第22話 幼馴染と登校
「じゃあ行ってきます」
「理沙さん、朝から失礼しました」
「良いのよ穂希ちゃんなら。ウチの息子よろしくね」
「分かりました。アタシに任せてください」
連の家を出るアタシと連。
アタシの心は高ぶっていた。
何せ久々に連と朝から一緒に登校できるんだ。アイドルとして多忙な日々を過ごすアタシは学校に朝から行く事が少ない。仕事やレッスンの合間を見てプロデューサー兼マネージャーの洋子さんの車で送って行ってもらい出れる授業にだけ出て終わったら早退、迎えに来た洋子さんの車でまた仕事先に向かう事が多かった。
それは高校に入った今でも変わらない、いやむしろそんな日が多くなっていった。何せ学校に朝から行くのは入学式を入れて今日が2日目なんだ。
ゴールデンウィークが目の前というタイミングまでずっと学校にちゃんと行けていないのは正直、不安と言えば不安だ。でもまた連と同じクラスで学校でも連の間近に居られるのは嬉しかった。
連と一緒に過ごせる。それはアタシにとってとても貴重でとてもかけがいの無いものだ。
ふと連の横顔を見る。
連はかなりの美形だ。理沙さんも水沙も美形だからやはり血なのだろう。本人は気づいていないとは思うが。
また連は人見知りをする方でかつ人に対して強い興味を示す事が無い。親しくない相手には無意識に目を細めて眉間に皺を寄せて話す癖が連にはある。だから連は美形と言うより強面に思われる事が多い。強面に思われるのはともかく人に対して興味が無いのはアタシには残念でもあるが安心している所でもある。連が積極的に人と関わると連の魅力に気付いた女の子が連に言い寄ってくるかもしれない。
連と余り一緒にいられない今、連がアタシの知らない女の子と出会い、その子に連の気持ちが行ってしまうのが一番怖い。
我儘、自分勝手と言われるかもしれないがやはり好きな人には自分だけ見ていて欲しい。輝くアイドル、須田穂希は桐生連、あんたの為だけにあるのよと言いたい。でもアタシは素直になれない所があるし、自分でも怒りっぽいのは自覚しているし治そうとはしている。でも連の前だとどうしてもそんな治したいはずの嫌な自分が出てしまう。こういう時、好意を素直に出す水沙や何だかんだ気持ちを伝えようとする綺夏が羨ましく思う。
家から学校まで徒歩10分。
10分なんてあっという間だ。
もっと長く連とこの時間を過ごしたい。
特に何もしなくても隣にいて一緒に歩くだけでもアタシは幸せだ。
でもそんな気持ちとは裏腹な気持ちもあり、それをアタシは連にぶつけた。
「ねぇ、連。何でアクションチームに入団した事、アタシに言わなかったの?」
先々週の日曜、水沙から知らされた時はショックだった。強い怒りがこみ上げた。
何で連から言ってくれなかったの?って。アタシ達ってそんな仲だったの?昔から隠し事は無しじゃなかったの?アタシ達がスカウトされてアイドルになった時も真っ先に報告したのは両親じゃなく連だった。アタシが小学6年生の時に彼氏を作ったのは…、連の気を引く事が目的だったから勿論、連には真っ先に言った。今思い出しても色々辛くなる。あれは完全なアタシの黒歴史だ。
それはともかくとしてもだから連にとっても重要なはずのアクションチームの入団はアタシ達に真っ先に言って欲しかった。相談して欲しかった。
「あぁ、ごめん。言おうとは思ってたんだけど言う機会が無かった」
凄くあっさりとした回答だった。
「何よそれ!重要な話なんだし連絡なんていくらでもしたら良いでしょうが!」
「そっかぁ?穂希にとってはそんな重要な話でも無いだろ。だからまぁ別に今度でいっかなぁと思ってたらさ」
「重要よ!重要!アンタにとって重要は事はアタシにも重要なの!」
アタシが連にグイッと迫る。
どんな連にとってどんな些細な事でも連の事はアタシには全て重要な事だ。
「何か心配かけたみたいだな。ごめん」
アタシの目を真っすぐ見て謝る連。
ちょっと何よ、こんな時にそんな真っすぐ見つめられたらこっちももう言いたい事も言えなくなるでしょうが…。
「も、もういいわよ…。すんだ話だし…。でもこれから何かあったら全部アタシに言う事!良いわね!」
真っすぐ見る連を見つめ返すにも恥ずかしくなり思わずそっぽを向いてしまう。
そんなアタシに対して連が何か考えている様だった。まさか、まだ何かあるの…?
ちょっと待って!彼女ができたとかそういうのじゃ無いわよね!?アタシの中で焦りと不安が広がる。祈る様な気持ちで連の言葉を待った。
「ごめん。5月5日のライブ、現場が入って行けない」
彼女がいるとかそういう話じゃなくて良かった…じゃない!
いやいや!連何言ってるの?ライブに来れない?連が?現場がある?ちょっと連が何言ってるか分からなかった。
「わざわざ関係者席を空けてくれていたのに本当にごめん」
「何それ…。5月5日はアタシの生誕祭ライブよ!連が来れないってどういう事よ!」
勿論、連には連の予定があるというのは理解してる。
でもいつもライブやイベントで流石に遠い所は無理にしても、なるべく連は予定を開けて観に来てくれていたし、アタシもそれが当たり前だと思っていた。それに大勢ファンの人達がいてもアタシは目線をついつい連の方に向けてしまう。
特に今回はアタシの生誕祭ライブだ。アタシが主役と言っていい構成になっている。アタシが主役のライブでアタシがアイドルでいる最大の理由である連が来れないというのはたまらなく悲しいし辛い。
アタシ、何の為にアイドルになったのよ…。
「本当にごめん。俺にはそれしか言えない」
一心に詫び続ける連。
アタシの中で黒い感情が急に溢れ出してきた。
連を自分から奪う特撮が、キャラクターショーが無性に憎たらしく思えてきた。
「もう良いわよ!アンタは好き勝手にやってなさいよ!連のバカ!!」
「おい穂希っ!」
黒い感情がアタシの中でもう止まらない。
気が付けばアタシは一人駆け出していた。
折角の2人きりの時間だったのに…!折角、連と一緒にいられるのに…!
でも連が来ないライブなんてアタシどうしたら良いのよ…!
頭がぐちゃぐちゃなままアタシはそのまま学校に向かって走っていた。
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