第10話 この首無しな騎士の攻撃に身構える俺たちを‼

「おい、カズマ、この無数の人だかりは何だ?」

「おう、ダクネスか。何やら魔王の幹部が来たってさ」


 ダクネスとも合流し、正門前にやって来ると体中から闇のオーラを発し、いかつい黒い鎧を身に付けた一人の騎士がいた。


 首のない馬に乗り、また、それに似せるかのに本人自身にも首がなく、首だけの兜をバスケのボールみたいに片腕に抱えている。

 その兜から蒸し返す黒い煙の息遣いがするように、どうやら兜が本体のようだ。


「何だと、あれは強靭な力を持つアンデッドモンスターのデュラハン(ちなみにオス)じゃないか!」

「へっ? なっ、なんで、そんな強敵がこんなのどかな街に……」


 デュラハンが馬から降り、兜から何かしらの言葉を喋ろうして、俺らは生唾をゴクリと飲む。


「……貴様らに言いたいことがある」


 何が逆鱗げきりんに触れたのかは知らないが、仲間揃って俺たちは皆殺しなのか?

 俺はとっさの反応で買ったばかりの剣の柄に手を触れ、敵の攻撃に身構える。


「毎日、俺の城に爆裂魔法をぶちかます、とんでもなく失礼なヤツは誰だー!!」

「はあっ?」


 俺やメンバーの目が蟻のように点になる。


「貴様ら大概たいがいにしろよ。この街にはろくに力がない雑魚の冒険者しかいないのは存じている」


「どうせ俺が相手にもしないだろうと無視していれば、毎日懲りもせずにドカーンと放ちやがって!」 


「そのせいで昼寝の邪魔はされるし、大好きなアイドルの生配信のライブ映像は聴こえんし、悪質にも程があるわー!」 


 デュラハンが兜を持ち上げ、地面を足で踏みつけながら、何やら苛ついている。


「やべーな。あっ、あれ魔王のお偉いさんの城だったのか」


 冒険者全員の視線が、この街で唯一の爆裂魔法を使うめぐみんの方に一斉に顔を向ける。

 さあ、こうまで目立つと逃げられんぞ、ロリッ娘。


「そうです。世間を騒がす悪い者め! 我は紅魔族こうまぞく最強の魔法使いめぐみん。我が爆裂魔法で攻撃していたのも、あなた本体をこの場で一方的に叩くために行っていた行為なのです!!」


 よくもまあ、そんな嘘が平気につけるな。

 怖がって、俺の後ろに身を隠す真似をして。


「なるほど。変な名前が多い里の出身か。貴様、悪ふざけもほどほどにしろよ」

「何だと、私の親が付けてくれた素敵な名前にケチをつける気か!」


 だからめぐみん、俺を板挟み(盾)にして、ヤツと会話をするのは止めろ。


「まあ、俺はとある調査であの城に過ごしているだけ。こちらからは手は出さん。今回は忠告に来ただけだ。いいか、これからは爆裂魔法で攻撃してくるなよ?」

「いいえ、嫌です。紅魔族は一日一回爆裂魔法を放たないと体が衰弱して命を亡くすんです!」

「そんなでたらめな嘘をつくなー‼」


 さっきから小心者の愚痴ばっかり。

 魔王の幹部にしてはめっちゃ弱そうだな。


「そうか、これからも迷惑騒動を起こす気か。それならばこちらも……」


「うるさいわね。あんたのせいでこの辺の弱いモンスターがビビって隠れてしまって、楽な仕事がなくて困っているのよ!」


 またさらにややこしいヤツ(地獄のメイド服なアクア)の暴言が上乗せされた。


「何だ、お前。アークプリーストか。まあ、こんな雑魚な街のアークプリーストなんぞの魔法で浄化される我ではない。そんなことより、紅魔の娘には我の強力な攻撃を食らってもらうわ!」


 デュラハンが場違いなメイドアクアの存在をシカトし、闇の影の攻撃をめぐみんに放つ。


「めぐみん、危ない!」

「ダクネス‼」


 その攻撃の前に飛び出し、身代わりに受けるダクネス。


「ダクネス、平気か?」

「ああ、別に体に異常はないようだ……」


 特に外傷もないみたいだし、ヤツは何をしたんだ?


「ハッハッハ。紅魔の娘よ、よく聞け。この攻撃を受けたクルセイダーは一週間後には死ぬ運命だ。これから一週間は死の怖さに怯え、自ら行った罪を後悔するのだな!」  

「そうか、つまりお前は、この呪いを消して欲しかったら、どんな言うことにも従えということなんだな‼」


「はっ? ちょっとそこのお前?」

「私はこんな呪いになんて負けないぞ……」


 やれやれ、ダクネスの一人妄想劇が始まったか。

 何、インフルワクチンの免疫力として戦う白血球みたいなことを語っているんだ?


「おい、カズマ、デュラハンの兜から覗くエロい瞳を見ろ! 私を城へと幽閉して、呪いを解く条件として、この鎧を脱がし、ナースにチャイナ服などと様々なエロティックなコスプレを私にやらせる変態的な瞳だ!」

「ええっ? いや、そんなことはしないが……」


 デュラハンがヒヤヒヤしながら、己の発言に戸惑っている。


「牢で怯える女騎士、それを助けに来るパーティー。とっても素敵な展開だ。じゃあ、私は喜んで行ってくる‼」

「こらっ、勝手に行くな。デュラハンの人が困惑しているだろ‼」


 デュラハンの元へ進み行く、興奮まっしぐらなダクネスの暴走を後ろからくい止める俺。


 本当にコイツは理解しているのか?

 デュラハンから呪いを受けて、残り一週間の命なんだぞ……。






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