第08撃「三人目が空から降ってくる!?(前編)」
14:00。真宿区内某所。
ドレッサーの登場、ゼノバスによる恐怖。
以前よりは混乱は収まりつつあるが……今も尚、不穏な空気は漂い続けている。
「なぁ、見たか? ドレッサーってやつのニュース」
少年少女は学校。成人は営業か仕事か。
「あぁ、見た見た」
見るからに学生。未成年の男達が路地裏でスマホを見つめている。
「……まさかアイツがヒーローに転職、とはねぇ?」
それは研究機関DRESSによる記者会見の映像。
配備されたドレッサー……そのうち一名。ドレッサー・グレイヴ、汐に注目する。
「よくねぇなぁ~?」
汐の映像に切り替わると、男は不敵に笑う。
「怪物が人の真似事なんてしたらさぁ~……?」
スマートフォンの画面は静かにブラックアウトした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻。DRESS本拠地、モニター室。
トレーニングルームに現れた極堂将。施設内を出歩ける程度には回復したようだ。
しばらくはリハビリ生活。完全復活もそう遠くはないとのこと。
「ドレッサーチームの結成?」
どうやら将は璃亞に呼ばれたらしい。
ついでに二人もつれてくるように頼まれたとのことだ。
将に連れられ、モニター室へと到着する一同。
「そう。ヒーローチームの結成さ」
「それって、俺達のことだろ?」
璃亞の口から語られた一言に汐は首を傾げる。
「……いや」
ドレッサーチーム。それはドレッサー・グレイヴとレイドの事ではないのか。何が違うのかと、首を傾げる角度は更に深くなる。
「二人だけではないよ……あと二人。他にドレッサーが存在する」
「俺たち以外にドレッサーが!?」
そう、真宿の平和を守るドレッサーチームはまだ完全なものではない。
「!?」
まだ、別に二人のドレッサーがいる。
汐だけじゃない。莉々もまた、知らされていなかった事実に驚いていた。
「近いうち二人の仲間がやってくる。その二人が加われば……私達ドレッサーチームは完成する」
ゼノバスとの戦い、それは三十年前のように派手かつ豪快には出来ない。
ただでさえ東京の復興にかなりの額の資金を費やした。それをまたパーにするのは困ると政府から言い渡されている。
何よりアレだけの力。見せびらかせば怯える者もいるし、よからぬ事を考える輩も現れる。結果、このような事態となったのだ。
故にドレッサーシステムにはある程度の制限が課された。
グレイヴとレイド。二人だけでも相当な戦力ではあるが……『念には念を入れて』という言葉がある。
[その二人は、いつここに来るの?]
携帯に書いたメッセージを莉々は提示する。
「今、向かってはいるらしいけど……到着はいつになるか分からないって。まぁ、そう時間はかからないよ」
数日かかるかもしれないし、もしかしたら今日中に会えるかもしれない。
今のうちに歓迎の準備をしてくれ、というのが璃亞からの指示だった。
「会ったら仲良くしてやってくれ……それと極堂君」
話題は、リハビリ生活に入る将へと切り替わる。
「ある程度回復したら、引き続き私達の手伝いを任せたいのだけど……いいかな?」
「かまへん。元より、そのつもりやった」
変身資格こそ失ったがやれることは沢山ある。回復の見込み次第、DRESSのバックアップへ取り掛かると将も宣言した。
「聞かん坊の面倒も見なあかんしな」
代わりに変身者となった汐。我が子の様に面倒を見続けてきたという彼の今後も気になるようだ。
「……ったく。怪我人は大人しく寝てればいいってのに」
汐は足を組み、そっぽを向きながら反抗する。
こうは言ってるが……本人は満更でもないような反応だった。
「それじゃあ、私はアインのところに行くよ。また何かあったら呼ぶから。今日は好きにしていいよ」
今日のトレーニングも終わり、ここからは自由時間。
部屋でくつろぐも良し、不安があるならトレーニングに励むもよし。次のゼノバスとの戦闘に備え、ゆっくり体の調子を整えておくようにとのことだ。
「んじゃ、俺は休むとするわ……汐、あんま迷惑かけるんやないで」
「うっせぇ! 早く行け!」
余計なお世話だと大声。しっしと片手を振り払い、将はそんな彼の姿に半笑いしながら病室へと戻っていった。
「……んじゃ、俺は外の空気でも吸いに行くとするか」
ここ数日、ゼノバスとの戦闘以外で外には出ていなかった。久しぶりに真宿の街を出歩くとするか考えていた。
[私も行く]
すると、どうだろうか。
後ろから親のアヒルを追いかけるヒヨコのように、莉々がついてくる。
「おい、なんでついて来るんだよ」
[あなたが街で暴れないか監視するよう、お母さんから言われてる]
すべて正当防衛ではあるが……汐の悪行は警察の間では有名だ。
絡んできた不良生徒をすべて病院送り。チンピラ、ヤクザも同様に半殺しだ。歯をすべて折られるか、手首を折られるか。目を潰されるか、タマを潰されるか。
[これからのDRESSの活動に支障をきたされたら困る]
今の汐は立場が立場だ。
真宿の平和を守る正義の味方が喧嘩に明け暮れている姿を見られてでもみろ……それは大きなマイナスイメージになりかねない。
それを未然に防ぐため、監視役として莉々を近くに置いておくそうだ。
「ちっ、好きにしろっ」
来るなと言っても来るに決まっている。璃亞からの命令なら猶更だ。
何を言っても無駄だとわかっているのか、諦め気味に汐は莉々の同行を許可した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後。二人は真宿の街へ到着する。
ここを散歩で出歩くのは五日ぶり。そんなに日が経っていないのにも関わらず、何処か新鮮な空気が漂っている。
「ゼノバス、か」「だ、大丈夫だよな……?」
それもそのはずだ。
「大丈夫だって! あの機械天使様がゼノバスなんてぶっ飛ばしてくれる!」
なにせ今の真宿は……ここ数日で起きたゼノバスの被害で緊張状態に陥っている。
「ドレッサー、信用できるのかな」「まぁ、ゆっくり待つしかないって」
ゼノバスがまたこの街にやってくるのか。ドレッサーは信用に値する戦力なのか。
今になって姿を現したDRESSが何を企んでいるのか。
いつにも増して、街の空気がよどんでいるのが分かる。
「……」
そのドレッサーの正体。汐は妙に緊張していた。
ヒーローの立場としての緊張を無意識のうちに感じ始めている。
「じーーーー」
だが、それ以上に沸き立つこの緊張感の正体。
「……だぁあっ! ジロジロすんな!」
もしかしなくても、それは真後ろからついてくる女の子が原因だ。
莉々はさっきから彼の後ろを引っ付いて離れない。背中に感じる強烈な視線。それをかれこそ数十分以上も感じている。
近くに女の子が居続けている。普段味わったこともない妙な空気。そちらの方が汐にとっては肌痒くて仕方がなかった。
[しっかり見てないと、何をしでかすか分からない]
「俺はおまえらの犬か何かかッ!」
まるでペットの犬のしつけである。
[お手]
「するか!」
リラックスのつもりが逆にストレスを感じ始めている。外に出たのは失敗だったかと思い始めていた。
「お、おおおーーッ!?」
しかし……その考えは少しでも解消されることになる。
「おーい! 汐―ッ!」
人ごみの中から、片手を振って走ってくる男の姿。見るからに汐と同い年くらいの少年だ。
「おっ、遊馬崎」
駆け寄ってくる少年に、汐も気づく。
「おっ、じゃねーんだよ!」
遊馬崎。そう呼ばれた少年は駆けよってすぐに平手打ちで汐の胸板にツッコミを入れる。
「連絡とれねーから何があったんだと思ったら……テレビでお前がスーパーヒーローになってるってニュースが出てビックラこいたんだよッ!?」
オーバーなリアクションで汐との再会に喜びを感じる最中、同時に隠せるはずもない驚愕を露わにしている。
「何々!? 何があったらそうなるわけ!? それともこれ、何かのドッキリ!? カメラ、カメラ何処!?」
「ねぇよ、んなもん」
その近くに一部始終を録画しているカメラ班がいないのかと探し回っている。どうしたものかと汐も困り果ててくる。
「本当だよ。詳しくは言えねぇが、そうなっちまったんだ」
DRESSは活動内容こそ口にはしたが、その活動の百パーセントを暴露したわけではない。
本拠地の場所、開発中の兵器、ドレッサーシステムの全貌等々……隠していることは山ほどある。
何故、汐がDRESSに所属することになったのか。全貌も明かすことは出来ない。
何があったのか詳しく話せない事が、汐にはむず痒く感じた。
「……信じられねぇよ。これ、本当にドッキリじゃないのかよ」
遊馬崎はとにかく疑い続けていた。いつ、彼の口から『ドッキリ大成功』という言葉が出てくるか。そう信じてやまないように。
[この人は?]
莉々はスマホ片手に汐へ問う。
「あぁ、【
汐の目の前でパニックになっているのは、彼の友人だという。
[あなた、友達いたのーーーー!?]
「どういう意味だァ、ゴルァアッ!」
喧嘩に明け暮れているうえに、変異種と言う立場だ。友達らしい友達はいないんじゃないかと思われても仕方ないと思っている。
片手を口に添えて、オーバーに驚くリアクションを取っている莉々に対し、汐はムカついていた。仕方ないと思っても相手が相手だ。素直に苛立つ。
「お、おおおっ……」
遊馬崎は莉々の存在に気付いたようだ。
「こ、この人がもう一人のドレッサー……おおっ……テレビで見た時も感じたけど。こう、近くで見ると……こう! 天使のようで可愛らしく、だけどクールで!」
見惚れているのか。完全に鼻の下を伸ばしている。
「あ、あの、どうですか? この後、三人で食事でも、」
「ナンパしてんじゃねーよ」
汐は両手を広げ、莉々に食事の誘いをする遊馬崎を鼻で笑いだす。やれやれと首を降りながら。
「やめとけよ。そいつ、愛想悪いぜ。性格も悪いし……」
(ブチン)
汐に天罰が下る。
「ふんっ!!」
まるで、バレリーナにように。
莉々の華奢な脚が、汐の顎へと飛んでいく。足は90度綺麗に縦へ。
「何より背もちっこ……ぶほぉおッ!?」
見事なI字開脚。莉々のキックが汐の顎にクリーンヒット。
首が吹っ飛ぶのではないのだろうか。汐の体は小さく浮き上がり、そのまま足を滑らせ、地面に転がってしまう。
「な、なにしやがんだ……」
[あなたが余計な口をきいたから]
莉々はゴミを見るような目で、携帯片手に汐を見下ろした。
人前で性格悪いだとか、ちっこいだとか言われたのがよほど癇に障ったのだろう。先輩として後輩に下すにはあまりに重すぎる一発を食らわされた。
「おおお……マジかよ。あの汐が押されてる……」
あの喧嘩負けなしの汐が飼いなされている。彼を良く知るという遊馬崎は莉々の勇姿にまたも見惚れているようだった。
「い、いいぜ……! お前がその気なら!!」
ここで一発、思い知らせてやるべきかと汐が立ち上がる。
-----その時だ。
「お、おい、なんだ!?」
ただでさえ、不安一色だった市民達の声がどよめく。
「なぁ、あの、空飛んでるのって……!」
住民の何名かが、雲一つない空を指さしている。
「ゼノバスじゃねーの……!?」
「「!!」」
迫っている。脅威が迫っている。
「こっちにくるぜ!?」
住民達が驚異の接近に気づく。死に物狂いでその場から逃げようとする。
太陽を背に降りてくる。
羽を広げた……翼竜のようなゼノバスが。
「来やがったか!」
いつか来るとは思っていた。
汐と莉々は逃げ惑う人ごみをかき分け、怪物の元へと向かって行く。
「お、おい! 汐!」
「遊馬崎! テメェも逃げろ!」
遊馬崎に叫ぶ。絶対にゼノバスには近づくなと。
先へ先へと進む。徐々に消えていく人ごみ……ゼノバスと二人の戦士だけが、車一台見当たらなくなった公道の真ん中に集う。
『……ついニ見つケタゾ』
二人の戦士を前に、ゼノバスが咆哮する。
『アノひノ無念を晴ラス時ダァアッ!』
「つべこべ言わず、かかってきやがれ!」
それに対し、汐も啖呵を切る。既にドレス・リモーターは起動済み。
『READY??』
端末からは起動準備OKのガイド音声が聞こえていた。
「……排除する」
続いて、莉々もドレッサー・コードを起動している。
狼とジャッカル。二人はそれぞれのカードキーを取り出し、端末に差し込んだ。
「変身!」「変身」
同時変身。二人の周りに展開されるホログラム。
出現した装甲フレームが汐と莉々に装着されていく。
ドレッサー・グレイヴ。並びドレッサー・レイド、降臨。
二人の戦士が並び立つ。
「おいおい……」
近くのポストに隠れ、遊馬崎は唖然とする。
「マジで、ドッキリとかじゃないわけ……!?」
震える口元を。無意識に鳴ってしまう歯を無理やり抑え込んでいた。
「よっしゃ! 行くとするかぁ!」
腕を鳴らし、柔軟運動完了! 街を脅かすゼノバスとの戦いが今、始まろうとしている!
「俺がテメェの息の根を止めて、」
『ちょぉおっと、待ったぁあーーー!!』
気合い入れて突っ込もうとした矢先。
「ぬぅうう……な、なんだァ!?」
あまりにも耳障りな声。明らかに音が割れている。
スピーカーだ。誰かがこの付近に向かって大声を発している。
『そいつの相手は……』
目の前のゼノバス。そして住民達の悲鳴で気が付かなかった。
「!!」
その上空。
「なっ!?」
ゼノバスの真上に。
『この私が引き受けたーーッ!』
米軍の軍用ヘリ。
そこから身を乗り出し、スピーカー片手に胸を張る金髪ツインテールの軍服少女がいたことに。
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