第5話 悪役令嬢、悲しみの対抗馬不在

-side エミリー(悪役令嬢)-




 悪役令嬢、それはヒロインがいてこそ輝く存在。

 純粋無垢なヒロインとは違い、素直になりきれず、ツンデレな感じが可愛いと意外と人気なキャラでもある。



 そんな彼女だが、


「そ、そんな。ヒロインちゃんが死んだですって!?」


 ヒロインが死んだことで、存在意義を失うという危機に直面していた。



(私の好感度の高さはヒロインちゃんで持っていたようなもの。

 ヒロインちゃんが死んでしまったなら、この先どうやってこの地位を保てばいいのかしら。)



 流石悪役令嬢。自分の立場をよく把握しており、計算高かったりする。ただし…、


(そうよ、そうだわ。気合よ。気合と根性で強くなれば、きっとみんな振り向いてくれるはずだわ。そうとなれば、学園に通って特訓ね。そうですわ〜。)


 何がそうなのかはよくわからないが、彼女は計算高い脳筋だった。



 悪役令嬢は既に試験をクリアしていたので、入学まで学園に通う必要はなかったが、そういう経緯があり、少し早めに学園に通って学ぶことにした。



 そして、学園に向かっている道中に、突然、ホワイトタイガーの群れに襲われてしまった。


「まあ、大変。私も戦いますわ。この中で1番強いの私ですし。」


 そう、悪役令嬢ことエミリーは魔物ホイホイなだけあって、こういうことに慣れていた。

 しかも、キャラの立ち位置的に誰にも頼ることができないボッチなので、攻略キャラに頼らず、魔物を一人で倒していた。

 ゆえに、腕っ節ならアランにも匹敵するくらいの強さを誇る化け物である。



「ひ、姫様は中で待っていてください。我々が戦いますので。」


 しかし、そんなことを知る由もない彼女の父親の私兵は、足手まといになるから中に入っていて欲しいと頼んだ。



「わかったわ。(確かに。ホワイトタイガーなんて雑魚、あなた方でも余裕でしょうから、ほっといても大丈夫でしょう。)」


 悲劇は繰り返すというが、この時彼女もまた、アランと同じ勘違いをしてしまったのだった。





  ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





 それから、しばらくの間、彼女はクッキーを食べながら優雅にお茶をしていた。


「このチョコチップクッキーもいいけど、こちらの塩キャラメルクッキーもいいわね。

 あ、そうだ、忘れてたわ。外の様子はどうなっているのかしら。

 ……………!!まあ、大変だわ〜!」


 この状況で周りを忘れてお菓子を堂々と食べれるほど図太い神経の持ち主だが、強者ならではの行動だろう。



 いつもなら、この図太さは魔物との戦いにおいて役に立つが今回は裏目に出てしまったのである。

 なんせ、兵の半数近くが死んでしまっていたのだから。


「今すぐ助けないと。フンヌッ…」


 おおよそ、貴族の令嬢とは思えない声をあげて、エミリーはドアを破壊し、飛び出そうとした。そんなとき、



「フハハハハ。くらえ、“破滅の光”」


 これまた、貴族の当主とは思えない声をあげ、ホワイトタイガーを瞬殺した者が現れた。



「まあ。流石アラン様、なかなかですわね。(あまり、貴族の殿方っぽくないですけど。)」

 

 自分のことを棚に上げ、大ブーメランな感想が浮かんだ悪役令嬢であった。



(それはそうとさっきから、アラン様に失礼なことを護衛が言っている。黙らせなければ。)



 バコンッ、メキメキ…。





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