第11話 完全犯罪だワン

-side ポータ-




 ヒロインが死んだ世界ではさまざまなイレギュラーが起こる。


 悪役令嬢が対抗馬不在で、戦闘狂になったり、王子がアランに対して過保護になったりである。


 そして、この犬ポータにも同じことになっていた。そう、彼の学園での仕事はヒロインのサポート役だったのである。


 貴族の相手が不慣れで友達や頼れる人もいなかったヒロインを色々助けるため、話し相手になってアドバイスしたり、

世間知らずなヒロインのために、この世界の常識を教えていたり、なかなかにハイスペックな犬であるが、そんな彼は今窮地に立たされていた。


 そう、サポートするべき人がいない、所謂ニートというやつである。

 彼には確かに能力はあった。だが、働き口がなかったのだ。

 持ち前のガッツで、働き口を探していたが、彼が話している言葉はヒロイン以外にはワンワンとしか聞こえないため、見つけることができなかった。

 せいぜい、仲良くなった警備員のおっちゃんにタダ飯を貰えただけである。



「うーん。やっぱりアルティメットワンワン放ってこの世界もろとも破壊するのがいいと思うワン!」


 そう、彼はこと戦闘力においては、この世界屈指の実力を持っていた。

 理由は、ヒロインを守る役目を果たさせるためである。

 加えて、運営が悪ノリしてスキルを追加しまくっていたらバグレベルで強くなってしまったのだ。

 そして、運営は面白いからと言ってアプデで修正せずに放置してしまったのである。

 アルティメットワンワンも運営が彼に与えたスキルで、神すら滅することのできる破壊魔法の一種である。

 放てば、確実にこの学園を滅することができるスキルを放つ直前、彼は聞いてしまった。


「レッドチーターを狩りに行く?」


「ああ。経験値が欲しいしな。」


「レッドチーターってAランクの魔物だよね。いくらアランでも巣に突撃するって危険ではないか。」


(あいつ、馬鹿だワン。オラならレッドチーターを倒すことなど造作もないことだが、普通の人間にできるわけないワン。

 やれやれ、目の前で死なれたら胸糞悪いから見に行くワン。)


 さっきまで、学校どころか、王国ごと消し飛ばし、何人もの命を奪おうとしていたことを、棚に上げて、アランを助けるように動いたおせっかいわんこである。



 そんな彼は、目撃してしまった。



「オホホホ」「フハハハハ」


 多くのレッドチーターを瞬殺してしまった人間2人の圧倒的強さを。


「オラもあいつと一緒に戦いワン。面白そうだワン。」


 野生の動物としての本能が疼くのかいつになく興奮で殺気だった彼は、気配を巧妙に隠し、アランが学宅に住む前に、一足先にアランの部屋に潜り込んだのである。


「不法侵入成功だワン。完全犯罪だワン。これくらいお茶の子さいさいだワン。」



 そんな彼が、アランと会うのはこれからの話。





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