第2章 魔王の幹部、デュラハンとの争い

第9話 この爆裂魔法をぶつける場所に安らぎを‼

「カズマ、モンスターを根絶やしにいきましょう」


 太陽の気持ちいい昼下がりにめぐみんがやたらとイキイキとした顔を見せている。


「嫌だぜ。何で金にもならないのにモンスターを討伐しないといけないんだ。そんなもん怪物保護団体に任せておけばいいんだよ。ああ、違うな。保護団体は生き物を守る側だったな」


 めぐみんと違い、気合いゲージが溜まっていない俺はただ無気力に飯を食い、クエストがない休日は堕落して楽した生活をおくりたい気分だった。


 幸い、金ならこの前のキャベツ討伐で百万エリスはある。

 人はそんな俺をどん底から這い上がった『リッチマンカズマ(自画自賛)』と呼ぶ。


 それにこの前のキャベツ以降に、この街周辺にモンスターが現れる気配は一向にない。

 だから怠惰たいだに過ごしても誰も文句は言うまいと思いきや、このめぐみんときたものだ。


「何を。カズマはそうでも、私は爆裂魔法を上手く使いこなすために一日一発は放たないと腕が鈍るのです。新しく手に入れたマナタイト製の杖で放つ魔法の威力も気になりますし」

「そりゃ、機会だな」


 俺は下らない親父ギャグを呟きながら、めぐみんの『初めてのお使い出張バージョン』に同行することになった。


「なあ、この辺にしようぜ。ここなら雑草も伸びまくっているし、草刈りの手間が省けていいだろ?」

「いえ、街の近くですし、違う場所にしましょう。魔法威力上昇、高速詠唱など、爆裂魔法にポイントを注ぎまくったスキルですから」


「……お前、他の攻撃魔法は覚えないのか?」

「ミジンコ以下並みにありません」

「そんなミジンコが哀れだな」


 俺たちが雑談をしながら林を抜けると、怪しい風格をした西洋の城が目に飛び込んできた。


「どうやら廃墟のようですね」

「こんな所に薄気味悪い城があったのか」


 壁はボロボロで塗装ははげて、周りにはカラスが飛び回っている。

 お化け屋敷のアトラクションとしても楽しめそうな……いや、本物が化けて出るかもな。


「カズマ、あの城に爆裂魔法を撃つことにしましょう。大きくて狙いやすいですし、廃墟ですから、粉々に破壊しても何も影響はないでしょう」

「えっ、ガチでやるの?」

「さあ、我が渾身の一撃を食らえ!」


 めぐみんが片目の眼帯をはがし、呪文を詠唱する。

 マナタイトの杖に付いた宝玉が真っ赤に光輝いていく。


『エクスプロージョンー!』


『ドカーンー‼』


 瞬く間に炎に包まれる洋館。

 何か水羊羹が食いたくなってきたな。


「どうでしょうか、カズマ……」


 魔力を使い果たし、地面にぶっ倒れてピクリともしないめぐみん。


「うーん、メラメラと燃える演出と破壊力だけなら、ほぼ満点だな」

「明日もお願いしてもいいですか……?」

「おう。俺の送迎タクシー(帰りのおんぶ)は高くつくぜ」


 それから俺はめぐみんと毎日廃墟の城へと向かい、爆裂魔法を放ち続けた。


 俺もめぐみんと同じく、段々と日々の爆裂魔法のコンディションが分かるスポーツ選手のコーチのような気持ちになっていった……。


****


「うむ。昨日の爆裂魔法は最高だったぞ。実にリアルな焼き加減でお店で出せるロースト(ゴースト?)ビーフのようだった」

「カズマも爆裂魔法の良さが分かってきましたね。今度カズマも習得してみたらどうですか?」

「そうだな。楽しそうだし、考えとくな」


 俺たちの周りを泣きべそのアクアがメイド服で注文の品を持ってせっせと働いている。


 この前のキャベツ収穫の金が底をつきて、ツケの金が払えなくなり、このギルドでバイトを始めたらしい。

 あのキャベツに混じって報酬の安いレタスもいたらしいからな。


 ちなみにダクネスは実家で修行中の身だ。

 何やら波動剣の極意を掴むための特訓らしい。

 まともな攻撃は一つも当たらないけどな。


「でも何で私の最強の魔法を毎日ぶつけているのに、あの城は何ともないのでしょう。不思議でなりません。逆に私のメンタルの方がどうかなりそうですよ」


 メンタル不調気味のめぐみんが膨れた顔をして、不満げにため息を漏らす。


『緊急、緊急です!』


 そののほほんとした状況下で流れるお姉さんのアナウンス。


『冒険者全員は装備を整えて、正門前に集まって下さい!』


「ん、何か事件でもあったのか?」


 俺たちの近くを慌ただしく通っていく大勢の冒険者。

 みんな、やたらと焦り、難しい顔をしている。


「おいおい、魔王の幹部がこの街に来たんだとよ」


「そうなんか。こんな街でまともに相手できるヤツなんていないだろ」


 冒険者たちの話を聞く限り、ヤベえヤツがこの街にやって来たらしい。


 俺たちもそのまま正門前へと足を運んだ。




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