったら彼女たちは貰う。それでいいな!!」

阿呆あほうか、ドラ○エVの嫁選びみたいなこと言ってるんじゃねえ!」


 トンチンカンのミツルギのガチな要望に俺の頭の血管が一本切れたような気がした。


 冒険者レベル6の俺と、ソードマスターレベル37のミツルギキョウヤとの対決は如何いかに……。

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