第20話 お姉ちゃんと朝チュン

「うわぁぁぁぁっ!!」



俺は何かに押し潰されて漫画の様にペラペラになる、



「っ!!」



 そのまま目が覚める。

 しかし昨日は大変だった。荒ぶる穂希と静かな圧を見せる姉ちゃんを宥めるのに苦労した。とりあえずたまたま会ったチームの先輩の勘違いという事で2人には納得してもらったが、アヤは何故か不満そうだった。

 そして宥めていたら何時の間にか日付が変わりそうだったのでアヤと穂希にはご帰宅願って、俺は床に就いたのだった。



 で今何時だ?と思った俺はある違和感に気付いた。


 何だか体が動かせない。というか狭い。右腕に柔らかい感触がする。起き上がろうとしても何かが俺を掴んで離そうとしない。

 原因はすぐ分かった。



「すぅ…すぅ…」

「また姉ちゃんか…」



 俺のベッドの半分を安らかな寝息を立てて眠る姉ちゃんが占領していた。


 要は姉ちゃんが俺のベッドに潜り込んで添い寝していたのだ。そして俺の右腕は姉ちゃんの両腕でガッシリとホールドされていた。豊満過ぎる胸が俺の右腕に押し潰されている。


 さっきの夢はよく見る夢なのだが、原因は絶対姉ちゃんだな…。恐らく俺が寝た後に忍び込んだのだろう。


 前は姉ちゃんと無理やり一緒に寝る事になったが、最初から一緒に寝るのは珍しく、いつもは今みたいに俺が寝付いた後に何時の間にか姉ちゃんが俺のベッドで入り込んで添い寝する形になる事が多い。アイドルになる前から続いている姉ちゃんの悪癖と言っていい。本当一度ビシッと言った方が良いかもしれないな…。



「姉ちゃん、姉ちゃん」

「うん…」



 俺は左腕で姉ちゃんの肩を摩った。


 目が覚めた様で声を上げる姉ちゃん。だがまだ眠いのか目がトロンとしていて声も普段より甘ったるい。


 こうして見ると世間で言われている妖艶で優雅なアイドルとしての桐生水沙の姿はどこにも無い。

 確かに普段、姉ちゃんは実年齢より大人びた雰囲気だがこういう時は年相応な印象だ。



「もう朝なのぉ~?」

「もう朝だよ、姉ちゃんおはよう」

「連くぅん、おはよぉ~」

「はいはい」



 そう言いながら抱き着こうとする姉ちゃんを俺は制止する。



「ぶぅ~。連くんの意地悪~」

「それより姉ちゃん、また俺のベッドに入ったのか」

「えぇ~良いじゃん~。連くんもこんな綺麗なお姉ちゃんと一緒に寝れて嬉しいでしょ~?」

「嬉しくない。つーかベッド狭いんだから入ってこないでくれ」

「酷い!弟が反抗期…。よよよ…」

「自分の部屋とベッドがあるんだからそっち使えよ」

「ヤダ~。私は連くんと一緒に寝たいの~。学校に行けない位毎日仕事が忙しくて連くんと一緒にいられない今の私には連くんと一緒に寝るのが何よりも楽しみなんだよ?」

「俺がデビューの日は来なかったじゃん」

「それは連くんの折角のデビューを邪魔したくなくて…」

「あの日できたんならいつもできるでしょ」

「あの日、お姉ちゃんすっごく寂しかったの我慢したんだよ?もうあんな寂しい夜は過ごしたくないよ…」



 悲しそうな顔をする姉ちゃん。だからと言って俺の安眠を妨害されるのも困る。


 つうか、俺現場出る時朝早いのに毎回これやるの?嫌だなぁ。


 そうだRAMの事務所は家が遠いメンバー用に宿泊できる様になっている。俺もこれから現場の前はそこを使わせてもらおう。うん、そうしよう。



「だから連くんと居る時は寝る時も起きてる時もずっと一緒なの~♡」



 そう言いながら俺に抱き着く姉ちゃん。ぐえぇ!


 今の姉ちゃんの恰好は白いキャミソールにホットパンツついでに言えばノーブラだ。

何故ノーブラであるか分かるかって?思い切り胸が透けて見えているからだ。

 身長も高ければ胸も尻もかなり大きくでも引っ込んでいる所は引っ込んでいる体型でその圧を今モロに受けている。


 他の男なら大喜びする状況かもしれないが、如何せん姉ちゃんはどこまで行っても俺の姉でしかない。しかも、この抱擁を毎日の様に受けている。かつ姉ちゃんは抱く力がやたら強い。だから柔らかいが痛い、苦しいという状況になるのだ。とにかく全く嬉しくない。というか鬱陶しい。



「朝から連くん成分補給~♡幸せ~♡」

「ね、姉ちゃん、離してっ!痛い…!苦しい…!」

「ヤ~ダ♡もっとギュ~ってするの♡」



 意識が朦朧としてきた…。ヒーローを演じる前に俺は死ぬのか…。それは悔いが残る…。ゴールデン現場入ってるのに…。というか死因:姉の抱擁による圧迫死は人として嫌だ。


 一度死んで蘇るヒーローはいたが現実はそうもいかんのだ。


 あぁ、誰か助けて…。こういう危機的状況な時、ヒーローが助けに来るものなんだ…。

 時を越えろ!空を駆けろ!この星の為!ダイナミックスマッシュ!



 と思っていたら部屋のドアがバーンと勢いよく開けられた。

 ヒーローが助けに来た!

 熱く燃やせ!涙流せ!明日と言う日に!スパークリングアタック!



 ドアを開けたヒーローもとい幼馴染の穂希が目を見開いてこっちを見ている。

 あれ?何で穂希が家にいんの?というか制服姿だ珍しい。うん?よく見ると肩をプルプル震わせている。まぁとりあえず助けてくれ。ブラァァックッ!!



「何してんのよーっ!!あんた達―っ!!」



 穂希の怒号が家じゅうに響いた。


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