第44話 初デートはお姉ちゃんと共に
「スーパーヒーロータイム!また観てね~!」
ふぅ今日も見応えある1時間だったぜ。
今日は日曜日、時刻は午前10時になろうとしている。
昨日、事務所から帰ってきたら姉ちゃんから「明日は10時半に駅前の時計台の所に来てね!」と言われた。家から駅前の時計台だと歩いて20分位か…。繁華街の方向だな。
と、その前に今日のスーパーヒーロータイムの感想と考察をザックリツイッターに投稿しておこう。俺がスマホを始めて買ったのは確か小5に上がる時だった。姉ちゃんが中学に上がる時で、姉ちゃんが「少しでも連くんと繋がっていたいから」と父ちゃん母ちゃんを説得して俺に持たせたのが最初だった。まぁ俺もTTFCに入りたかったし、個人的には特に問題は無かったのだが。
それと同時に穂希も一緒に買って既にスマホを持っていたアヤともラインのアカウントを交換して以来、3人から毎日の様にラインで連絡、自撮り、電話が来る様になるとは思わなかったが。
そんな事を思っていたらすぐに投稿した感想にいいねがついた。
「あ、またRIAさんか」
俺がツイッターを始めたのは中1の頃、理由は特になく何となく始めたもので基本的に特撮の事しか投稿しない。そんなに突っ込んだ事や過激な事も書かないのでフォロワーは100人もいないがまぁそんなものだろう。
RIAさんという人はSNSを始めた際に最初に相互フォローをする事になった人だが、未だ実際に顔を合わせている訳では無いが俺が特にツイッター上で盛んに交流している人だ。いつも『あなたの視点は独特で参考になります』と返事をしてくれる。
この人は特撮絡みの内容を投稿する事も多いが、コスメやお洒落なカフェの話等もしており、千人単位でフォロワーがいる。どうやら俺より年上の女性である事は確からしい。ただ顔写真は上げていないので大切なオタク仲間だがどういう人かは不明だが。まぁ顔写真をネット上に上げるなんて普通にしているだけならそうそう必要ないとは思うしな。
それはさておきもうそろそろ姉ちゃんと一緒に行くか、気が付けば10時10分だ。
もう行かないと間に合わない。
「姉ちゃ~ん!!」
一応、家のいそうな場所を探していたが、見当たらない。
あれ?10時半に駅前の時計台に来てと言ったのは姉ちゃんだ。俺達は姉弟で同居しているから一緒に行くはずじゃなかったのか?
「あれ?あんたまだいたの?」
俺が謎に直面していると通りがかった母ちゃんから声をかけられた。
「あ、母ちゃん。姉ちゃんって今どこにいるか分かる?」
「え?水沙なら『今日は連くんとデート♡先に行って「待った?」「ううん。今来た所」ってや~ろうっと♡』とか言いながらあんたが仮面ライダー観てる間に出て行ったわよ」
「えっ!?」
え~!何だそりゃ!もう姉ちゃん出て行ったのか!いや、一緒に行った方が楽じゃん。姉ちゃん的には違うの?
じゃあ家を探しても無駄じゃんか!ああ急がなきゃ時間が無い。行くぜ!行くぜ!行くぜ!
「あんた~!道には気を付けなさいよ~!」
家の方から母ちゃんの声を背中に受けて俺は走り出した。
そして駅前の時計台付近に到着した。時間は10時27分。何とか間に合った…。
それにしても今日は暑い。天気も快晴、気温も高め。確か昨日の天気予報で『明日は夏日』とか言ってたなぁ。もう夏服で全く問題無いレベルだ。
とそこで俺はある事に気付いた。何やら周りが騒がしい。何かあったのか?
「おい、お前が行けよ」「いやお前こそ声かけてみろよ」と言いあう男性達や「私って彼女がいるのに何ジロジロ見てんのよ」「そんな事無いって」と言うカップルの痴話喧嘩、「綺麗…」と見惚れる女性ととにかく色々な声が聞こえる。
何だ何だ?誰かいるのか?というか姉ちゃんはどうした?と思ったら俺はある光景を目撃した。
時計台の下に白いショルダーバッグ、白いノースリーブのワンピースを着て白いガーデンハットを被った長身の黒髪ロングの美少女が立っていたのだ。
なるほど、周りがざわつく原因はこの人か。確かに物凄い綺麗な人だ。
こういう人なら声を誰かからかけられそうなものだがその姿が余りにも美しい一枚の絵として完成され過ぎているのと、逆にその美貌が度を越えているレベルなので声をかけるのも躊躇われるのだろう。さっきの声も大方そんな感じだろうし。
しかし姉ちゃんがいない。時間も気が付けば10時半。約束の時間だ。姉ちゃんは昔から時間厳守な人だ。今はアイドルをやっているからその時間厳守癖はより強くなっているだろう。だから間違いなくここに来ているはずだ。それなのに姿が見えない。謎が深まるばかり…。謎の美少女に背を向けて辺りを探し始めた。
その時だった。
「あっ、連くん」
後ろから誰かに呼ばれた。声からして恐らく姉ちゃんだろう。やっぱりいたんだ。
だが振り返ってみると驚いた。俺に声をかけてきたのは姉ちゃんでは無く先程から人目を一身に浴びているあの謎の美少女だった。
何この状況?姉が声をかけてきたと思ったら声をかけて来たのは見知らぬ誰かだった。
声がやけに姉ちゃんに似てるな。顔が似ている人はこの世に3人いると聞いた事はあるけど声でもそういう事はあるのか。
周囲から「おいあの美人から声かけてるぞ」「あんな奴を逆ナン!?」「くそぉ!あんな美少女に声をかけられるなんてムカつく!」「どうして俺に声をかけてくれないんだ!」「あいつ一体何なんだ!?」「強くてイケメン!嫌いじゃないわ!」とか色々聞こえてくる。っていうかおい!今何かいただろ!
「え~と、どちら様でしょうか?わたくしは特に何も無いでおじゃるでございますですよ」
急に知らない人から声を掛けられて変な言葉遣いになってしまった…。地球の言葉はウルトラ難しいぜ……。
「えっ……」
謎の美少女の表情が凍り付く。えっ?だから一体何なのこの人!?人間怖い…。
俺が恐怖に慄いていると謎の美少女は目に涙を溜め始めた。
「連くん、知らない人に会った時の顔してる…。私の事分からないの?ひょっとしてわざとなの?嫌いになっちゃったの…?」
今にも泣きそうなってかもう泣き始めてる謎の美少女。周りの視線が滅茶苦茶痛い。え?何?俺がこの人泣かしてる事になってるの?むしろ俺が泣きそう。HELP!HELP!叫び声が響くよ!
というか何でこの人、俺の名前知ってるの?前に一度会った事あるの?正直、長身の黒髪ロングの美少女なんて会った事無いんだけど。
姉ちゃんを探しているが仕方ない。とりあえずこの人をここから連れ出そう。
「と、とりあえず移動しましょう!あそこのカフェ入りましょう!」
とにかくこの場から逃げないと話が進まない。姉ちゃんに申し訳なさを覚えつつ、近くのカフェに入った。
とりあえず空いているボックス席に向い合せに座り、やってきた店員の人に謎の美少女の為にアイスティー、俺の分はコーラを注文した。
注文した品はすぐ来た。気まずい沈黙が続くのも嫌なのでさっさと来てくれた方がありがたい。
謎の美少女はまだ涙目だった。とりあえずでこの店に入ったはいいが、やはり謎の美少女は注目の的だった様で、他の客も俺達を見ている。そして何か勘違いされている感じがする。俺とこの人は本当に何も無いんだって!
「え~と、とりあえず僕は待ち合わせしている相手がいるのでちょっと連絡させてもらいますね」
失礼であるとは分かっているが非常事態だ。謎の美少女に一声かけ、俺は姉ちゃんに電話をかけた。てかマジ姉ちゃんどこにいんのよ!
すると、謎の美少女のスマホにも着信が入ったらしく持っていたショルダーバッグからスマホを取りだす。あ、姉ちゃんが使ってるのと同じ機種だ。
と、思ったら姉ちゃんが電話にでたようだ。
「あ、もしもし姉ちゃん?ごめんちょっとトラブってさ、今どこにいるの?」
「え?連くんの目の前にいるよ?」
………………はい?
謎の美少女も確かに電話に出ている。かなり驚いた表情をしている。まるで『今気付いたの?』と言わんばかりに……。
まさかとは思い、次の言葉を繋げる。
「えっと…、今、俺の目の前にいるのって姉ちゃん?」
「うん、そうだよ」
………………………OK。落ち着こう。
ワンダバワンダバワンダバ!ワンダバワンダバワンダバ!
脳内でワンダバを流す。脳内で何機もの防衛チームの飛行メカが飛び立っていった。よし、落ち着いた。
それで目の前にいる長身で黒髪ロングの美少女は我が姉、桐生水沙という事だ。姉ちゃんは生まれつきの茶髪だが目の前の美少女は黒髪、何故だか知らんが今は黒髪だ。
となれば俺のするべき事は一つか…。
「今気付きました!!ごめんなさい!!」
俺は全力全開で頭を下げた。
「え~とじゃあ連くんは本当に私だって事に気付かなかったって事?」
「その通りでございます…」
「毎日顔を合わせているのに?」
「面目次第もございません…」
「何で私って分からなかったの?」
「姉ちゃん、茶髪だから黒髪は違うだろう…という先入観がございまして…」
「ふぅ~ん、私の事を顔じゃなく髪で判断してたんだ…」
「言い訳の仕様もございませんですたい」
「何でですたい…。じゃあ今の私をどういう風に見てたのかな?」
「え~と非常にお美しい方がいらっしゃる、とそう思ってました…」
「お美しい…。本当にそう思ってた?」
「はい」
「本当に本当?」
「天地神明にかけて本当の本当にございまする…」
「また語尾が変になってるよ。でもお美しいか…。エヘヘ…。連くんに美しいって思われてたんだ私…」
ちょっと顔を緩ませる姉ちゃん、アレ?俺、地雷踏んだ?地球人の扱いもウルトラ難しいぜ…。
「連くんが私の事気付かなかったのは悲しいけど、私の事美しいって思ってくれてたならそれでもう今日は良いよ。折角のデートだもん。楽しもう、ね?」
あ、何か姉ちゃんの機嫌が治ったらしい。涙も引っ込んでいる。なら良かった…。
「デートの練習じゃないの?」
「もうダメだよ、そうやって空気を壊さないの。女の子がデートだって言えばそれはデートなんだよ」
「さいでございますか、姉ちゃん」
「後、今日は姉ちゃんって呼ぶのもやめようか」
「え?何で?」
「何でって、私達今日は恋人同士なんだよ?彼氏が彼女を姉ちゃん呼びは変じゃない?」
「変って…。今日はあくまでも練習だから別にそこまで拘らなくて良いんじゃない?」
「ダメだよ!そういった所のリアリティは大事だよ!」
「えー……」
リアリティって何よ?そういう所は別にフィーリングで良くない?
「ほら、ちゃんと呼んで、水沙って」
姉ちゃんが凄く期待を込めた眼差しでこちらを見てくる。
その視線が逆に恐ろしい…。
「みぃ~ずさぁ~」
「何でそんな呻き声なの?」
決死の覚悟で姉ちゃんの名前を言ったら思わずV3第1話のデストロンのテンションになってしまった。
だって恥ずかしいじゃん。人生この方姉ちゃんの事を姉ちゃんとしか呼んだ事無いから!
そりゃ姉弟によっては弟が姉を名前で呼び捨てみたいな所もいるだろう。でもうちは違うからなぁ。恥ずかしさしかない。
「ほら、もっと恋人っぽく」
更にワクワクした目で俺を見てくる。
気合一発決めるしかないのか…!
「水沙…!」
目をつぶって姉ちゃんの名前を口にする。
恐る恐る目を開けると姉ちゃんは左手で右肘を支えて右人差し指を顎にそえて考える仕草をしている。
「う~ん、何だかちょっとヤケクソっぽい感じがしたけどまぁ最初だから及第点って所かな」
何とか姉ちゃんには納得してもらえたようだ。
「それじゃもう結構時間過ぎちゃったから。これ飲んで早く行こ♡」
そう言ってアイスティーに口をつける姉ちゃん。
今日一日どうなるか俺は不安になっていた。
「あ、後、ここは私が払うよ。流石に年下の彼氏に払わせる様な年上の彼女じゃないからね、私は♡」
この手のデートは男が支払い担当なイメージがあったが姉ちゃんはどうやらそうではないらしい。
そして姉ちゃんは満面の笑みでアイスティーを飲み干した。
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