第25話 幼馴染と下校

「そして、今日もつつがなく学校は終わったのである」

「お前、誰に説明してるんだ?」

「いや特に誰に対してでもないが。太田は今からサッカー部か?」

「あぁ。お前そういや結局部活は入らなかったんだな」

「俺は他にやる事があるからな」

「前言ってたヒーローショーか。確かに特撮オタクのお前にはピッタリだよな」

「という訳で今日はミーティングがあるからさっさと帰るわ。お前はサッカー部頑張れよ」

「おう!お前もな!それじゃあな!」

「また明日!」



 そのままサッカー部の活動に向かう太田を見送る。何でもあいつは中学の頃、エースストライカーとして活躍していたらしく、入学してまだ1ヶ月しか経っていない今でもうレギュラー候補と考えられているらしい。なかなかに凄い奴だ。


 さて、昼休みに穂希に今日は一緒に帰れと言われているからなぁと思い穂希の席に視線をやる。相変わらず凄い人だかりだ。どうも穂希と一緒に帰りたいのが何人かいるようだ。

「自分と一緒に帰ろう!」とか「連絡先交換しよう!」とかこっちにも聞こえてくる。

 朝もそうだが、正直あの中に割って入って「一緒に帰ろう」と言うのは気が引ける。

 そんな勇気と言う名の魔法は持っていない。俺が魔法が応えてくれるほどの勇気を示す時はもっと他にあるだろう。


 というかそれは自分が「ディーヴァ」の関係者ですと白状している様なものだ。今後の高校生活を思うと御免被りたい。というか、何なら今後の事を考えたら穂希も俺以外の人間と帰るのも交友関係を広げる意味では一興では無いか。そうも思える。

 

でもそれで俺が勝手に帰ったら穂希怒るだろうな。だって、さっきから穂希もこっちをチラチラ見て様子窺ってるし。



「ちょっとゴメンね。アタシ今日は用事があって早く帰らなきゃならないから」



 俺が視線に気づいたからか、穂希は立ち上がって人だかりを掻き分けて、クルリと体を翻し満面の笑みを浮かべて人だかりに対してそう言った。

 うわぁ、もう凄いキラッキラな営業スマイル…。現役アイドルである穂希の笑顔は余程破壊力抜群だったのが人だかりからは歓声が起こっている。中には倒れてる人もいるぞ、おい。

何か撮影会始まってるし。ここは何かのイベント会場か?



「だから皆また今度ね♡」



 語尾にハートがついてる。これがアイドルの本気か…。というかお前そんなキャラじゃないだろう…。

呆然としていると俺の近くを通りがかった時俺にだけ分かる様に口パクをしていた。



『は・や・く・き・な・さ・い』



 はいはい、分かりましたよっと…。幸い、先程の穂希の笑顔で人だかりは盛り上がっていた様で特に俺に視線が向かってはいなかったのでこれを好機として俺も教室を後にした。



「アンタ、さっき先に帰ろうと思ってたでしょ?」



下駄箱でギロリと言う効果音が聞こえてきそうな勢いで俺に視線を向ける。さっきの笑顔はどうした、おい。ここは下駄箱でまだ他の生徒もいるぞ。



「それはちょっと思ったけど、今日は一緒に帰るって話だったからな」

「ちょっとでも思う事自体がダメ!約束は守る為にあるものよ!」

「確かにそれはそうだけど、穂希にとっても他の生徒と帰ったり交流を深めるのもアリだよなとか思っただけだよ」

「別にそんな事アンタは気にしなくていいのよ。余計な事は考えない!」



 そう言い、靴を履き替え帰路に就く穂希。一応、俺としては一緒に帰り、かつ「ディーヴァ」の関係者である事が悟られない様に少し後ろを着いて歩く。これなら一応、穂希の希望と俺の希望、両方叶えられると思っていた。


 だが、穂希は不満な様でこちらに顔を向ける。



「何でそんな後ろなのよ?」

「え?そりゃはアイドルだし下手に勘違いする奴がいると色々困るだろうなって」

「勘違いって何よ!っていうか須田さんって呼び方は何!?」


 とりあえず下手に関係がバレない様に名前ではなく苗字にさん付けしたのが穂希の逆鱗に触れた様だった。だって中学時代、大変だったからもうアレを繰り返すのは嫌なんだよ。

あ、ヤバい。周りが何事かとこちらを見始めた。


 これはジーっとしててもドーにもならねぇ!俺は走り出した。



「あっ!待ちなさい!」



 穂希も俺を追いかけて走り出す。



 2人してしばらく走っていたら何時の間にか辺りにうちの学校――縁英高校の生徒達の姿が見えない所まできていた。もうこの辺りでいいか。RAMに入って3週間程、練習には欠かさず参加しているし、道場やうちでも自主練習はしているけどやっぱり全力疾走すると息は上がる。後ろからもゼーハーゼーハーと肩で息をしている様な音が聞こえる。

後ろを見ると穂希がいた。ただ俺よりはまだ苦しそうではない感じがする。流石アイドル。



「ちょっと何急に走り出してんのよ…。ビックリするじゃない…」

「凄いな、穂希……。全力疾走したのでまだまだイケる感じじゃないか……」

「アイドルのレッスンってハードなのよ…。これ位何ともないわ…」



息を整える穂希。そしてまた怒り出した。俺にグイッと迫る。迫ってくるのはショッカーだけで充分だぜ。



「さっきの須田さんってどういう意味~?事と次第によっちゃ容赦はしないわよ~!」

「前にも言ったけど「ディーヴァ」との関係がバレると面倒なんだって。下手に下の名前で呼ぶとバレるだろ。だから苗字にさん付けで呼んだんだよ」

「別にそんな外野の事気にしなくたって良いじゃない!アタシはアイドルである前にアンタの幼馴染!だから名前で呼ぶのは当然なのよ!」



 うわぁまた滅茶苦茶な理屈を言ってくれる。自分の立場分かってないだろ。



「それにアンタはアタシの隣を歩きなさい!別にアタシに変な気を使わなくて良いの!」

「穂希が良くても周りが良く無いだろ」

「周りとかどうでもいいわよ!アンタは気にしすぎ!というか朝もアタシが怒らなかったらアンタ、学校が近くなったら後ろに下がる気だったでしょ?」

「まぁそうだな」

「そうだなって…。はぁもういいわ。でもアンタはこれからもずっとアタシの隣を歩く!アタシを下の名前で呼ぶ!良いわね!」

「良いわねって言われてもなぁ…」

「良・い・わ・ね!!」

「……はい」



 余りの圧に俺は折れてしまった。

そうしたら急に穂希が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。



「どうしたんだよ、急に」

「言わなかった?今日一緒に帰るのはライブに行けなくなった贖罪だって。それなのにアンタはアタシと一緒に帰るにに後ろに下がったり苗字にさん付けとかしたりしてきたの。だからもっと贖罪してもらわなきゃいけないの。分かる?」

「だからって歩きにくいだろ、これ」

「べ、別に良いのよ!そんな事気にしなくたって!アンタは本当に一々細かいわね!むしろ喜びなさい!現役アイドルに腕を組んでもらえるなんて早々無いわよ!」

「そりゃなかなか無いとは思うけどな」

「ならもっとその幸運を堪能しなさい!さぁこのままアンタの家まで行くわよ!」

「え~っ?このままで~?」

「勿論よ!つべこべ言わずにさっさと歩く!」



本当にこのまま俺と穂希は腕を組んだ状態で帰るハメになった。

ただ何故かそれからの穂希はそれまでの怒りはどこへやら、妙に機嫌が良かった。


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