第40話 アイドル達とカラオケに行こう
タ~タ~タタタタタ~タ~タ~♪
タ~タ~タタタタタ~タタタタタンタンタァ~ン♪
「飛羽返し!!」
今日は土曜日。俺達4人は昼前からカラオケに来ていた。
「ディーヴァ」の3人はライブやイベントが終わった後はその次の週の土日のどちらかを3人共オフにしてもらって打ち上げをして来ていいとプロダクションの方から言われるらしい。それで近くの繁華街のカラオケボックスに大体フリータイムでカラオケに行くという寸法である。
そしてその打ち上げにはいつも何故か俺は強制参加させられている。
「いや、俺、関係者じゃないし、3人だけで行けばいいじゃんか」と言っても大体「連くんも関係者みたいなものだから」とか「連ちゃんがいなきゃやる意味が無いよ」とか「連、アンタが来るのは決定事項!分かった!」とかやんややんや言われるので仕方なく同行しているという訳だ。
今回は19時から明日のライダーショーのリハがあるので移動や準備も考えて18時までという事にしている。今回、俺は怪人役だ。戦闘員から少し出世した様に感じて何気に嬉しい。
まぁ仕方なくと言いつつもカラオケなんて基本的にこの3人以外とは行く事が無いが歌いたい特ソンはあるので何だかんだ言いつつも行く事自体は満更でも無いというのは本音だ。
ただ問題は俺の歌を聞く相手が曲を出せば必ずヒットを飛ばしまくっている現役アイドル達という事だ。プロに特に上手くもないアマが歌う歌を聴かせるとかどんな拷問だよという気もするが。
なので俺はもう気にせず歌いたい特ソンを歌いまくる事にしている。
特ソン以外は「ディーヴァ」の歌しか分からないので特ソンしか歌えない。流石に本人達の前で本人達の歌を歌う気はしない。
しかしサンバルカンの『夢の翼を』は名曲だよな。サンバルカン自体は産まれる前の作品なので配信やDVDで視聴したのだが、キャラクターもメカも格好良く、動物を模した派手なアクションが魅力的で大好きな作品だ。ちなみに一番好きなキャラは嵐山長官。
「これ何の曲?」
「『太陽戦隊サンバルカン』の挿入歌『夢の翼を』だ。『百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊』では剣の戦士特集のBGMで使われて滅茶苦茶格好良いんだよ」
「知らないわよ…」
穂希の疑問に俺は何を言っているんだ?と思い返す。飛羽返しにこの曲は欠かせないと俺は常々思っている。
「つうかアンタ、いっつも特撮の歌ばっかりじゃないの。たまにはアタシ達が分かる歌でも歌いなさいよ」
「俺、特ソンしか分からないからな。無理だ」
「やっぱりね…」
「まぁそれも連くんの良い所だよ♡お姉ちゃんは連くんの歌ってる姿好きだな♡」
「それに連ちゃんも結構歌上手いよね。ちゃんとお腹から声が出てる」
腹から声を出すのは歌の基本だとは俺も聞いた事がある。俺が腹から声を出せるのはおそらくRAMでの練習の賜物だろう。アクションをやる時、掛け声が自然と出てしまう。その時に大体腹から声を出さないと動きにも影響が出てくる。だからアクションの練習をやる事で自然と腹から声を出す技術を身に着けたのだろう。
アヤ、お世辞でもありがとう。
「ま、次はアタシの番よ。連!ちゃんと聴いてなさい!」
そして穂希、姉ちゃん、アヤの順で歌う。
穂希は大体自分達以外のガールズポップ、姉ちゃんは古今東西色々なラブソング、アヤはハードな洋楽が多い。
そして次は俺の番。さて何歌うかな?
と思ったら、姉ちゃんが俺にちょいちょいと手招きしていた。もう片方の手にはデンモクが握られている。
「何?姉ちゃん?」
「お姉ちゃん、またこの歌を連くんで聴きたいんだけど良いかな?」
俺はデンモクに目をやる。そこにはラブソングが好きな姉ちゃんには珍しく特ソンが表示されていた。この歌は最初に歌って以来、何故かカラオケに行く度に姉ちゃんにリクエストされる歌だ。
「別に良いけど」
「やった!」
「でも姉ちゃん、この歌好きだよね。なら本編も観たらいいのに」
「お姉ちゃんはこの歌詞を連くんで聴きたいの~」
何でかこの歌に姉ちゃんはご執心な様だ。俺としては是非とも本編も観てほしいんだけどなと思いつつ予約する。
アヤが歌い終わり、俺の番になり、モニターにタイトルが表示される。
『おれとおまえはバイクロッサー』
『兄弟拳バイクロッサー』という作品の挿入歌だ。これも産まれる前の作品なのでDVDを買って観た。弟の乗るバイクを兄が担ぐブレーザーカノンのインパクトがどうしてもあるが、作品自体もなかなか楽しめるし、やはりこの作品もノリにノッたアクションが炸裂していてこれも大好きな作品の一つだ。なので姉ちゃんにも観てほしいのだが、何故か姉ちゃんはこの歌にだけ興味があるらしい。
この曲は劇中様々なアクションシーンを盛り上げた曲であり、兄弟の絆、そしてそれを武器にして戦うバイクロッサーの勇ましさを強く歌い上げたものだ。
歌っているだけでクロスボンバーや隠烈豪を決めるバイクロッサーが脳裏をよぎる。
そんなバイクロッサーに思いを馳せつつ俺がノリノリで歌っている姿を姉ちゃんはうっとりと眺めている。
「ねぇこれって絶対アレよね」
「間違いないね。水沙はあの歌詞に自分達姉弟を重ねてる」
余りにノリノリで歌っていてそんな会話をアヤと穂希がしている事に俺は気づかなかった。
「連くぅ~ん♡お姉ちゃんと連くんの愛の橋も消しても消えないよ~♡これからも喜びも悲しみも怒りも共にしようねぇ~♡明日を夢見て私達姉弟はひとつなんだよ~♡」
「はいはい、そういうのはやらない!」
「あん!もう穂希の意地悪!じゃあ連くん♡後で家でたっぷりね~♡」
俺に抱き着こうとする姉ちゃんを穂希が制止する。
あ、後って言うと…。
「俺、今日もこれからもずっとリハの後は事務所に泊まるから無理じゃない?」
この言葉に3人が一気に固まる。
どうした一体?
「え?連くん、嘘だよね…?」
姉ちゃんが縋る様な目をしてくる。
「いや事実だけど」
父ちゃんと母ちゃん、叶さんには今後、現場前はRAMの事務所で泊まると言って既に了承は貰っている。
「じゃあこれからずっと連ちゃんは週末は夜から居ないって事…?」
「そうなるね」
絶望的な表情をして訪ねてくるアヤ。
「ちょっと何勝手に決めてるのよ!まさかアクションチームに…す、好きな子でもいるんじゃないでしょうね!」
赤い顔をして穂希が聞いてくる。つうか何怒ってんだ?誰かに「青二才」とでも言われたか?というか好きな子って何だよ?
「いる訳ないじゃん、そんなの」
「じゃあ何でよ!?」
「ひょっとしてお姉ちゃんが嫌いになっちゃったの…?」
嫌いになった訳では無いけど、色々朝が大変だからな…。でもそれを本人に言うのは流石に酷と言うものだろう。
「そんな事は無いよ。ただショーに集中したいだけなんだ。それに俺はまだまだ新人、やらなきゃいけない作業も多いし、リハも夜遅く終わる事もあってその後に雑用をする事は多い。夜遅く終わって朝早く出ていくのも多いし、そんな生活なら姉ちゃんもそうだし、アヤや穂希を付き合わせる訳にはいかない。何せ3人共忙しい訳だし、俺のせいで変に迷惑かけたくないんだよ」
これは間違いなく俺の本心だ。実際、ゴールデンは泊まりじゃなかったら本当に深夜、町をほっつき歩く事態に成り兼ねない状態が続いた。
それに姉ちゃんの相手を朝するのは大変ではあるが、逆に俺が姉ちゃんを振り回すのもそれはどうかと思う。それはアヤや穂希に対しても同様だ。
俺はスーツアクターとして生きるし、姉ちゃん達はアイドルとして生きる、そこに余計なノイズを入れてはいけないと思う。
それを聞いた3人は何とも言えない表情をしていた、ただ絶望とか怒りとかそういうのは消えたみたいだ。
「連くん、そんなに私達の事を考えてくれてたなんて…。ごめんねお姉ちゃん勘違いしてたみたい…」
「そんなの連ちゃん、気にしなくても大丈夫なのに…。でもそこが連ちゃんらしいね」
「そんな事言われたらこっちも折れるしかないでしょうが…」
何か納得してくれたみたいだ、良かった。
そして3人が集まって何やら話をし始めた。一体何だ?
「まぁアタシ達も連の意思を尊重する。でもね、条件があるわ」
話をし終えたと思ったら穂希がビシッと言う。条件?
「連ちゃんは今後わたし達とカラオケに行く時、必ず「ディーヴァ」の歌を歌う事」
へ?
「お姉ちゃん達も寂しいの我慢するんだもん。連くんにも恥ずかしい事でも我慢して貰わないとね♡」
はぁぁぁっ!?
現役アイドルの前でそのアイドルの歌を歌う!?
流石にそれはキツ過ぎるだろう。
「流石にそれはキツいだろ…。っていうか、3人共俺が「ディーヴァ」の歌を歌うってどうなの?」
「お姉ちゃん、むしろ連くんが私達の歌を歌ってくれたら嬉しいな♡」
「連ちゃんが歌うとか完全にわたし得だからね」
「ほら!時間勿体ないからさっさとするわよ」
勝手にデンモクで曲を入れていく穂希。
無慈悲にもモニターは曲のタイトルを表示し、イントロが流れる。
『ファーストキスは君の為に』
「ディーヴァ」のデビュー曲、甘々も良い所のラブソングだ。
よりによってこれかよぉ~!熱い特ソンしか歌っていない俺にとってはハードルが余りにも高すぎる。
しかも何か3人共期待を込めた眼差しで見てくるし!
こうなりゃイケイケドンドン!俺の騎士道見せてやる!
開き直って俺は甘々なラブソングである『ファーストキスは君の為に』を歌い始めた。
くっ…!やはりかなりの拷問だ。しかも3人共滅茶苦茶ニヤニヤしてるし!
その後も「ディーヴァ」の歌をどんどん入れられ、俺は拷問の様な時を過ごした…。
ただその拷問を経験したからか、その後のリハ、凄い楽しかったです。
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