二.孫一、腕を振るう

 山を下りた孫一達は、近くの川に移動した。今日一番の成果は孫一が仕留めた猪だが、他にも鹿や兎などもあった。これ等は里に戻ってからみんなに分ける事にした。

 まず始めに取り掛かったのは、猪の処理だ。毛皮を剥ぎ、内臓や銃弾が命中した頭部などを取り除き、食べられる肉の部位を川の水で綺麗に洗い流す。血や臭いを落とす事で、食べやすくする。

 家臣に猪肉ししにくを持たせ、近くの農家に野菜を分けてもらえないか交渉させに行った。猪肉は滋養強壮に良い食物とされ、狩猟でなければ手に入らない食材とあって庶民の間でも人気があったから、まず失敗しないだろうと孫一は考えていた。


 暫くして、家臣が戻って来た。交渉は上手くいったらしく、ざるいっぱいに野菜を載せている。牛蒡ゴボウ、里芋、ネギ……。

 野菜も揃ったので、孫一は家臣達と手分けして調理を開始した。調理道具は戦で持参する時の物を今回持って来ていたので、それを用いる。

 まずは野菜の下処理から。清流で牛蒡の表面に付いた土を落とし、包丁の背で表面の皮をこそいでいく。ある程度まで皮をいだら、水を入れた桶に牛蒡を回しながら包丁で細かく切っていく。牛蒡はアクを抜いている間に、里芋も表面の泥を洗ってから皮を剥き、一口に入る大きさに切っておく。葱も同様に、一口くらいの大きさにざく切りにしておく。

 孫一の手際は見事なもので、無駄な動きもなく包丁捌きも慣れたものだった。孫一自身も傭兵として戦に参陣し、一兵卒として他の足軽達に混じって飯を作ったりしていたから、自然と料理の腕も上がったのだ。

 次に、牛蒡と里芋を大鍋に投入して、具材が浸るくらいに水を入れる。その鍋を火に掛け、具材が柔らかくなるまで煮る。

 竹串が通るくらいに柔らかくなったら、処理を終えてぶつ切りにした猪肉を鍋に入れる。猪肉は生煮えだと腹下しの原因になるので、しっかり火を通す。猪肉の中まで火が通ったら、葱を投入してもう少し煮る。

 葱にも火が通ったら、火を小さくして味付けに取り掛かる。まずは味噌をき、塩と酒で味を調えていく。

「……よし。完成だ」

 味の微調整を何度か行い、味を確かめた孫一は満足そうに頷いた。

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