第21話 幼馴染と朝食

「ったく!実の姉弟で朝からサカってんじゃないわよ!!」

「サカってないし…。姉ちゃんが勝手に入ってきてただけだから…」


あの後、激怒した穂希に姉ちゃんは引き離された。


 そもそも相手はどれだけスタイル抜群な美少女だとは言え実の姉だ。実の兄弟相手を恋愛対象として見たりあまつさえ発情するなんて早々あるか。しかも姉ちゃんはスキンシップが異様に激しい。やめてほしい俺とやめる気の無い姉ちゃん、悲しいかなそれが俺達姉弟の日常だ。


 それと着替えようとした時に姉ちゃんと穂希が「お構いなく」と言いながら俺をガン見してくるのは流石にアレだったので追い出したけど。


 そして今はリビングの食卓で朝食をとっている。その横で穂希はプンスカ怒っている。まぁ穂希がやたら怒るのはいつもの事だからな。俺もあんまり気にしていない。

 昔、一度怒っている穂希をファイヤーモードと称してバットを持たせて千本ノックをやらせようとした事がある。その時は余計に怒らせた。



「穂希ちゃん。朝ごはんは?」

「大丈夫です。こちらに来る前に家で既に食べてきたので」

「あらそう。それにしても水沙もねぇ…。本当、連のベッドに潜り込むのが好きねぇ…」

「俺が言ってもダメだから母ちゃんが止めてくれよ」

「聞いてやめる様な子だったらとっくの前からやってないわよ」



 そうやってため息をつきながら朝食をとるのは俺の母親・桐生理沙きりゅうりさ。もう40を過ぎて久しいが見た目がかなり若く20代後半でも普通に通る。2人も子供を産んだにも関わらずスタイルも若い頃とあまり変わっていない。姉ちゃんと2人で歩いていると親子ではなく姉妹と思われる事も多い。

 ちなみに母ちゃんには姉がいてその人の名前は芹野理夏せりのりか。アヤの母親であり俺の伯母にあたる。その人もかなりの美形だ。2人の母親、つまり俺の母方の婆ちゃんも昔は美人で役者を少しだけしていたらしい。どうやらうちの母方の女性は皆美形な遺伝子を持っているらしい。



 今、リビングにいるのは俺、母ちゃん、穂希の3人。父ちゃんは会社に間に合うギリギリの時間まで寝ている。父ちゃんと母ちゃんは父方の爺ちゃんが経営している会社で役員として働いている。始業が9時で家からだと会社まで車で30分位かかるみたいなので起きるのは8時過ぎだ。今の時間は7時40分。


 姉ちゃんは今日は仕事とライブのリハがあるらしく8時頃にプロダクションの人が迎えに来る様で今は自室で着替えと化粧をしている。


 そういえば穂希は今、制服姿だ。姉ちゃんとアヤは仕事らしいけど穂希は今日は仕事が無いのか?



「そういえば穂希、今日何で制服着てんの?」

「何でって…。アタシも一応女子高生よ。制服位着るわよ」

「そりゃそうだけどさ、今日学校来るの?仕事は?」

「今日はオフ。洋子さんから4月中に入学式以外で一回は学校に最初から最後までいろってさ。明日は水沙がオフね。綺夏は本当は明後日がオフになる予定だったけど、日程が変更になってオフが昨日と入れ替わったのよ。ところで本当に昨日、綺夏とは何も無かったのよね?」



 怖い顔をして俺に詰め寄ってくる穂希。


 昨日は靴を買い替えに行ってカフェで浅田さんと鉢合わせた位で何も無いって。アヤを途中泣かせたのは流石にマズかったけど。



「だから、何も無いって。というか何でお前そんなにそれを気にしてるんだよ」

「何でってそりゃあ…」



 急にモジモジしだす穂希。忙しい奴だな。



「まぁとにかく!今日は一緒に登校するわよ!!」



 ビシッ!という音が聞こえそうな勢いで俺に指さす穂希。何か妙に顔が赤いけど熱でもあるのか?あるのならむしろ今日は休んだ方が良いんじゃないか?



「俺が?お前と?」

「そう。アンタがアタシと」

「マスコミとか大丈夫なのか?」

「そこら辺は大丈夫よ。っていうか何かあったらアタシを守ってよ、ほら!」

「え~。何で。スキャンダルとか嫌だぞ」

「何でってのも腹立つわね!却って堂々としてりゃ良いのよ!下手にコソコソするからマスコミに色々言われるのよ!」



 アヤもそうだが、「ディーヴァ」の3人は堂々とし過ぎている。その清々しいまでの堂々っぷりに俺は心の中で素直に感嘆した。確かに未だに3人のスキャンダルとかゴシップを聞かない。実際、昨日アヤと一緒にいても誰も気づかなったし案外そんなものなのかもしれない。



「まぁ穂希と一緒に登校するっていうのも久々だからなぁ。分かった分かった」

「分かれば良いのよ。喜びなさい。こんなに可愛いアイドルの幼馴染と一緒に登校できるんだから」



 急に上機嫌になる穂希。つうか自分で可愛いとか言うなよ。まぁ確かに穂希は見た目は良いけど。姉ちゃんやアヤがどちらかというと綺麗とか美人と言われるタイプなら確かに穂希は可愛いという言葉が似合うタイプだ。

 それに加えて穂希は小柄な体格なのが余計にその可愛い印象を強めている。ただ姉ちゃんやアヤ程では無いが出てる所が出ていて引っ込んでいる所は引っ込んでいる。


 また穂希がアイドルとしてデビューする前は毎日一緒に保育園、小学校、中学校と登校していたし、デビューした後も穂希が朝から学校に行ける時は一緒に登校していた。スキャンダルを心配するのも今更と言えば今更か。


 しかも穂希が朝から登校するのは入学式の日以来だ。道中色々と不安だろう。仕方ない、幼馴染のよしみだ。


 無論、俺の中で不安や心配は無いでは無い。中学の時の様な面倒毎に巻き込まれるのは御免だ。まぁそれは穂希に悟られない様にやるしかないか…。



「ウワーイ。ホマレトイッショニトウコウウレシイナァー」

「何明らかに棒読みなのよ!ちょっとは感情込めなさいよ!!」

「ワカッタワカッタ」

「だから感情込めろっつってんのよ!!」



 「夫婦喧嘩するのは良いけど、とりあえず早く食え」と母ちゃんに言われるまで俺と穂希にやり取りは続いた。いや幼馴染であって夫婦じゃないし。


 あ、そういえば5月5日の件、姉ちゃんにもだけどいつ言おうか…。

 

 穂希は絶対怒るよなぁ…。でも俺もゴールデンは現場毎日入りたいし…。


 それが心の中の引っ掛かりとして残る中、俺は朝食を平らげた。

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