掌編#6 眠れる客間のプリンス

 どばん!

「あーそーぼー!」

 扉が大きく押し開かれるや否や、朗らかで明るいユニゾンが客間いっぱいに響き渡った。

「おーいレディ! おじい様と!」

「伯父上から!」

「新しいおもちゃが早馬で届いたぞー!」

「あそぼー!」

 よく似た笑みを顔に浮かべた息子二人が軽やかなステップで部屋に入って来る。けれども、双子はそろって足を止め、大きく首を傾げた。妻譲りの花浅葱色の瞳がきょとんと瞬いている。

 唇の前で立ててみせた人差し指を認めると、ロイスとリチャードは声のトーンをぐっと落とした。


「なーんだ、うちのレディはラグ兄上と楽しい逢瀬の真っ只中かあ。妬けるぜ」

「おいおい、どう思います? うちの可愛いレディを行儀悪く抱っこしたまま眠りこけても絵になるこちらの王子様」

「ため息すら落ちないぜ。やれやれ」

「いやはやまったく」


 二人は長椅子に近寄り、しゃがみ込んだ。

 座面に横たわって眠る二番目の甥が身じろぎをした。緩慢な動きに沿い、金糸のような細い髪が、レースカーテンを通り抜ける風に揺れ、周囲に光を散らした。

「今日も手足が長い。次の百科事典編纂で『すらり』の項目に掲載されるの待ったなし」

「何色の絵の具で塗ったらこの金髪の色が出るんです?」

「やめようぜ。芸術の成績、俺もお前も同じだっただろ?」

「母上が葬式帰りのひとみたいな顔してたの思い出すなア……」

「まあまあ。一夏のセツナイ思い出はさておき、ラグ兄上が絵になるのは今に始まったことではないから」

「うむ。それよりも我が家のレディの可憐さがこの世で一番なのは生まれながらにして宇宙の神秘であり究極の真理……」

「とびきり素晴らしい絵になりすぎるから画家殿の腕が鳴るどころか唸りまくる」

 次から次へと囁き合う二人だが、ラグランドとレディに向けられた眼差しはやさしい。


「案ずるな。画家殿ならば既に早馬で呼び出してある」


 厳かに頷いてやれば、双子は花浅葱色の瞳を輝かせた。

「さっすが父上!」

「よっ! 絶対猫一直線公爵閣下!」

「みゃう」

 この世で一番可憐な合いの手が入った。

 青い目を半分開いてこちらをじっと見上げるサージェント家の小さなレディに彼と息子二人がそろって笑いかける。けれども、レディは白くてふわふわの尾を大きく払い、ぷいと背を向けた。彼女はそのまま寝息を立てる甥の腹の上で再び丸くなってしまった。愛らしい三角の耳は、何故だか思い切り低く伏せられている。その気高く凜とした所作も大変可愛らしい。

 画家殿の到着が一刻も早く待たれる。

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