第07撃「CODE;DRESSER 始動」


 ゼノバスの出現。ドレッサーの出撃。

 その全てが政府・警察組織を通じて発表される。


 ゼノバスとは何なのか。ドレッサーとは何なのか。

  そして三十年前のあの出来事は何だったのか。

 その解説。記者会見には……組織DRESSの面々の顔があった。


 来るべき時が来た。異星生命体ゼノバスに対抗極秘研究機関DRESSはついに、その姿を全国民の前へと現す。


 ゼノバスは復活した。人類は今、滅亡の危機に瀕している。

 ゼノバスの進行を阻止するため……ドレッサーの力を使い、その魔の手から日本を救う。


 ゼノバス一掃計画。【CODE:DRESSERコード・ドレッサー】。

 三十年にも及ぶ計画のすべてがついに公開されることとなった。


「聞いたか」

「あぁ、異星人が蘇ったって……」

「その点に関しては、まぁ大丈夫なんじゃね? 無敵の機械天使様がいるんだし」

 三十年前の映像。それを良く知る人物達はそれほど危機を感じていなかった。

 過去の映像を見るにドレッサーの圧勝。異星人は手も足も出ずに一掃された。

 今回もまた、それと同じように機械天使がゼノバスを一気に仕留めてくれるのだろうと都民は期待している。

「だが、それよりもさぁ……」

 記者会見では……二人のドレッサーの姿も公開されることになった。

「あのドレッサーってやつの二人目……変異種だったよな?」

 莉々・シュノーケイル。

 そして変異種の少年、汐。

「バケモノがヒーローやるって正気の沙汰とは思えないぜ」

 不安。一種の恐怖が一部の都民の間で芽生えている。

「いや、でも……変異種って、姿がその異星人に少し似てるってだけなんだろ? アイツらが異星人みたいに暴れ出すことはないって言ってなかったっけ?」

 医療学、そして科学的にも変異種については安全性が証明されている。

 ゼノバスの細胞が体に寄生し、その体の一部を変異させてはいる。だがその細胞のほとんどが人間の体内で死滅しているという。

「……そうだけどさぁ。それ、本当って言いきれる?」

 今も尚、根強く記憶に刻まれている三十年前の侵略。

 異星人に対しての恐怖。現れた変異種の危険性。

「突然、街を壊して暴れ回るかもよ?」

 数十年近く続いてきた人種差別。

 人としてすら見られなくなった変異種。それを毛嫌いしてきた人間達の間に深まった溝は……そう簡単に収まるものではない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 全国民にDRESSの姿を公表してから数日が経過した。

 DRESS真宿基地。また街中に姿を現すであろうゼノバスに備え、地下のトレーニングルームには戦士二人の姿がある。

「……んで、なんだ」

 ドレッサー・グレイヴ。

 漆黒の狼。体全体を外骨格フレームのパワードスーツで包む戦士。新たな期待を一身に背負った少年・汐は腰に手をやりながらストレッチをしている。

「今からアイツとやれってか?」

 グレイヴの視線の先。

「-----」

 そこには既に戦闘準備を終えたドレッサー・レイド。

 戦闘用のインナースーツ。機動戦を考えられた武器パーツとフレームパーツ。目元をゴーグルで覆い隠した機械天使。莉々・シュノーケイルが静かに汐を待つ。

『あぁ、そうだ。君は喧嘩の経験こそ多いかもしれないが、ドレッサーとしての戦闘訓練はほとんどやってないからね。今後、どのような強敵が現れるかも分からない。その日に備え、ドレッサー・レイドとは本気の手合わせをしてもらいたいのさ』

「……なんというかな」

 首を軽く鳴らす。

 外骨格フレームは特殊なゴムも使用しているため、手足の関節を折り曲げたり、姿勢を屈んだりする際などに変な制限がかからない。自由に柔軟運動が出来る。

「女相手にマジになるのは、気が引けるつーか」

「(……ッ)」

 一瞬、汐の発言に莉々の表情が歪んだ。

 明らかに不機嫌。口元と眉間に皺が寄っている。

『はっはぁ、汐君。喧嘩では負けなしだからって調子に乗ると痛い目を見るよぉ~……君が今から戦う相手は、そこらのイキってるだけの連中とは格も世界も違うんだから』

 その態度は改めた方がいい。ドレス・リモーターに内蔵された無線装置を通じて、璃亞から注意勧告。

『これも仕事だ。君の実力、存分に振るってくれ』

「しゃぁねぇ」

 手首を軽くひねる。体も軽く揺らす。

 汐は拳を鳴らし、戦闘態勢に入る。

「俺は女相手だろうがやる時は本気で殴るぜ……歯、食いしばっとけよ」

 言われた通り、全力でドレッサー・レイドに挑む。

 特殊部隊の一人。日本の武力において最強の戦力となるドレッサーの一人に選ばれた少女の実力。どれほどのものか試させてもらう。

 意気込みよし。汐はゴングが鳴るその瞬間を待った。


『それじゃぁ、訓練開始!』

「よっしゃぁ、どっからでもかかって、」

 ゴングが鳴った。戦闘の合図。

 汐は勢いよく少女相手にメンチを切り、軽く挑発の挨拶一発かましてやろうかと片手を突き出そうとした。


「レイダータイム」

 カッコをつけようとした。

「???」

 それはハッキリ言って”大きな隙”であった。

 レイダータイム。ドレッサー・レイドの代名詞ともいえるハイスピード戦闘システム。莉々は汐の眼前に迫っていた。

「へ?」

 既に汐の顔面。その眼前には莉々の脚部が迫っている。

 少量のジェット噴射を搭載した超重装甲に覆われた少女の脚が。

「ぐおわぁあああーーーーッ!?」

 見事、ダイレクトにヒット。

 顔面を蹴り飛ばされた汐はそのままトレーニングルームの壁へ。どんな一撃だろうと受け止めてくれる特別製の壁にクレーターを作り上げていた。


「あぎゃ、ぎゃぎゃ……」

『ハッハッハ。歯を食いしばるのは君だったみたいだねぇ~』

 ものの見事に瞬殺であった。壁からポトリと地面に落ちていく汐。あまりにも間抜けな大の字の姿勢で場外の床の上を寝転がっていた。

「いやぁ、待て! 今のはちょぉおおっと油断しただけだから!? 今の全力じゃねーから! 本気じゃねーからぁ!?」

 汐はその場に座り込んだまま、見苦しく言い訳を始めたじゃないか。

 すぐには立ち上がれないほどにドレッサーシステムへダメージが通っていた。これだけの重傷を負っておいて尚、負けを認めぬ潔さの欠片もない姿を晒していた。

「もう一回だ! もう一回やれば今度は、いつつっ……!」

[大丈夫?]

 首を押さえる汐。ドレッサーの装甲じゃなかったら間違いなく首が折れている。

 中々立ち直れない彼を気遣ったのか……文字の書かれたスマートフォン片手、フレームパーツを解除し、インナースーツのみの姿となった莉々が駆け寄っていた

 そっと片手を伸ばしている。立ち上がれないのなら手を貸してやろうかと言いたげな仕草。少しばかり上からの目線で汐を見下ろしていた。

[少し、やりすぎた……ごめんw]

 絵文字。莉々は『プッ』と笑いを堪えている表情。

 馬鹿にしている。これは間違いなく馬鹿にしている。『やってやったぜ。』と言わんばかり。

「てんめぇ……ッ! 上等だ、ゴラァアッ!? 表出ろォッ!!」

 見事なまでにコケにされたのが癇に障ったか。沸点はさほど高くない汐は怒りのパワーのみで立ち上がった。

『女の子相手に本気になるのは気が引けるって言ったのは、どこの誰だったけ?』

 無線の向こう側。呆れているのが目に見えるトーンの独り言が漏れた。

「ガルルルルルッ……!!」

「~♪」

 莉々は悔しがる汐の姿を見上げながら今も軽く微笑んでいる。満足したようだ。

「やっぱ、テメェは気に入らねぇ!」

 彼女は相変わらず口を聞こうとはしないし。顔を合わせれば生意気な態度が続く……汐はそんな彼女を前、不満に満ちた表情で顔を赤くしてそっぽを向いた。

「……?」

 汐は顔を逸らしている。不貞腐れたのか。

[ねぇ? どうして、私が近づくと顔を逸らすの?]

 首を傾げ、メッセージの表示された画面をスライドさせる。

[私の事、そんなに不愉快?]

 不快に思っている、というのは間違いないだろう。

 だが、莉々は思った。

 割と離れた位置であったら汐は視線を合わせて会話してくるが、こうやってゼロ距離にまで近づいて来ると途端に顔を逸らし始める。

 目を合わせたくない理由でもあるのだろうか。汐本人に単刀直入に聞いてみる。

「ああ、嫌いだ! テメェみたいな辛気臭い奴は特に、」

『……もしかしてだけど』

 トレーニングルームの風景を別のモニターから見ている璃亞が問う。


『目のやり場に困ってる?』

「~~~~ッ!!」

 図星を突かれた。沸騰したヤカンのように汐の顔が真っ赤に染め上がる。

 そうだ。慣れていないのだ。汐は”女”に。

[意外。そういうの気にしない人だと思ってた]

 会話が聞こえていたのか莉々はメッセージを入力して見せつける。やっぱり小馬鹿にするようニヤつきながら。

「う、うっせぇ! 近寄んな!」

 また、ちょっとずつだが離れようとする。

 意外にも意外。オクテというか、ムッツリというべきか。汐が莉々から目を逸らす理由は、女に慣れていないという単純な理由だった。

 実際、莉々は美少女だ。腋、太腿、背中、肌身をそれなりに晒すインナースーツ。女性慣れしていない汐にとってはかなり刺激的。

 先日、莉々を持ち上げ連れ帰るときも、やたら声が震えていたのを覚えている。相当我慢していたのだろう。

[それは困る。今後一緒に戦うことが増える。だから慣れろ]

 そんな彼の事などお構いなしに莉々は迫る。ぐいぐいと。

「やーめーろーッ! くぅーるーなぁーーーッ!!」

[なーれーろーー]

 全速力の追いかけっこにまで発展した。


「全く、なにやってんだか」

 トレーニングルームに誰かが入ってくる。

「遊んでんじゃねぇぜ。汐」

 現れたのは、松葉杖片手の極堂将である。

「おっさん?」

「……?」

 突然現れた将。

 二人の追いかけっこは終わり、その視線は突然の来客へ----


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<ドレッサー・グレイヴ>【変身者『汐』】

 第二世代ドレッサーの一体。ドレッサー・レイヴの片割れのもう一体。

 全身を覆う外骨格フレームのパワードスーツであり、刺々しい漆黒の鎧が特徴的。まるで狼のように荒々しいスマートなその姿は正義の味方というよりは怪人ではないかと噂されているんだとか。

 機動戦を得意とするレイドとは逆にパワーを活かす。汐のタフネスな根性と乱暴な性格と相性が良く、その狂暴な戦いにてゼノバスを惨殺する。

 

 本来、ドレッサー・レイドのサポートを主とした『ドレッサー・ブレイヴ』という呼称であった。ブレイヴと汐専用に改造し直したのが、この『グレイヴ』である。

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