掌編#5 犬二匹

 陽だまりに満ちた我が家のサロン。そこに置かれた母のピアノ。それがこの友人にとってもお気に入りの場所であるのは、今に始まった話ではない。ラグランド第二王子殿下との交流の始まりは、クラスの席替えでたまたま隣になり、調べ学習を我が家で共に取り組んだことがきっかけであった。

 進路が分かれてからはそう頻繁に会うわけではなくなったが、久しぶりに会った彼は、何やらぼんやりしていた。穏やかな気候のせい、というわけではないようだ。


 この王子様は、昔から妙に格好付けたがりなところがある。その癖、こちらに悩みを吐露するわけではなく、我が家で思う存分チェスをしたりピアノを弾いたりごろごろ寝転んだりしては、いつの間にか自分のふわふわした問題を解いてしまうのだ。王宮でそれをしないのは、彼なりの矜恃らしい。立派な兄王子殿下と小さく可愛い弟殿下たちの手前、優秀な弟であり格好良いお兄様として振る舞う友人はなかなか興味深い。それだけ兄弟仲が良い証拠だ。けれど、我が家の長椅子で寛いだり物憂げにため息をついたりする姿は、どう見ても育ちと毛並みが良いただの大型犬のようであった。


 少しだけ開けておいた扉から顔を覗かせていた妹と目が合った。びっくりしたように大きく三度瞬いたが、懲りずにちらちらと淡い紫色の瞳を何度も部屋の奥に向けてくる。揺れる金髪は子犬の尾のようだ。いつものお客様の優雅なピアノ演奏が聞こえなくて待ちきれなくなったのだろう。

 ニール・オーキッドは大きく息を吐き、告げた。「殿下、一曲お願いします」と。

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