第24話 非常階段で幼馴染と2人きりの昼休み

 昼休み、俺は非常階段にいた。


 うちの高校の非常階段は基本的に施錠されていなくて誰でも自由には入れる様になっている。だが、普段からここはほとんど人が来ない。それもそのはず。非常階段なのでここは外で吹きっさらしになっている場所だ。今の時期は良いとしてもここに真夏や真冬に長時間いるのは厳しいだろう。


 だから俺は穂希と落ち合う場所にここを選んだ。ここは人が来ない場所に加え、手すりがコンクリート製の壁状になっていて座れば校内からも校外からも死角になる。

加えて今は昼休み。大体の生徒は教室か学食か屋上で昼食をとる。非常階段は更に人がいなくなる。「ディーヴァ」との関係を学校内ではなるべく隠したい俺としては好都合だ。


 俺は5階の非常階段の入り口近くに座った。校舎は5階建てで俺達1年の教室は一番上の5階にあるからだ。それだけで特に深い理由は無い。


 ところで普段、人気の無い場所を何故俺が知っているかって?入学式の次の日、たまたま校内を探索していて気づいたんだ。これもちょっとした冒険だな。


しばらくすると非常階段のドアが開いた。そこには穂希が疲れた顔をして立っている。



「はぁ~、つっかれたぁ~」



 本当に疲れ切った声を出しながらドアを閉め、俺の隣に座る。



「久々に朝から登校は良いんだけどさ、休み時間毎に沢山人が来て話しかけられるのはやっぱ疲れるわね。いつまで経っても慣れないわ、あれ」



 そう、朝もそうだったが休み時間毎に穂希の席には多くの人が集まって来て身動き一つ取れなかったのだ。穂希も一応、アイドルとしての建前があるので一人一人にちゃんと対応していたらしい。やっぱアイドルすげぇ。



「しっかし、アンタも良い場所知ってるわね。アタシもこれから休み時間毎にここに逃げ込もうかしら」

「今の時期は良いけど、真夏とか真冬は死ぬぞ、ここ」

「それもそうね。でもまぁ知らない相手に追い掛け回されるよりはマシでしょ。今もここに来るまで集まってきた人達を撒くの大変だったんだから。中には連絡先を無理やり押し付けようとするのもいるから」

「アイドルは大変だな」

「そうよ。アイドルは大変なのよ」



 そう言いながら穂希は持っていた弁当を開ける。俺もそれに倣い弁当を開ける。2段式になっている弁当箱の1段目の中はウインナーに卵焼き、ブロッコリー、プチトマトが2段目にはふりかけのかかったご飯が入っている。一方、穂希は小さな弁当箱に小さなBLTサンドが2つ入ってるだけだ。何気に穂希は小食で昔から食べる量が少ない。本人曰く今日の量でも多い方らしい。



「で、話って何?どうせライブの事謝りたいんでしょ?」

「まぁそうなんだけど、よく分かったな」

「分かるわよ。何年アンタの幼馴染やってると思ってんのよ。朝、アンタに言われた時はカッとなったけど、頭を冷やして考え直したら、アンタがアタシより特撮を優先するなんていつもの事だったわ。だからもう今更アタシがとやかく言った所で変える気なんて無いでしょ」

「まぁそれもそうなんだけどさ…」



 それを言われると俺も次の言葉が出ない。ライブを蹴る形になったのは申し訳ないと思う反面、スーツアクターとしてゴールデンウィークはショーの現場になるべく入りたいし、元々人手不足な業界もあってかとにかく入って欲しいとも叶さん達からも言われていたのだ。そこは想う想われ、ある意味両想いだ。


 それに「ディーヴァ」はデビュー当時はそれほどでもなかったが、今や超人気アイドルと呼べる存在だ。公式ファンクラブもかなりの会員数がいると聞く(ちなみに俺は入っていない)。俺一人居なくてもどうにでもなるだろう。穂希達は多くのファンに支えられている。勿論、今日の様に大変な事もあるだろうが、穂希達なら大丈夫だろう。俺にはそんな確信めいたものがあった。



「ただまぁ、代わりはやってもらわないとね」



 BLTサンドを食べながら穂希はそんな事を言う。代わり?代わりって何?



「今日はアタシと一緒に下校。それで今日はそのままアンタの家に寄るわ。まずはそれね」

「え~。今日、俺7時からミーティングあるから行かなきゃならないんだけど」

「じゃあそれまででも良いわよ。とにかくこれは贖罪なんだからアンタはアタシの言う通りにしなさい!」

「分かったよ。でも穂希、昨日も今朝も家来てたろ?わざわざ放課後も来なくても良いんじゃないのか?」

「何よ。アタシが行くのに文句でもあるの?別にアタシがアンタの家に行くなんて昔からしょっちゅうじゃない。今更文句も何も無いはずでしょうが」

「まぁそれは言われると確かにだな…」

「後、5月5日、アタシに必ず顔を見せに来なさい。もうそれで今回の件はチャラにしてあげるわ」

「んまぁ、善処する」

「善処じゃダメ!必ずよ!」



 穂希に強く言われる。何で穂希がそこまで俺が誕生日に顔を見せる事に拘るのかは分からないが、まぁそれ位はしておかないとマズいのかもしれない。



「分かった」

「分かればよろしい。んと、ごちそうさまっと」



 弁当箱を片付ける穂希。だが、穂希は教室に戻る気配が無い。



「どうしたんだ?穂希。もう話す事は無いし、食べ終わったんなら教室戻っても良いんじゃないのか?」

「アンタ、さっきの話聞いてなかったの?戻ったらまた面倒な事になるわ。だから昼休みが終わるまでここにいるから」



なるほど、言われてみればそうだ。俺も食べ終わり、弁当箱を片付け、教室に戻ろうとする。だが、俺の制服の袖を穂希を掴んできた。動けない…。



「どうしたんだ?穂希」

「アンタこそ何よ。幼馴染置いてどこに行く気よ?」

「いや俺は教室戻るよ。穂希は昼休み終わるまでゆっくりしてな」

「何でアタシが一人でなのよ!アンタもここにいなさいよ!」

「何で俺が?」

「何でって…。そう!贖罪よ!これも贖罪!アンタがライブに来ない事の!」



 そう言いながら無理やり俺をまた座らせる穂希。

そうして幼馴染2人だけの昼休みを過ごす事になるのだった。まぁこの時間も何か特撮でも観るか。何観ようかな?


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