第15話 休日の朝、従姉と出会う Side綺夏

 今回、次回は13、14話の綺夏視点での話となります。連視点と綺夏視点でどう見え方が違うか楽しんでいただければ幸いです。


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 わたし、芹野綺夏は連ちゃんが昔から好き。大好き。

 

 わたしは自分ではそんなつもりは無いのだけど、どうも周りから何を考えているかよく分からないらしい。だから周りからは扱いにくい子として避けられる事が多かった。今とは全く対照的だ。

 でも連ちゃんは違った。そんなわたしにも「アヤ、アヤ」と来て一緒にいてくれた。わたしは寂しかったんだと思う。だから傍にいて寂しさを癒してくれる連ちゃんをいつの間にか好きになっていた。わたしには絶対必要は存在。それは今も変わらない。



「え?収録の日程が変更?」

「そうなのよ。向こうの都合で急にね」



 土曜日の夜、急に洋子さんから電話がかかってきて明日の仕事の日程が急遽変更になった事を知らされた。アイドルの仕事を始めて3年が経つ。今回みたいな事は前にも何度かあった事がある。この世界、色々あるんだろう。



「という訳で、綺夏。あなた明日はオフだから。まぁたまにはゆっくり休んでちょうだい」

「分かりました」



 洋子さんは「後でキッチリ文句言ってやる」とかブツブツ言っていたが、わたしとしてはラッキーだなと思った。休みになった事じゃない。連ちゃんに会えるかもしれない事にだ。


 「ディーヴァ」のメンバー、水沙と穂希そしてわたしは皆連ちゃんの事が好き。勿論、恋愛的な意味での好きだ。まぁ穂希はともかく流石に連ちゃんの実の姉である水沙も連ちゃんを一人の男の子として愛していると知った時は何となくそうじゃないかとは思ったけど改めて本人からそう言われて驚いたけど。


 そんな2人には悪いけど明日は連ちゃんを独占させてもらおう、水沙は姉弟だし同居しているし、穂希は同学年でクラスも一緒が続いている。わたしは連ちゃんより1歳年上で従姉弟同士で住んでいる家が違う。だからこういう時位良いよね。



「あ、でも…」



 わたしは先週水沙が言っていたことを思い出していた。


 連ちゃんは確かアクションチームに入団した。日曜はショーの仕事で1日中いない事もあるかもしれないと。明日は日曜日。連ちゃんは家にいないかもしれない。なんだ、残念。

 わたしはその時にはものは考えようとこの話については前向きに捉えていたつもりだったが、いざ自分はフリーでも連ちゃんがそうじゃない事実は残念に思った。

 でも、明日一応連ちゃんの家に行くだけ行ってみようかな。ひょっとしたら連ちゃんも休みで家にいるかもしれないし…。


 そんな淡い運命に僅かな期待を込めながら、わたしは眠りに就いた。



 日曜日。時計の針は10時を指していた。


 連ちゃんいるかな?

 わたしは僅かな期待な胸に家のドアを開けたら、丁度家から出てくる連ちゃんが見えた。やった!わたしは心の中でガッツポーズを決めた。はやる心を抑えてわたしは声を掛けた。



「あ、連ちゃん……」

「なんだアヤか」



 最愛の人の声を聴けて浮足立ちそうになる。

 良かった、今日は連ちゃんも休みだったんだ…。連ちゃんとちゃんと会うのも久しぶりだな…。最近仕事が忙しくて学校にもあまり行けてなかったし。こういう時水沙が羨ましい。



「会って最初に言う事がなんだは失礼だよ」



 とりあえずにやけた顔を誤魔化す為に頬を膨らませ怒ったマネをする。にやけた顔を見られるのは何だか恥ずかしい。



「ごめんごめん。でもこんな事言うのアヤと穂希位だよ」

「わたしと穂希位……」



 もう卑怯だよ…。こういう事を何でもない顔をして言っちゃう。特別扱いされてるとハッキリ分かるからこっちはどういう顔をしていいか分からない。とにかく好きな人に特別扱いしてもらえる、連ちゃんにとっては何でもない事かもしれないがわたしにはたまらなく嬉しい。



「アヤ?」


「えっ連ちゃん!何!?」



 驚いた。悶えていたら急に連ちゃんが顔を近づけてきた。

えっ?やだ恥ずかしい…。でも、嬉しい……。



「今日は仕事無いの?姉ちゃんは仕事あるって言ってたけど」



 あ、何だ。その事か。急に自分が恥ずかしくなったけど、そんな表情を連ちゃんに見せるのはもっと恥ずかしい。わたしはなるべく平静を装って答えた。



「あぁ、本当はわたしも仕事が入ってたけど急に日程が変更になっちゃって。それでわたしだけオフになったんだ。水沙はグラビアの撮影、穂希はCMの撮影だって」

「そっか」

「今は何となく外に出ただけ。連ちゃんは?」



 これは嘘。本当は会いたくてたまらなかったから。でもそれをはっきり言うのは何となく気恥ずかしかったから咄嗟に口からでまかせを言った。



「俺は今日は元から現場が無かったんだ。だから折角だし靴を買い替えようかなって」

「ふ~ん、そっか。あ、ならわたし付いていってもいい?」

「アヤが?」

「そう。わたしとじゃ、イヤ?」



 これはチャンスだ。連ちゃんとデートができる願っても無い機会。連ちゃん自身はそんな事全く考えていないと思うが、わたしとしてはそれでも構わない。連ちゃんと一緒にどこかに出かけられる、それ自体が凄く嬉しい。


 でも、連ちゃん微妙そうな顔してる。わたしは連ちゃんと一緒にいたいけど、連ちゃんはわたしと一緒にいるのが嫌なのかな。そう思うと凄く不安になって胸が苦しい。



「別に靴を買い替えに行くだけだよ。付いてきても楽しい事は何も無いけど良いの?」

「わたしは連ちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ」



 これは間違いなく本心だ。

 連ちゃんと一緒ならどこだって楽しい。場所なんて関係ない。大事なのは隣にいるのが大好きな人であるかどうかだ。



「良いよ、ならそれじゃ行こう」

「やった!あ、ごめん連ちゃん!わたし一旦着替えてくるからちょっとだけ待ってて」

「いや別にそれでもいいじゃん」

「連ちゃんの隣を歩くのにこんな格好じゃあ…じゃなくてわたしアイドルだからね。流石にこんなすぐバレる格好だとマズいでしょ?」

「あ、確かに」

「わたしが付いていきたいって言ったのにごめんね。すぐ戻るから」



 わたしはそう言って、家に戻った。

 理由はどうあれ今日は連ちゃんとのデート。目いっぱいお洒落して目いっぱい楽しもう。連ちゃんは用だけ終わったらすぐ帰るつもりかもしれないが、わたしはそれだけじゃ終わりたくない。


 今日元々、仕事をする予定だった相手には感謝しなければならない。直前での日程の変更が無ければこんな幸運に巡り合う事は無かったのだから。


 心を弾ませながら、わたしは部屋に戻り着替え始めた。


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