第8話 このアンデッドたちに癒しの鉄槌を‼

「ねえ、カズマ。今回のクエストはゾンビメーカーの討伐よね?」

「まあな。一緒についてくるオマケゾンビも倒せっていう内容だけどな」


 死体に憑依ひょういし、ゾンビたちを操る悪霊のモンスター。


 だが、俺のものにしたギルド内の美人お姉さん(だから嘘つけ)に聞くと、実力は大したことなく、初心者でも勝利できるヨワヨワなモンスターらしい。


「むっ、前方に敵が五体……。奥の墓場のほうからだな」


 クリスから貰った敵感知スキルでモンスターの居場所を知るのだが、何か様子が変だ。

 ゾンビメーカーと行動するゾンビは数体でそんなには多くは引き連れてないはず。


 その行き先の墓場を拠点とし、ゾンビたちの中央には黒い魔法陣が浮かび、深くフードを被った紫のローブの魔法使いが君臨していた。


「何なのアイツ! こんな所で何、油を売ってるのよ!」


 俺の隣で声を荒げたアクアがゾンビメーカーに突っ込んでいく。


「まてまて、アクア。相手は多勢だ。織田信長の天下統一じゃないんだぞ!」

「何言ってるのよ。コイツはリッチーよ!」


 アクアが魔法使いにタックルして、フードを捲ると茶色のゆるふわパーマの美少女が茶色い目をグルグルと回していた。


 リッチー?

 どこかで聞いたことがあるような……。


「リッチー、ここで遭ったから千年(アクアもアンデッドなのか?)目。私の魔法で浄化してあげるわ」

「きゃあー、私、貴女あなたとは初対面ですよね!?」


「アンデッドのクセして地面に変な魔法陣とか書いてさ。偉大なる大魔法使いのつもりかしら」

「やめて下さい。その印がないと墓場で成仏できない魂が増えて、ここが大変なことになります!!」


「だったら私が纏めて天国におくってあげるわよ」


『ターンアンデッド!』


 アクアが頭上で光の魔法陣を発生させ、その印から飛び出る光のシャワーが無数のアンデッドたちを消滅させる。


 そして、光はリッチーの体にも降りかかり……。


「きゃあー、私の体が足から消えちゃう。このままじゃ、私も成仏しちゃうー!!」

「あはは。そのまま跡形もなく消し去ってやるわーww」


 大声で笑い、さげんだ笑い声。

 もはや悪徳業者のようなアクアの顔から、にやけが止まらない。


「おいっ、いい加減にしろ」


 俺はそんな人格が崩壊しかけたトランス女を剣の鞘で小突き、我に返すのだった……。


****


「……助けて下さり、ありがとうございます。私はリッチーのウィズと申します」

「やっぱりそうか。こんな所で何してるんだ?」


「ええ。ここの共同墓地の魂たちはお金がないせいか供養もできずに、このように毎晩墓場うろついていまして。ですから私が定期的に訪れて成仏させているんです」

「ああ。大体の話は分かったけどさ、取りあえずゾンビを呼び覚ますのはよさないか? 俺たちはゾンビを操るゾンビメーカーの討伐が目的だからさ」


「そうですか。でもこの子たちは私の魔力で勝手に目覚めてしまうんです。どうしましょう?」

「うーん、金もかけずに手軽に成仏させる方法か……」


 俺は頭の先っぽにまでアンテナをさぐりながら必死に思考を張り巡らせた。

 よって導きだした答えとは……。


****


「冗談じゃないわ。何で私が定期的に墓地に行ってアンデッドの浄化をしないといけないのよ!」

「お前、年がら年中暇だろ。宴会芸を披露して遊びまくってるから別に問題ないだろ」

「私だって忙しい身なんですけど。ぷんすか‼」


「でも良かったですよ。カズマ。もし私たちが戦っていたら生き残れなかったでしょう」


 腹を立てたアクアが腕を組み、地団駄を踏み鳴らして歩む中、めぐみんが遠巻きに俺に話しかける。


「リッチーは元は大魔法使いでして、絶大な魔法力と魔法防御を持っていて物理攻撃は効きませんし、触れただけで相手の生命力や魔法力を奪い取る最強なアンデッドの王ですから」

「何なんだ、そのラスボスみたいな設定は……」


 俺たちはとんでもないヤツを相手にしていたんだな。

 ひょっとしたら、今ごろは墓で首だけになり、白骨化していたかも知れない。


 お手頃な初心者クエストで一気に谷の奈落に陥る感覚。

 考えただけでも末恐ろしいな……。


「しかしなぜ、あのリッチーにアクアの魔法が通じたのかは謎ですが……。私の爆裂魔法だとどうなるのでしょう。林檎りんごを人間の握力で握り潰したような感覚でしょうか……」


「うむむ。私が盾になっていたら生きたミイラになっていただろうか……」


 二人の妄想はさておき、アンデッドとは正反対の天使だからアクアが見抜いたんだな。


「まあ、あんなことがあったけど、普段はめったに会わないモンスターだから一安心だな。さっさと帰って寝ようぜ」


 俺たちはクエストで疲れた体を癒すためにいつもの馬小屋へ向かう。

 徹夜明けの朝日が寝ぼけ眼のまぶたに刺さり、無性に眩しく感じた。


****


「よう、ウィズ、今日は早起きだな。早速仕入れか?」

「おはようございます」

「どうした? 何か良いことでもあったか?」

「はい。長年の悩み事が解決しまして」

「そうか。また店に来るからな」

「ありがとうございます。ご来店をお待ちしています」


 私は常連さんに丁寧な挨拶をして、お店へと向かう。


 この街でお店を開いて良かった。

 さっきすれ違った昨晩の人も冒険者の身なりだったし、お店に来てくれるだろうか。

 一人だけ嫌みな女の人は苦手だけど……。


****


「なあ、カズマ。ゾンビメーカーのクエストはどうなるんだ?」

「本当、それな」


 馬小屋にて、ダクネスの鋭いツッコミにボケをかます俺。

 またもや、クエスト失敗か……。



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