第26話 お姉ちゃんにも報告

 その後、穂希は本当に家に寄った。別に家に寄って何かある訳じゃない。穂希は姉ちゃんの部屋から勝手に漫画を何冊か俺の部屋に持ってきて読み始めた。俺はそれを横目に部屋のTVで特撮を何本か観てミーティングの為、RAMの事務所に行くまでの時間を過ごしていた。特にお互い意識する訳でも無ければ2人で何かする訳でも無い。昔から変わらない俺達幼馴染2人の過ごし方。


 そして丁度いい時間になったので俺と穂希は同時に家を出た。穂希は何か釈然としていない感じではあったが。



 RAM毎週月曜のミーティングも1時間位でつつがなく終了した。今回は週末からゴールデンウィークが始まる事もあり、それについての諸注意が議題の中心だった。特に俺は今回が初めてかつゴールデンウィーク中は毎日現場に入る事が決まっており、そんな俺に対して叶さんを始めとする先輩達が話してくれる事が多かった。とりあえず現場優先でゴールデンウィーク中はミーティングと通常練習は無いという事が分かった。


 またキャスティングも決定していた様で俺が入団前に退団したメンバーの一時復帰、在籍はしているが諸事情で通常練習や現場に頻繁に参加できないメンバー、他のチームからの応援等で知らない名前もいくつかあった。今回、俺は毎日同じメンツで戦隊ショーに出演する事になった。話自体は先々週のデビューでやったのと同じもの、かつデビューと同じ戦闘員役なのでその点は少し気が楽だった。ただ今回は岡部さんがレッド役で会った事がない人も参加していて先々週とは殺陣をかなり変える、また毎日会場が違うので微調整をその都度、現場から事務所に帰ってきたらすると言っていた。その点は少し緊張している。


 その後、矢部さんと道場で自主練習をしてから銭湯へ行った。風呂上りにフルーツ牛乳を御馳走になった。ありがとうございます!



矢部さんと別れ、いよいよゴールデンウィークが始まるんだなという思いで帰宅すると家の前に車が止まっていた。黒塗りのちょっと高めの外車だ。一瞬、誰が来たのか?と思ったら丁度車から見覚えのある人物が2人出てきた。



「姉ちゃんとアヤか」



 あぁそうか。姉ちゃん達の所属するプロダクションの人が家に送ってくれていたんだ。

姉ちゃん達もアイドルだ。道中の移動はそちらの方がプロダクションとしても色々安全なのだろう。考えたら特におかしい事はない。


「姉ちゃん、アヤ、お帰り」



 丁度、車が走り出したのを見て俺は2人に声をかけた。



「連く~ん!!」



 いきなり姉ちゃんが真正面から抱き着いてきた。ぐえぇ!

痛いから!苦しいから!アヤ見てないで助けて!と思ったら何かアヤも後ろから抱き着いてきた!何で!?



「とりあえず!2人共!まず一旦家に入ろう!な!」

「えっ!?家でお姉ちゃんとたっぷりイチャイチャしたい!?しょうがないな~♡連くんは~♡」

「連ちゃん、それは今夜は寝かさないぜって言う事?」

「どっちも違う!!」



 何とか言葉をひねり出す俺。2人は何か勘違いしている様だが、俺に抱き着いた状態で家に入った。それにしても器用だな、2人も俺も。


 そしてリビングで何とか2人を引き剝がし、俺は姉ちゃんにライブに行けない事を伝えないといけない。昨日アヤには言ったし、家に居る時穂希からも「ちゃんと水沙にも言っておきなさい」と言われていた。



「姉ちゃん、話がある」



 俺のこの言葉でアヤは内容を察した様だった。



「えっ?連くんが私に話!?もしかしてお姉ちゃんと結婚したいっていう話!?でもダメなの連くん!私達は姉弟だから結婚できないの!でも、お姉ちゃんは連くんのお姉ちゃんだから連くんが望むならずっと一緒に居られる、よ……」



 モジモジしながら訳の分からない話を言い出す姉ちゃん。いや、姉弟で結婚とか考えた事無いから。時々姉ちゃんは訳の分からないテンションになる時がある。



「いやそういう話じゃないから」

「はうっ!」

「話っていうのは5月5日のライブの事なんだけどね…」

「穂希の生誕祭ライブでしょ。勿論連くんは来るんだよね?」

「いや、それがねゴールデンウィークは毎日現場に入る事になったからライブには行けない…」

「え…」



姉ちゃんの動きが止まった。アヤは昨日同様、やはり寂しそうな表情になっていた。



「毎年来てくれてたのに、嘘、だよね…?」

「いや嘘じゃない。アヤにも穂希にももう言ってある」



 アヤの方を見る姉ちゃん。アヤは俺の意見を肯定する様にコクンと小さく頷いた。



「そっか…。そうなんだ…。連くんには連くんの予定があるよね……。もう高校生だし……。仕方ない。うん、仕方ない……」



 自分を納得させるように言う姉ちゃんに対して俺はやはり申し訳ない気持ちが出てしまう。



「本当にごめん」

「ううん、別に謝らなくても良いよ。お姉ちゃん大丈夫だから。でも穂希はどうだった?怒ってなかった?」

「最初は滅茶苦茶怒ってたけど、後でいつもの事だからって言ってた」

「そう…。穂希は偉いね」



 それだけ言うと何となく気まずくてまた下を向いてしまう。

そうしたら姉ちゃんが明るく言った。



「そう。私、明日オフなの。連くんがライブに来れないなら明日は全力でイチャイチャするね♡」



 そうしてまた俺を抱きしめる。だから力強いって!

姉ちゃんだから何でそんな力強いのさ!?実は超古代の闇の一族の剛力闘士なの!?我が好敵手!?マイフレンド!?



「なら、わたしももうちょっと連ちゃん成分をチャージしようっと」



 そう言ってアヤまでまた抱き着く。てかちょこちょこ出てくる俺成分って何!?そんなのあるならフルボトルにでも入れて持ち歩いててくれ!じゃないと実験が始まらない!



「明日はお姉ちゃんの愛をいっぱいあげるから期待しててね♡連くん♡」



 うわぁ、明日俺どうなるんだろう…。一抹の不安を抱えながら俺は姉ちゃんとアヤにされるがままになっていた。

 っていうかアヤは早い所家帰れよ!


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