るり子、安住の地へ 1

 警察、という言葉はるり子の頭に銃弾のように刺さった。

 それだけはやめてほしいわ、とるり子は思った。

 住所がないとみな警察に連れて行かれるのかしら。

 だったら名古屋の住所を伝えれば済むのかしら。

 でもそれは・・・。


「あのおばあさんが無事でよかったわ。では、私はこれで」


「あ、ちょっと待ってください」


 王子様が呼び止めた。

 逃げなきゃと思っていたのに、優しいその声に思わず足が止まってしまう。


「るり子さん。帰る場所を思い出すまで僕のところへ来ませんか?」


 え?それってシェア?

 覚えたての言葉をるり子は胸の中で叫ぶ。

 同棲というには時期早々だから、やっぱりシェアよね、とるり子は思う。

 住所を忘れていると思われているようだからこれはチャンスよね。

 今からビジネスホテルを探すのも大変だし、玉川上水路に引き返して野宿するのも方向がわからないし。


 よかったわ。

 王子様は本当に心の底から王子様なのね。

 板についてるわ、王子様振りが、とるり子は感動した。


 ええ、喜んで、とるり子は頷き、王子様の呼んだタクシーに便乗した。


 タクシーは小さなアパートの前で止まった。

 名古屋の実家と張り合えるぐらいにボロボロだった。

 王子様の暮らす場所には相応しく見えない。

 アパートの一階の西側の部屋に『愛ある家』という看板があった。

 いくら少しおバカなるり子でも、少し警戒心が働いた。


 もしかしたら怪しげな宗教のアジトかしら。

 宗教にハマりやすい人って、意外に真面目で純粋な人が多いって聞くし。

 目の前の王子様なんてまさしくハマりやすそう。


「ここは僕の事務所です。夜間は誰もいないので今夜はここに泊まってください」



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