第16話 手を繋ぎたい女の子手を繋ぎたくない男の子 Side綺夏
わたし達は近所のショッピングモールにいた。
わたしとしては連ちゃんの隣にいても恥ずかしくない様かなり気合を入れて服を選んだつもりだけど連ちゃんはそれにはスルーしてわたしが顔を隠していない事を指摘してきた。
指摘する所間違ってるよ、もう…。
でも、それも連ちゃんらしいと言えば連ちゃんらしいか。わたしはデビュー後、売れた今でも顔を隠さずに外出する事が多いがバレた事は一度も無い。髪型と服装を変えると雰囲気が結構変わるから案外皆気付かないものみたい。
ま正直、わたしも連ちゃんが服装を褒めてくれるスキルがあるとかは期待していない。でも構わない。今は隣に居られる事が嬉しい。
「連ちゃん?」
モールに入ると連ちゃんは何か考えている様な顔をして立ち止まっていた。
どうしたんだろう?もしかしてわたしと居るのが嫌だったのかな?そんな不安が頭を過る。
思わずわたしは連ちゃんの顔を覗き込んだ。
「どうかしたの?」
「ん?いや何でもない」
「そう…。なら良いや。連ちゃんはこのまま靴を見に行くんだよね。ほら行こ」
「うん。所でアヤ?」
「どうしたの?」
「手、そろそろ離さない?」
連ちゃんはそんな提案をしてきた。
わたしはショックだった。そんなにわたしと手を繋ぐのが嫌なの?わたしはずっと繋いでいたいのに…。
今は連ちゃんにこの思いを打ち明けていなくてもせめて今は恋人みたいに手を繋ぐ位はしたかった。
「いやそういう訳じゃなく、一応アヤはアイドルなんだし流石に男と手を繋ぐのはどうかと思う」
そんな理由だったんだ。別にそんな事で悩まなくても良いのに…。
確かに今のわたしはアイドル。ファンの人も大勢いる。でもわたしが立ちたいのはステージじゃなくて連ちゃんの隣。
わたしを見てほしいのはたった一人。昔も今もそしてこれからだってずっとわたしは連ちゃんだけのものになりたいんだよ?
でもやっぱり連ちゃんは優しい。普段は全然興味の無い素振りをしてもなんだかんだ言ってわたしの事を心配してくれている。
「なんだ。そんな事か。そんなの連ちゃんが気にする必要は無いよ。今のわたしはアイドルの芹野綺夏じゃなくて、連ちゃんの従姉で幼馴染の芹野綺夏」
「俺の従姉で幼馴染でも今のアヤはアイドル。やっぱり手を繋いだままはマズい」
「やっぱり連ちゃんは連ちゃんだね。そういう所何も変わらない。でもそこも好き」
冗談交じりだけどつい勢いで「好き」って言っちゃった。
連ちゃん、わたしの気持ちに気付いてくれたかな…?
「はいはい、ありがとありがと」
「むぅ、本気にしてない。もう良いよ。分かりましたよーだ」
やっぱり気付いてない。こういう所は鈍いんだから、もう…。
わたしが好意をアピールしても真面目に取り合ってくれないのはいつもの事ではあるんだけどちょっとカチンとくる。なら連ちゃんの言う通りにしてあげる。
「ほら、靴売り場。行くよ」
わたしは先に一人で歩き出していた。もう連ちゃんのバカ。
その後、連ちゃんは無事に靴を買った様だった。
でもわたしの心は晴れない。本当は連ちゃんと手を繋ぎたい。でも、自分から言うのも何だか悔しくて意地になっていた。今なら穂希がいつも何であんなにツンケンしているか分かる。
そうしたら連ちゃんがこっちにやって来た。
「なぁアヤ。何そんなに怒ってるんだよ」
「べっつに~。怒ってないよ、わたし」
「嘘。アヤ絶対怒ってる。そんなに手を繋ぎたいのか?」
そう言って連ちゃんは手を差し出してきた。
やった!連ちゃんと手を繋げる。しかも連ちゃんから手を差し出してきてくれている!
その事実にわたしは舞い上がってしまう。自分でもチョロいとは思うが相手が好きな人だからこうなってしまうのも仕方がない。
「まぁそれだけじゃないんだけど…。まぁ今回はそういう事にしてあげる」
わたしはまた連ちゃんと手を繋げた。もう今日は絶対にこの手を離すもんか。もっと堪能していたい。
だからわたしはこのまま帰ろうとする連ちゃんを無理やり遮ってこのモールを見て回ろうと提案した。連ちゃんもちょっと呆気にとられた表情になったがすぐにわたしの提案に乗ってくれた。
ここから改めてわたしと連ちゃんのデートが始まる…!
そう思った矢先だった。
急に連ちゃんの様子がおかしくなり始めた。どうしたんだろう?
一瞬心配になったけど、彼の目線の先にあるものを見てわたしは納得せざるを得なかった。
そこには玩具売り場があり、彼が最も愛すると言っても(悔しいけど)過言ではない特撮の玩具も陳列されてあった。
まさか連ちゃん、やっぱりわたしより…。
「ごめん、アヤ!玩具売り場見てくる!」
「あっ…!」
それだけ言うと連ちゃんはわたしの手を振りほどき、一目散に玩具売り場に向かった。
その時の彼は今日一番嬉しそうな無邪気な笑顔だった。
今日は絶対離さないと決めた手はあっさりと離された。
「連ちゃん…」
ただ残されたわたしの悲しいつぶやきだけが宙にこだました…。
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