第06撃「地獄の猛狼【G.RAVE】(後編)」


 その名はグレイヴ。獰猛な牙・グレイヴだ。


『舐めルナ人ゲン……我ら、ゼノばすヲ舐めるナぁあッ!』

 押し込まれながら発狂を続ける。ゼノバスはプライドと怒りのみで必死の抵抗。

「見下してんじゃねーぜ! 宇宙人ッ!」

 押し返されそうになった。しかし汐はそれに対し、倍以上のパワーで応える。

「テメェらみたいなクソッカス共に俺が負けるかッ!!」

 人間の言葉も何かしらの形ですぐに覚えた。人間に圧倒的な力を見せつけた。

今、目の前にいるのは人類の脅威となる化物だ。


 しかし、汐はそんな宇宙人相手だろうが大きく出る。

 地球の脅威・異星人ゼノバスをいつもの挑発の一言で片づけたのだ。


「オラァッ!」

 拳が一発、ゼノバスの顔面に抉り込む!

『グァアッ!?』

 ジェット噴射を活かした飛び膝蹴りでもビクともしなかったゼノバス。しかし彼が振るったストレートは……ゼノバスの肉体を数メートル先まで押し飛ばした。

 パワーがドレッサー・レイドの比ではない。

 ゼノバスは想像以上のパワーを前に悲鳴を上げる。

『グレイヴ! 早速だがグレイヴ用に新調した新兵器のテストをしてもらおう! ブレスレットの球体に触れたまえ!』

「こうかっ!?」

 ゼノグラムにより構成されたコア。戦闘システムと肉体全ての制御ユニットである球体に汐はそっと触れる。

『WEAPON. GRAVE BLADE.』

 あの時、何らかの形で誤爆した武器の出現。

 ガラス球体からイナズマが現れ、武器のホログラムを展開していく。完成した武器の立体映像が、ドレッサー・グレイヴの両手に突っ込んでくる。


 最初に見た時はトンファーに似たようなタイプのサーベルだった。 

 グレイヴ用に新しく調達された武器は……手の甲にセットされた小型チェーンソータイプのブレードとなっている。

 以前と比べてヒーローらしさの欠片もなくなった。敵をぶっ飛ばす事だけを考えた。殺傷能力が極めて高そうな超物騒な武器へと変わり映えしていた。


『そのまま、ぶん殴れぇえーー!!』

「よっしゃァア! 任せなッ!」

 戦略も何も考えず、ただ勢い任せにぶん殴れ。

 頭を使わずにまっすぐ突っ込むだけでいい。頭の悪い彼にとってコレほどわかりやすい命令はない。汐は勢い任せに、ゼノバスへと突っ込んでいく。

 ゼノバスが近づくと、棘だらけの刃が超高スピードの回転を始める。チェーンソーでよく聞くおなじみの音。耳障りな騒音があたり一帯に広がっていく。

『ソノ程度っ……!』

 ゼノバスが両腕を交差し、防御の姿勢に入る。

「グレイブゥ……ブレェエエドッ!!」

 刃が展開されたその一撃を……防御された腹部目掛けて突き穿つ!

 震えるゼノバスの両腕! より回転を増すブレード!

 汐の勢いに応えるかのように、ガラス球の輝きがより鮮明に放たれていく!

『ギギッ……!?』

 そして、その一刺しが貫く! ゼノバスの皮膚を容易く!

『ギギャァアアアアーーーッ!?』

「こいつで終わりだ! 蟲野郎ッ!!」

 もう片方のブレードも、腹部目掛けてぶっ刺した!

 両腕を貫き、腹部の皮膚をも貫く。

 二本のチェーンソーブレードが、ゼノバスの肉体をブチ抜いた。

『イマ、いくゾ……妹ぉォオオオオ……ッ!!』

 細胞分解。ゼノグラムがゼノバスの心臓から全体に流れ込んでいく。ゼノバスの体はスライムのように溶け始め次第に蒸発。霧となって、その場から消えてなくなっていった。


「俺に勝とうなんざ!」

 ブレードが消滅。汐はグレイヴの姿のまま、右手を天に掲げる。

「一億年早ェんだよォオーー!!」

 見事なまでの初勝利を。完璧な初陣を飾ってみせた。



「さてとっ」

 ゼノバスの処理は終わった。だが、汐にはもう一つ仕事がある。

「立てるか、おい?」

 仕事仲間となるドレッサー・レイド。莉々の救助だ。 

 見るも傷だらけ。自分の力で歩いて帰るには少しばかり無理がある。

「……」

 莉々は気まずそうに目を逸らす。

「しゃぁねぇ。そらよっ、と」

 パワー重視のグレイヴだ。ともなれば、ちょっと強がっている程度の少女一人。

「っ!?」

 持ち上げることなど容易い。

 しかし、お姫様抱っこなんてそんなメルヘンチックな運び方じゃない。肩で担ぐように……まるで角材のような運び方であった。


「~~ッ! ~~~~ッ!!」

 莉々は顔を真っ赤にしながら、ポカポカと背中を叩いて来る。

 人に見られたくないのだろう。あまりの恥ずかしさに莉々は反抗していた。言葉こそ発しないが、決死の抵抗だ。

「おい! 暴れんなッ!」

 反撃してくる莉々のせいで姿勢が崩れそうになる。しかし汐もまた、必死に抵抗しながら彼女を運び続けた。仕事なのだから。

「こっちだってハズいんだぞッ! クソッタレッ!」

 仲間同士で行われる第二ラウンド。二人の戦士は基地へ帰還していった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 数分後、二人は基地へと帰還する。

 

「いやぁ、よくやった! 見事な初勝利だったぞ、汐君!」

 目を輝かせながら璃亞が何度も汐の背中を叩いて来る。

「まっ? 俺にかかればこんなもんよっ~?」

 まるでピノキオのように鼻を伸ばしている。見事なまでの大勝利、汐は完全に天狗になっていた。気分はかなり最高のようだ。


「莉々もよくやったよ。ただ今日は油断だったね?」

 同じくして、私服姿の莉々の元へ璃亞が駆け寄る。

「……っ」

 頬にガーゼ。足にも包帯が巻かれているのがタイツ越しでも分かる。

 少しばかり気まずそうな表情で。莉々は近場のベンチに腰掛けたまま、駆け寄ってくる璃亞へ顔を上げる。

「私と一緒で仕事が早いのは良い事だ……でもね、今度は気を付けるんだぞ」

 璃亞はそっと莉々の頭を撫で回す。

「絶対に死ぬな。そういう約束だからね?」

 笑顔だった璃亞の顔が。

 一瞬だけ。親としても、組織の人間としても……どこか重苦しいものに変わる。

「……うん。ごめん、なさい」

 また小声で。璃亞にだけ聞こえる声で莉々は謝罪した。

「わかればよろしい! さぁ、莉々。私に謝るのもそうだが……もう一つ、やるべきことがあるんじゃないかな?」

 璃亞の表情がいつも通り愉快な大人な顔に戻ると、ニヤついた表情で視線が汐へと向けられる。やるべきこと。それは莉々も当然わかっている。

 助けてもらった礼はしっかりとしなくては。

 恩はしっかり恩で返す。礼儀はしっかり礼儀で返す。仁義のある素晴らしい女性になるべきではないかと、からかうように璃亞は笑っていた。


「……っ」

 莉々は立ち上がり、早足で汐の元へ。

 ----静かに頭を九十度。綺麗な姿勢で下げる。

 そのまま何も言わずに莉々はその場を去っていく。まるで逃げるように、だ。

「結局、最後まで口は聞かねーってわけかよ」

 不機嫌そうに汐は頭を掻きまわした。まるで逃げるように去っていく莉々の背中を見つめながら。

「ごめんね。ちょっと、色々訳アリで」

「まぁ」

 最初こそ不機嫌だったが、クスリと頬を汐は緩める。

「あいつなりの礼儀だってなら、よしとしてやるか」

 ちょっとくらい大人になってやる。

 なぜか勝った気でいるような表情で、汐は心を広く大笑いしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 同時刻・箱根山某所。


「======。(女王、様。)」

 そこは人間の手の届かない付近。

 箱根山の極秘地下シェルターよりも更に奥の地中深く。

 マグマ。その熱源に近い付近に……人ならざぬ者達が集う。


「======。(人間共の住処の様子見に行かせた同胞の一人が戻ってきました……三人が死滅。)」

 獣と言うにはあまりにも醜く、人と言うにはあまりに異形。

「======。(どうやら……機械天使は存命のようです。)」

 機械天使。かつてゼノバスを滅ぼした戦士の存在を異形の一人が口にする。

「======。(いかが、致しましょう。)」

「……」

 ただ一人。

 玉座に腰掛ける異形は、答えを待つ異形達を見下ろしている。

「======。(われらは、不滅。われらは、最強なる、種。)」

 異形の長は、同胞達に宣告する。

「=====。(不滅の力をその身に食らい……そして今、地球の生命の源をその身に浴び続けている。)」

 両手を掲げる。地上へ、神がいるとされる天空へ。

「======!!(我々は……更なる進化を遂げた!!)」

 絶体絶命ではない。『ピンチである立場ではもうなくなった』と。

 その戦況は。その歯車は大きくコチラ側に流れていると宣言してみせる。


「======。(行くぞ。我らの繁栄の為。この地球という星をいただく。)」

 高らかに宣告する。

 異形達の新たなる戦いの狼煙を上げさせる。

「======!(人と言う、小癪な種を殲滅するのだ!)」

 玉座の前。女王の前で異形達は雄たけびを上げる。


 星が揺れる。

 

 人類と異星人の戦い。

 本当の戦いは、これから始まる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<ゴリラ・ゼノバス>

 肥満型のゼノバス。テナガザル・ゼノバスの姉であるらしい。

 動きは鈍いがパワーと防御力に優れている。

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