第23話 幼馴染アイドルのいる教室
「はぁ~どうするどうするどうする君ならどうする、だなぁ…。」
教室の自分の机に着いた途端、俺は頭を抱えた。
アヤにも言われた通り、5月5日のライブには現場があって行けないと穂希に告げたら案の定、穂希を怒らせてしまった。
穂希が怒りっぽいのは今に始まった話ではないので普段は余り気にしない様にはしてるのだが、それでも今回は流石にバツが悪い。
改めてちゃんと謝らないといけないな…。
「よっ、朝から暗い顔してるな」
「あぁ太田か。おはよう」
「どうした?俺でよければ相談に乗るぞ?」
「いや大丈夫。心配かけて悪いな」
「そうか。なら良いけど」
俺に話しかけてきたのは前の席に座る
中学からサッカーをやっていて高校でもサッカーをやっている爽やかスポーツマンなイケメンだ。特撮オタクを自認する俺とは水と油の様な感じもする奴だが話してみるとなかなか良い奴でウマが合ったのか高校では一番に仲良くしている相手だ。
「しかし凄いよな」
「何がだよ?」
「何がだって、須田穂希さんだよ。今日は朝から来てるから皆大盛り上がりだぜ」
太田が指さす方に視線を向けるとそこには黒山の人だかりがあった。
あそこは穂希の席のはず。あぁそういう事か…。
現役アイドルの穂希が今日は朝からいる。だから穂希とお近づきになりたい連中がうちのクラスに集まって穂希に話しかけているんだ。
イベントやライブには実際行ってはいるしTVやネットでも観ない日は無いと言って良い位毎日画面越しに観ていたりするから分かってはいたけど学校という身近な場で穂希が芸能人として周りから扱われているのはやっぱり不思議な感じがする。
幼馴染だけどやっぱり遠い存在になったんだなぁとも思ってしまう。
「ほま…須田さんは芸能人だからな。そりゃ周りも芸能人に直に会えるとなりゃ受かれるか」
「お前はアイドルに興味が無いのか?」
「特撮には出てないからな。出たらそりゃちょっと態度を変えるかもしれないけど」
太田にはそんな事を言っているがもしそんな事があったとしても実際はそんな行動に移す事は無い。
「そうか。やっぱり特撮中心なんだな、お前は」
「そりゃあな。お前は良いのか?行かなくて?」
「興味が無いと言えば嘘にはなるかな。まぁでもあの人だかりの中を割って入りたいとも思わん」
「そうか」
高校に進学して一応周りには俺が「ディーヴァ」の3人の身内である事は隠している。だからなるべく穂希達とは自分から積極的に関わりには行く事は無い。
何故そうなったかというと中学時代、大変だったからだ。俺が「ディーヴァ」の身内、特に桐生水沙の弟だという事はデビュー前から知られていた。姉ちゃんはデビュー前からその容姿とスタイルで学校のアイドルというレベルで大人気でよく告白とかされていた。本人曰く全て断った様だけど。
そして実際にアイドルとして芸能界にデビューした後も人気は衰える事は無かった。むしろ改めてアタックする奴もいた。やっぱり姉ちゃんは全て断っていた様だけど。
そして姉ちゃんだけでなくアヤや穂希も何気に人気があった様でやっぱり結構告白とか受けていた様だ。この告白の話は全て3人から聞かされていたから知っている。しかし何で皆そんな事俺に話すかな?別に話さなくたって良いだろう。
まぁそれはともかくデビュー前も後も大人気な3人はやたら学校でも俺に纏わりついてきた。それで俺は多くの生徒からやたら怨念と嫉妬の籠った目を向けられてきた。中には無茶苦茶な屁理屈で文句を言ってくる奴もいた。
正直、俺も自分に関係のない事でやっかみを受けるのはキツい。
とりあえず姉ちゃん達には学校内では俺に近づくなと一度言った事があるが3人共死刑宣告を受けた様な絶望的な表情になり、姉ちゃんは大号泣、アヤは卒倒、穂希は激怒と酷い有様だった。そして結局3人はそれぞれが卒業するまで俺に纏わりついてきた。
あの3年間で身内にアイドルがいる大変さを身に染みて味わっていた。
高校でもそれが続くのは勘弁してほしい。幸い、まだ姉ちゃんとアヤは通学のタイミングが合わないからか中学の時の様な事にはなっていないが今後何時そうなるとも分からない。それは穂希にも言える事だ。
あの人だかりの連中から怨念や嫉妬の目を向けられたら俺のまだ長い高校生活、平穏に行くはずがない。それだけは避けたかった。
だが、今俺は穂希を怒らせてしまっている。これとそれとは話は別だ。流石に今の状態のまま放っておくというのはいくら何でも良くない事が俺でも分かる。
そこはキチンとしておかないと正直、気が済まなかった。
「とはいえ流石にあの中に入っていくのもな…」
俺はスマホを取り出し、穂希にメッセージを送った。
「昼休み、話があるから非常階段にて待つ」と。
あの人だかりの中を割って入って謝るのもどうかと思うし、穂希も気分が良くないだろう。
だから改めて2人だけになれるタイミングを作ってそこで改めて謝るしかない、そう思った。
現場に入る事は決めているし、向こうも人手が足りないと言っているし俺も現場に入れるならずっと入っていたい。だからライブに行けないのはもうどうしようもない。穂希は納得しないかもしれないが俺にはもう謝るしか無い。
「連……」
メッセージを見たのか穂希の視線を感じた。
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